第67話  時間が動き出した・パラレル

「ジル」僕は声を出す。ジルが振り向く。

人型ジルの顔がニヤッと笑う。

「やあバル。やっと起きたか。」不敵な笑みと上から目線の言葉。ジルで間違いない。

「ジル、いったいどうなっているんだ。状況が把握できない。僕はほら、この通り小学生になっているし。ワカとハルトが両親?ジルがおじいちゃん?訳が分からないよ。頼むジル。教えてくれ。」

「どうしようかなあ?」「こら、ばかネズミさっさと教えてくれ。」

「ポン。」ジルが人型からいつものネズミに変身した。

「おーう。ジル、それそれその姿だ。いつもの、ばかネズミだ。」

「バル、口が悪いぞ。」「悪い。早く、教えてくれ。」

ジルは庭のガーデンテーブルの上に乗った。「バル、ここは、我々が目指した古代モンズ星だ。」

「古代モンズ星。そうだ、着いたのは覚えている。着いた後、ジルとエルダ、僕と3人は渦、モンズの核に吸い込まれて。」

「そうだ。吸い込まれた。その後、核の渦から吐き出されたあとの世界が今だ。」

「ジル、もっと分かりやすく言ってくれ。なぜワカが僕のお母さんになっているんだ。それにハルトがお父さん。ありえない。なんだ、このシチュエーションは?」

ジルがテーブルの上で腕組をして「この世界はワカの願望の世界だ。ワカはバル、お前の面倒をみたがっている。お前のお母さんになりたいが、この世界さ。」

「ジル、これは現実で、まだ続くのか?」

「お前次第さ、バル。お前が受け入れて良ければ続くし、拒否すればこの世界は終わる。そしてもっと言えばこの古代モンズ星にいる生命体の思い描く願望が世界を造る。そしてその中に必ず、バル、お前が絡む。この世界ではお前は主役だ。何せ、お前はこの宇宙嵐モンズ星の次期王だからな。」

「ジル、なんだかこのヘンテコな状況をお前は楽しんでいないか?」

「もちろん楽しんでいるとも。はじまりの星。俺様は長く一人で無の中で生きていた。その後、自分のコピーのエルダを造り、新たな世界を造りはじめてこの宇宙は広がり続けた。今は個々の望む世界を見てみたい。」

「ジル、そこにエルダもいるな、ばかウサギ。2人とも悪趣味だぞ。」

エルダがテーブルの上で跳ねながら「まあ、いいじゃないか。長い時間を孤独で一人過ごしてきたジルには波風が立つ、生命体の世界、営みは興味深い。のぞき見ぐらいは許されていいと思うし、それにこの世界は幻さ。」

僕は「幻?」

今度はジルが「生命体は現実でも夢の中でも幻でも、自分の願望が叶うとそのことを忘れてしまう。とても儚く愚かな生命体の宿命さ。さあ、バル次は誰の世界に飛ぶんだろな。じゃ、またな。」

「ミンミンミンミーン。」セミが飛ぶ。セミの姿を追って空の太陽を見てしまった。

まぶしい。クラっと頭がふらつく。僕は庭の芝生の上にそのまま倒れこんでしまった。

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