第71話  帰還は怖い道

“行きはよい、良い。帰りはこわい。”

どこかの歌の童謡のようにジルが「帰り道は、大変だぞ。道なき道を進むこととなる。」

ワカが「ジルの力で空間移動でピューッと帰れないの?」

「ワカ、残念だが、それは無理だ。」

「どうして?」

「はじまりの地、この空間の道では空間移動の力は働かない。そうだな、重力の層が二十、三十に重なり、重くなっている。簡単に言うとブラックホールと同じだ。行き通ったおなじ道だが同じでない。こちらの古代モンズ星への行きは光が導いてくれるが、帰りは無い。真っ暗な中をひたすら歩く。両サイドには底なしの暗やみの世界がおいでおいでと呼び込もうと手を伸ばしている。足をすくわれないように。」

ワカが「ジル、聞いているだけで、帰還の道は大変そうね。私はここ居たい。いてもいい?」

「僕は、かまわないけど、地球に君のいるべき場所に帰って方がいいのでは?とも思うがワカの好きにしていいさ。みんなも今話したように帰還に僕は同行しない。しかし、バルが僕と同じく、君たちを守ってくれる。どちらでもいいさ。選択は自由さ。」

ワカが「みんなには悪いけど、私はここに残る。残りたい。地球とは違うこの空間で生活してみたい。私なんか、単なる地球人、力もなければ特殊能力のない。そんな私が全宇宙のはじまりの星に居られることはとても貴重で特別なことだと思うの。それに、私達地球人は命が、生命体としての時間が短いの。だからこそ自分で選んだ場所で自分の時間を後悔なく、生きたいの。」

僕はワカに「ワカは一番に地球に帰りたいっていうタイプだと思っていたよ。こんなに力強い人間だとは思わなかったよ。」

ワカが「えっ?そう見えてたの?バル。小さい時から私はバルを、君をこれでも守ってきたつもりなんだけどね。」

「わかってたよ。ワカが僕のこといつもお母さんみたいに見守っていたことを。ありがとう。今言うのも変だけど。今、言いたい。ワカ、今までありがとう。」

ワカが少し涙目になりながら「ありがとう。バル。でもこれで二度と会えなくなるって思っていないからね。いつかまた。会おうね。」

僕もカラダの真ん中が震えた。「ありがとう。ワカ。」

ハルトが「僕もここ古代モンズ星に残るよ。僕はワカが好きだから、ワカの役に立ちたいんだ。ずっとワカのそばにいたい。」

僕はハルトに大きくハグした。「ワカを頼む。」「バル任せろ。」

ミリがワカに抱き着く。「ワカ姉さん、本当に帰らないの?」

「そうよ。ここで新しい生活をしたいの。決めたの。ミリは地球に帰還したら、

サッカー部のケンタにちゃんと告白しなさいよ。約束よ。」

ミリは半泣きで「わかった。がんばるね。」またワカに抱き着き泣いている。

そしてルナが「私も、もうカラダが、もちそうもないみたい。できれば、こんなニコニコ顔のお花畑で穏やかに過ごしたい。アン、月人のことは任せたわよ。」

アンも泣きながら「ルナ、一緒に帰ろうよ。ねえ、ルナ。せっかく、やっと会えたのに。」ジルがアンに「ルナのことは任せろ。ここははじまりの星だ。時間がゆっくりと進む。ここにいた方が、ルナのカラダに負担が少ないと思うぞ。」

アンはジルに顔をくっけて「お姉さんをお願します。」深くお辞儀をした。

ポップはここでの珍しい植物や生態系を学びたく残りたそうだったけど、クレアにケル星の生徒が待ってるわよっと言われ、帰還の入口へ。ギルは僕に「バル、お前はここに残るのか?それとも地球に帰還するのかを聞かれ。即答「地球に帰還だ。やるべきことが残っている。ギルも、もちろん帰還だよな。」

ギルがバムを見て「バムは帰還か?」「もちろん、ケル星の父、ケルが待っている。帰還よ。」

ギルも「じゃあ、僕も帰還で。」

僕はジルとエルダ、そして、残るみんなに大きく手を振った。「じゃあ、また。」

僕らは振り返らず、来た道をまっすぐに歩き出した。誰一人かけることなく。僕らはなるべくまっすぐな道を選んで地球の元来た入口へ到着。タクの裏山の滝まで帰ってきた。

脳内にジルの声。”みんな、素晴らし、誰も欠けずに帰還できたのは素晴らしバル、よくやった。”ジルの声が響く。僕は暫し帰還をかみしめたい。

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