第106話
地平線から顔を出した太陽が、家々の屋根くらいまで昇ってきた頃、俺は小さく窓を開け、女性達の甘い体臭と性臭に満ちた室内の空気を入れ替える。
背後にある3つの特大ベッドには、髪を解れさせ、全裸のだらしない姿で熟睡する5人の姿がある。
あの後、目を覚ましたサリーも加わり、誰か1人を陥落させても、それまで休んでいた女性がそこに参加して、結局俺はほぼ休みなく戦い続けることとなった。
回復魔法があると、こういう時に大変なのがよく分った。
眠気という、回復魔法ではどうにもならないものが訪れないと、彼女達はまるで不死者のように襲ってくる。
魔力の濃度をかなり高めて攻めれば良いのだが、このイベントは普段彼女達にお世話になっている俺の感謝の印でもあるから、そういう無粋な真似はしなかった。
目覚めたサリーから少し抗議を受けたが、『教育的指導』だと告げて納得させた。
それにしても、夜通し繰り広げられた彼女達の痴態は凄かった。
最初こそ大人しめであったが、興が乗り、快楽に溺れてくると、女性同士でもキスを交わすようになり、俺の体液を交換し合ってもいた。
漫画で見るより物凄くエロいし、非常に興奮する光景ではあるが、こんな性行為をしていたら、最早普通の行為に味気なさを感じてしまうのではないかと
でもきっと、止められないんだよね。
一度知ってしまったら、もう二度とそこから抜け出せない類のものだ。
あんなミーナやエレナさんの顔を、一体誰が想像できるだろう?
孤児達に接している優しげなエミリーの姿や、普段俺の代わりに家の一切を取り仕切る、凛としたサリーの表情から、どう考えたらあの光景を思い浮かべられるのか?
向こうの世界のサブカルチャーにでも接していない限り、ほぼ不可能だと思う。
それでいて、全く品のなさを感じさせないのが彼女達の凄い所だ。
エロいとか美しいとか感じることはあっても、負のイメージは一切涌いてこない。
窓枠に停まった小鳥が、餌を求めるようにさえずる。
【アイテムボックス】から小さなお菓子を取り出して、そっと側に置くと、それを何度か
浴室で髪と身体を洗った後、珈琲を淹れてゆっくりと楽しむ。
その香りと共にクリアになっていく頭で、今日の予定を考える。
女性陣は今日は全員がオフだから、先ずエミリーをあそこに連れて行こう。
それから、ゼオより先の村や町を偵察し、場合によっては占領する。
もうそろそろ、帝国から何らかの反応があってもおかしくない。
ニエの村にも寄って、俺の自治領になることも伝えないと。
『ゾンビダンジョン』でドラゴンゾンビが湧いているかも確認し、定期的に挑戦して『毒耐性の書』を人数分集めないといけない。
結構やる事は沢山あった。
女性陣が目を覚ますまでにはまだ暫く時間が掛かりそうなので、『ゾンビダンジョン』から始めることにして、そこでふと思い出す。
そう言えば、エレナさんの有給届もギルドに持っていかないといけない。
彼女が休憩中に書いた物を預かったのだ。
レッドスライムを護衛に置いて戸締りをすると、早速ギルドに足を運んだ。
ドラゴンゾンビは涌いていたが、残念ながら今日はドロップしなかった。
2階層で『アンデットキラー』を集めながら再度湧くのを待っていたが、どうやらそんなに直ぐには涌かないみたいだ。
諦めてニエの村に行き、留守番していたタナさんに、もう直ぐここが俺の自治領になる事を告げる。
驚いたタナさんは、その足で村長さんを呼びに行き、3人で話をした。
茶菓子を食べながらのものだから、そんなに固い話ではない。
その内容は、これまで15パーセントだった税率を10パーセントに落とし、それを形式上は領主である俺が徴収するが、実質的には全てこの家で収めて貰うというものだ。
村長さんは、『それはさすがに君に申し訳ない』と固辞しようとしたが、『実は、昨夜正式にミーナさんを妻の1人に迎えましたので、これはその妻に対する贈り物です』と俺が説明すると、『・・有り難う』と言って涙ぐんだ。
タナさんは、『婿殿は一体何処まで豪気なんだろうね』と笑っていた。
俺達の婚姻を村でも祝って貰うために、グレートボアの死体を2体出し、玄関先に置いて帰る。
