第107話

 「エミリー、良かったらこれから俺とダンジョンに行かないか?」


「ダンジョン?

私が?」


「ああ。

そのダンジョンは、回復魔法さえ使えれば、簡単にレベル上げができる。

今なら魔力が満タンだろうし、どうかな?

それに、そこの魔物は金貨をドロップする。

孤児院の資金にして良いぞ?」


「行く!」


「修、私も行きたい」


「構わないぞ。

ミウも回復魔法が使えるしな」


「ではミーナさん、私達は『ゴブリンダンジョン』に行きませんか?」


「『ゴブリンダンジョン』、ですか?」


ミーナが首を傾げる。


「修様の命名ですが、そこの1階層はともかく、2階層からはゴブリンの上位種しか出ないのです。

ミーナさんは王立学院を受験すると聞きました。

そこの実技試験をクリアするためにも、今からレベル上げをしておいた方が無難です」


「分りました。

頑張ってみます」


「サリーさん、私も付いて行って良いかしら?

久し振りに実戦に参加してみたいの」


「勿論です。

是非ご一緒に」


「あ、そうだ。

エレナさん、君にサリーからの贈り物です。

『エメラルドの杖』

以前彼女が手に入れたのを預かってました。

もう『アイテムボックス』が使えるだろうから、渡しておきますね」


「『エメラルドの杖』!?

そんな高級品を!?」


「知ってるんですか?」


「魔術師なら誰でも欲しがる一級品よ。

ギルドでも極偶に入手依頼が入るけど、先ず達成されないわ。

王都のオークションだと、白金貨1枚の値が付くこともあるの」


「じゃあまた入手したら、その額で俺が買い取りますので。

ミウやエミリー、ミーナにも渡したいし」


「修さん、私にはそんな高価な品、勿体ないですよ。

まだ使える魔法も少ないですから」


「魔力量はもうかなりあるんだし、魔法はその内、俺かサリーにでも教われば良い。

それにミーナには、できれば近接戦闘も覚えて貰いたい。

何時か、家族皆でダンジョン攻略してみたいから」


「それは楽しそうですね。

分りました。

頑張ってみます」


「ああ、そう言えば、皆の戦闘装備を俺が予め設定できるんだった。

それをしておくと、いちいち装備の着脱をせずに、念じるだけで瞬時に切り替わるらしい。

どうする?」


「何それ?

修君、本当にでたらめね」


「あ、でもその前に、防具を買いに行かないと駄目か。

ミーナやエミリーは、多分持っていないよね?」


「はい」


「ええ」


「修様、手持ちの装備に、ダンジョンや迷宮でドロップした物はないですか?」


「ん?

装備品はまだないな。

拾い物の中にはあるかもしれないが・・」


「一応探してみてください。

『鑑定』をお持ちの修様なら見分けがつくはずです」


「でも何で?

新しく買った方が良くない?」


「「「・・・」」」


サリー、ミウ、エレナさんから若干呆れたような目で見られる。


「修様、ダンジョンや迷宮でドロップした品は特別なんです。

鍛冶屋や職人が作成した防具類は、通常、それを頼んだ人しか装備できません。

サイズが合いませんからね。

既製品なら融通が利きますが、その分、フィット感が今一つです。

ですが、ダンジョンなどでドロップした装備には、自動拡張、自動収縮機能が付いていて、誰でも身に付けることが可能なのです」


え、マジ!?


俺、今まで適当に下げ渡していたけれど、もしかしてその中にあったりして・・。


「何を考えておられるか分ります。

ご安心ください。

ドロップした物であるなら、その装備類は錆びたり劣化したりは致しません。

汚れることはありますが、それすら手入れをすれば落ちます」


良かった。


俺が鍛冶屋に下げ渡したの、全部錆びたり劣化した物ばかりだし。


念のため、【アイテムボックス】内を探してみる。


そうしたら、カタログ化した在庫リストの中に、2つ程、右下にNのアルファベットが入った革の鎧があった。


それらを出してみる。


「これとこれがそうかもしれない。

何だかNのマークが入っている」


「それです!

そのマークは、当該装備品のランクを表しています。

学説によると、装備品のランクはN、R、SR、SSR、URと5段階あって、URは神器に等しい能力が在るともいわれています。

尤も、SSRとURは伝説上の装備で、歴史上、まだ誰も見たことはありませんが」


「・・そうなんだ。

じゃあこの革の鎧は、ミーナとエミリーに渡すよ。

エレナさんは装備を持ってます?

