第33話:週末テストとアルバイト



 週末にテスト。


 学校の、ではなく、雪人にだけ個人的に、家庭で。


 母達から出された課題。


 科目は、『A』


 ちゅーである。


 アカネに、ちゅーできるか?


 雪人は学ぶ。


 母達から与えられた教本。


 『思春期レッスンA・B・C 全三巻』の内、一巻目。


 ただ、ちゅーについては、あまり詳しく書かれていなかった。


 流れで、ちゅーしてるシーンが少しあっただけ。


 なので、律儀でマメな雪人は、ネットで関連情報も検索。


 しかし。


「んー……よくわからん……」


 混迷。


 現代において、ネット上の情報は過多である。


 さらに、ほとんどが企業広告で、商品の販売サイトへの誘導ばかり。


 本当に必要とする情報を手早く入手するにも、コツと工夫が必要だったりする。



 ちゅー。いや、キス。Kiss。キッス。


 キスにもいろんなやり方、種類がある事が分かった。


 でも、どれが正解なのか解らない。


 全部試す?


 いやいや。


 初歩の初歩なら、ある程度、やり方は限られるだろう。



 それこそ。


 小さなころ、アカネがちゅーちゅー言いながらあちこちキスされたし。


 今でも、頬やおでこにキスされる。


 なんなら、アカネは唇を奪おうとしてくる。


 逃げる。それでもダメなら、なんとか、頬に誘導して、避ける。



 幼い頃はともかく『思春期』を過ぎて雪人からアカネにキスしたことは、無い。


 ある意味、これが、ファーストキスとなると思われる。



「いや、それがテストでって、どうなの?」


 独り言つ、雪人。


 テストでもなければ、との母心おやごころなのか、と思いつつ。



 しかし、何かいい方法は無いか……


 考えてもなかなか思い付かない。



 そうこうしていると、夕食時に母が。


「週末の土日でぇ、雪人からアカネちゃんにぃ、キス、することぉ」


 と、テストの内容が通達される。


「あ、わたしと雪枝さんの見てる前で、してね?」


「!?」


 ますますハードルが上がって、ますます焦る、雪人、でございますます。



 何も思いつかぬまま、土曜日を迎えようとする金曜夜。


 母の一人、美里が。


「ごめーん、雪人ちゃん! 急で申し訳ないんだけど、明日、撮影のアルバイト、入って欲しいのー」


「え……?」


「えええっ! テストはっ! キスはっ!?」


 雪人のキスを待ちわびるアカネが吼えるが、母がそれを抑える。


「ちょぉっと緊急の案件プロジェクトが入っちゃって、販促プロモーション用に急きょ素案イメージ撮りが必要になっちゃったのよ。今回は枚数少ないからすぐ済むと思うし。キスは夜でも大丈夫だよ!」


「アルバイト代、弾むからぁ、よろしくねぇ」


 と、もう一人の母・雪枝も部下・兼・恋人を支援フォロー


「むぅーっ」


 ムクれるアカネはさておき、少しホっとする雪人。


 いや、ただ先延ばしにしただけだろうと思わなくもないが。


 どうせ期限リミットの日曜には。




 そうして迎えた、土曜日。



 兎にも角にも。


 一旦、キスの事は忘れて、アルバイトに専念しよう。


「行ってきます」


 緊急アルバイトに向かおう。





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