第65話  渦の正体

「あれが宇宙嵐モンズ星の真の姿さ。モンズの核。」ジルが言う。横のエルダが黙ってうなずく。

確かにまわりのふざけた景色と明らかに違う。

みんなにはあの渦、嵐が見えていないようだ。

「ジル、みんなにはなぜ、あれが見えないんだ。」

「アレが見えるのは創設者の俺様とエルダ、そして後継者として俺様が認めたバル。お前だけだ。宇宙嵐モンズ星の次期王だ。」

「ギラル星にいる弟のラコーニにも見えないのか?」

「そうだ見えない。モンズの核が決めたものだけだ。」

「ジル、お前とモンズの核は同一なのか。」

エルダが「バル、いい質問だ。同一だが、同一ではない。確かにあの核はジルがつくった。もちろん俺様もジルから造られた。もちろんお前、バルもだ。

はじまりには終わりがある。終わるのは簡単だ。消滅は他の力を使わずとも自身でできるが、はじまるは違う。”はじまりのはじまり”の起こすのは難しい。できないものたちが大半だ。もちろんこの宇宙はジルが造った。そして長い時間をかけて宇宙は広がり続けた。異なる星、異なる生命体も進化を忘れなかった。それはジルがそうするように生命体を造ったからだ。」

エルダが「こうして、聞くと今更だがジルがすべてを造ったことになる。そうだな、百歩譲ったとしよう。個々の進歩は、進化は個々の脳内エネルギーで考えにより、個々が進むべき道をたどりやがて来る、その個々自身の消滅まで個々の力によるものだと僕は思うが。でないと僕らは、ただのジルの手で造られた人形にすぎない。」

ジルがネズミの姿からまた、人型に変身する。「そうだな。この全宇宙の生命体は、そうだ。バルが言うように俺様の人形だ。ハハハハハ。」

ジルが渇いた笑いをする。無理をしている。「ジル、悪ぶらなくてもいいさ。お前のおバカなおちゃらけのキャラがたぶん、本当のジルだ。そうだろう。」

「そうだな。バルにそう見えるのなら、そうかもしれない。正直なところ、悪ぶるのも王様の地位も神様のような地位もいらない。その通り。のんびり、ふわふわと空間に漂っていただけさ。戦いも競争もいらない。ただ、ただ漂っていたいだけさ。」

後ろの草の上で多種多様な仲間が楽しく騒いでいる。声が響く。

「いいよな。」「そうだ。」「そうだな。」人型僕ら3人のカラダが急にスライムになる。スピードが加速する。

感情がなくなる。消える。カラダが...スピードが光速になる。

3体のスライムがあの渦の中、嵐の中に吸いこまれる。

激しい光、閃光が走る。

モンズの渦、ぬるり。入った感情だけがスライムの僕のカラダに流れ込む。

高速で回転する渦。ちらり、地上の草むらの仲間たちの姿が見えた。

誰もあれだけの激しい光、光線、閃光に気づいていない。

「お前ら、ばかか。」一瞬浮かんだ感情が、すぐに高速の渦にかき消された。

僕は激しい渦の中、スライムの軟体が気化していくのがわかった。思考など、何もない。感覚がなくなる。

「バタン。」

気づくと僕は草むらに寝ていた。ゆっくりと目を開ける。目を凝らす。さっきと同じ光景が見える。みんなが楽しく騒いでいる。ふざけた景色。丸い虹。花にニコニコの顔。花が歌っている。木にもニコニコの顔。上を向く。太陽にニコニコの顔、さっきと同じ景色だ。しかし、太陽が1つしかない。たしかさっきは3つの太陽が。

ここは?どこだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る