第32話:学べ、雪人
寝所を分かち、しばらく。
就寝以外の過ごし方、暮らしには大きな変化は無く。
いや、多少の変化は認められた。
リビングや通学、学校で。
アカネの甘え度が、若干、上昇。
寝所での不足分を、充足するように。
以前より、雪人にべったりが増し増し。
一方で。
独りきりになった事で『メリット』とされた部分を活用するアカネ。
夜、雪人の代わりに。
雪人にプレゼントしてもらった、サメの抱きマクラを相手に。
そのサメの背に抱き着いて。
「ん……この尾びれ、やっぱり良い感じ……でも、もうちょっと固い方がいいかなぁ」
だそうである。
さらに、一方。
雪人の方は、着々と情報処理、プログラミングの学習に専念。
アカネの茶々が入らない分、短時間でも集中して取り組めるようになり、効率が上がっている。
そんなある日、四人そろった夕食時。
「そういえば、雪人くん、一巻、まだ読み終わらないの? わたし、もう二巻三巻、読んじゃったよ?」
「え?」
何の事だ?
ピンと来ていない様子の、雪人。
「ちょ、例の本よ例の」
「例の……」
「思春期レッスン」
「あぁ!」
タイトルを告げられて、やっと思い出す。
「ん……その感じだと、まだ全然読んでないなぁ?」
「……うん」
ちなみに、母達は二人でしっかりとブルーレィ観賞済み。
その母が。
「あらあら、まぁまぁ。抜き打ちテストも出来ないわねぇ」
どうやら、その母の方もすっかり忘れていた模様。
「今週中に読んでもらって、週末にテストしましょうか」
美里ママがフォローする。
「抜き打ちじゃなくなるけど、まぁ、最初は簡単なテストからねぇ」
母からの通達。
「んげぇ……」
普通の学校のテストは苦にならない雪人だが。
「あはは。わたしも一巻も読みたいしねー。早く読んでよね」
「うぅ……了解……」
苦手な物は、苦手。
苦手だから、こそ?
「さーて、どんなテストにしましょうかね、雪枝さん!」
「そうねぇ、『A・B・C』って言うくらいだから、『A』からかしらぁ?」
「ちゅー! ちゅー!」
アカネが唇を尖らせる。
「ぎゃーっ」
寝る前に。
もう一つ勉強項目を増やさざるを得ない、雪人。
件の文庫を取り出して。
ちゅーって言ってたよね?
ちゅーってどうすりゃいいんだ?
よく、アカネにちゅーされる。
ただし、頬やおでこ。
唇に来たら、気合で避けて、頬へ誘導。
ここで言う、言われる、
「ん……むぅ……」
やっぱり、唇と唇、だよね、と。
実際にするのを想像して。
ぼんっ。
ぷしゅー。
「とりあえず、寝よう……」
がんばれ、雪人!
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