もし手持ちがないなら、エレナさんのは取り敢えず防具屋で買って、今度ドロップ品を入手した時に渡すから」


『修君は領主で夫なのに、私に敬語を使うのは変よ』というエレナさんの要望で、彼女に対しても丁寧語で話すことにしてある。


「大丈夫よ。

騎士団時代のは返却したけれど、それ以前に買った、革の装備があるから」


その頃とは、胸の大きさが違うんじゃ・・。


「分りました。

ではサリー、そちらは君に任せる。

ミーナとエレナさんを頼む」


ポーションを3つ渡しながらお願いする。


「畏まりました」


「それから、これ、『アンデットキラー』という長剣。

2本入手できたから、1本を君にあげる」


「!!!。

・・修様、これは『エメラルドの杖』より高価ですよ?」


「Rの印が付いているから、そうなんじゃないかと今思った。

でもそれ、多分人数分は手に入るから」


「それでしたら遠慮なく」


「エミリーには『銀の杖』もセットしておくね。

ミーナの得物は何にする?」


「取り敢えず短剣を使います」


「了解。

それもセットしておく」


サリーとミウのは知っているので、得物以外は勝手に入力した。


「では準備が整い次第、出発してくれ。

夕食の時間に遅れないように気を付けて」



 「ここがダンジョン。

・・魔物が多いね」


初めて入るその場所に、エミリーが恐る恐るそう呟く。


「君は遠距離から『ヒール』を使うだけで良い。

俺達が近寄らせないから安心して」


「うん。

頼りにしてる」


「修のお陰で魔力が溢れそうだから、ガンガン狩るね」


ミウが早くもゾンビ達を消していく。


最初は恐々こわごわだったエミリーも、慣れてくると落ち着いて倒せるようになった。


「あ、金貨を落とした」


ミウが倒したゾンビが、1枚の金貨をドロップする。


「!!」


それを見たエミリーが、更にやる気を出して1階層のゾンビ達を蹂躙する。


でも残念ながらそれ以上は落ちず、2階層へ。


「もしここで『アンデットキラー』を入手したら、俺が金貨60枚で買うから」


護衛と言う名の傍観者である俺が、2人にそう告げる。


それを聴いた2人は、凄い勢いでハイスケルトンに『ヒール』を連発する。


100体くらい居たはずの魔物が、30分も掛からずゼロになった。


だがしかし、何も落とさない。


「残念」


エミリーが悔しそうにそう口にしたその時、1体の魔物が湧いた。


「!!!」


その魔物は、スケルトンでありながら、胸当てと短パンを身に付けている。


まるで、生前は大胆な女性であったかのように。


「2人共、あれには手を出さないでくれ!」


そう口にすると、俺は透かさずその魔物の前に出る。


相手の攻撃を躱しながら、慎重に手加減したボディブローを当てていく。


『名称:スケルトンレディ(SR)

ランク:F

ドロップ:アンデットキラー(SR)』


SRの『アンデットキラー』は魅力だが、もう二度と出会えないかもしれない彼女のために我慢する。


従属を迫っていた時、何となく相手の声が聞こえたような気がした。


『お前の強さが知りたい。

一撃で良いから当てさせろ』


そう言っている気がして、俺はその要求に応え、動きを止める。


鋭い袈裟けさ斬りを浴びたが、当然、今の俺は傷一つ負わない。


『納得した。

お前に従うよ』


剣を下ろした彼女は、俺を抱き締めるようにして消えて行った。


【魔物図鑑】を開くと、該当箇所に彼女の姿が。


それに、【アイテムボックス】に入荷を知らせる表示がある。


『アンデットキラー(SR)』


その説明には、『Fランクまでのアンデットを瞬殺する』とあった。


「修、今のは何だったの?」


テイムを見たことがないエミリーが、不思議そうに尋ねてくる。


「俺の仲間が増えたんだ。

それに彼女が凄い贈り物をくれた。

出会えたのは2人のお陰かもしれないから、エミリーとミウには其々金貨50枚ずつ渡すよ」


「「!!」」


喜ぶ2人を見ながら、今日はここまでにしておこうと考える俺だった。

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