家に着くと、女性達が皆で入浴している最中だったので、珈琲を飲みながら待ち、出て来た彼女達が髪を乾かす間に、ずっと考えていた事を告げる。
「今回、正式に皆と婚姻を結んだ訳だけど、俺から1つお願いがある。
正妻は置かず、皆を同じ妻の1人として扱いたい。
その理由は、俺は別に貴族でもないし、皆をランク分けするのも変だと思ったからだ」
向こうの世界と違って、こちらは別に一夫一妻制ではない。
女性が家長の場合、夫一人と、後は全て愛人という形もある。
特定の宗教を除けば、現代では先進国のほとんどが一夫一妻制を取る向こうの世界なら、遺産相続やパートナーの社会的地位によって特別な恩恵を受けることがあるから、正妻という地位にはそれなりの理由がある。
だがこちらでは、主に貴族の当主を継ぐ継承権の順位くらいにしか、正妻という地位は影響を及ぼさない。
それなら、敢えてそんなものを付けて区別しなくても、皆同じで良い。
ただ、唯一の貴族出身であるサリーには申し訳なくもあるが、彼女が俺の片腕なのは変わらないし、その意味で優先的に強くなって貰うから、それで許して貰おう。
「え?
・・サリーさんは正妻にすべきじゃないの?」
エレナさんが少し戸惑う。
騎士団で貴族と接してきた彼女には、俺の考えは意外でしかないらしい。
「私も、サリーさんだけは特別だと思います」
ミーナが意見を言う。
「そうだね。
サリーは特別視しても問題ない」
ミウもそう告げてくる。
「サリーさんは修に代わってこの家を取り仕切ってる人だし、相応の地位に就けないと失礼なんじゃないかな?」
エミリーも俺の考えに反対した。
あれ?
皆を平等に扱おうとした俺がおかしいのかな?
「私は修様のお考えに従います」
サリーだけがそう言ってくれる。
「駄目だよサリー。
こういう事はきちんとしておかないと後々問題になる」
ミウがサリーの言葉を否定する。
「そうですよ。
修君は自治領の領主として、今後は各国のトップや重鎮達と会うことになる可能性が高い。
その時、必ずと言って良いほど晩餐会が開かれます。
既婚者であるなら、そこに正妻を伴うのは、ある意味義務です。
古く歴史ある国ほど、そういった慣習にはうるさいですから」
「修、身分の高い人ほど、その妻達にもきちんとした役割があるんだよ。
慈善事業の参加なんかが良い例だね。
そんな時、妻の皆が同じ立場だったら、一体誰に願い事を伝えれば良いのか迷う人が出る。
伝えた相手によって、その成就に差が出ないか不安を感じる人が出る。
多くの女性を妻に娶るつもりなら、せめてそのトップは決めておくべきだよ」
エレナさんとエミリーに、そう忠告される。
「皆を平等に扱ってくださるという修さんのお気持ちは嬉しいのですが、それが
領主の妻になるとはいえ、私は平民であり、農家の出身です。
そんな私が、貴族が集う場に出て、他の皆さんと同等の扱いを受ければ、必ず何処かで批判されます。
・・修さんのお考えは、私達、家族の間だけで共有できれば良い。
それで十分幸せです。
ですから、対外的にはサリーさんを正妻として立てて、日頃の彼女の労力に報いるべきです」
ミーナが真剣な顔でそう言った。
「・・分った」
ここまで皆が反対するなら、無理して俺の考えを押し通す意味は無い。
確かに、他人の考えはどうであれ、俺達だけがその意味を分かっていれば済むことだ。
大事なのは、俺達の気持ちだからな。
「サリー、決して君を
そして改めてお願いする。
俺の正妻として共に歩んでくれないか?」
俺に答える前に、彼女は他の4人の顔を見た。
「皆さん、本当にそれで良いのですか?」
4人が一斉に頷く。
「サリーしかいないじゃん」
ミウが嬉しそうに笑う。
「修様、私で宜しければ、先程のお申し出を喜んでお引き受け致します」
「有り難う。
皆も本当に有り難う」
俺はもうボッチじゃないし、自分一人の考えだけでは回らないこともある。
今回は、それを学ばせて貰った。
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