第104話

 「紹介しよう。

この王都を護る騎士団のトップ、ランドと、王宮魔術師の頂点、レミアだ」


「ランドと申します。

本日は胸をお借り致します」


20代前半の品の良い男性が、俺に頭を下げる。


「レミアです。

あなたの実力がどれ程のものなのか、非常に楽しみです」


20代後半の女性がにっこり笑ってくる。


「西園寺です。

手加減するので死にはしないでしょう。

そちらにヒーラーも控えているようですしね」


宰相の隣に居る30代くらいの女性に目を遣る。


2人の能力をざっと見たが、アイリスさんと同等か、魔法に関してだけ少し高いくらいでしかない。


レミアさんの目つきだけが鋭くなった。


「ルールは簡単だ。

どちらかが降参するまで。

武器は刃を潰した鉄剣か木剣、杖に関しては自由。

西園寺君1人に対してこちらは2人で戦うが、問題ないかね?」


「問題ありません」


「では、・・始め」


騎士団の訓練場で開始された模擬戦は、物の1分で方が付く。


俺の拳にランドさんが吹っ飛び、その蹴りにレミアさんが肋骨を数本折りながら転がって行く。


「「「・・・」」」


この2人は、俺の動きに全く対応できていない。


呆然としていた3人の見物客の内、ヒーラーの女性が慌てて治療に駆けつける。


ランドさんの治療に少し時間が掛かっていたので、血を吐いているレミアさんの方は俺が治療した。


「男性なのに回復魔法を・・」


レミアさんがそう呟き、国王ら3人は目をいている。


「次は俺からは攻撃しません。

防御しか取らないので好きに攻撃してください」


「ご配慮感謝致します」


鉄剣を構えたランドさんが斬り掛かってくる。


アイリスさんより少し遅いが、その分、攻撃に重みがある。


その剣を素手と体術で躱すこと約10分。


俺に一撃も当てられない彼は、静かに剣を下ろした。


「・・参りました」


「今度は私が!」


杖を構えたレミアさんが、周囲に影響を及ぼさない範囲で魔法を連発してくる。


そしてそれを俺は避けない。


属性を変えながら、何十発も魔法を放ち続ける彼女の顔が、どんどん強張っていく。


「・・参りました」


項垂うなだれて、杖を下ろす彼女。


「それまで」


国王の言葉が、訓練場に静かに響いた。



 「約束の報酬だ。

金貨300枚入っている」


応接室に戻り、また俺達3人だけになって、会話を始める。


「有り難うございます」


「それから、是非君と軍事同盟を結びたい。

その際、ニエの村を自治領として君に差し出す。

カイウンには、王家で何らかの補償をする。

考えてくれないか?」


「条件があります。

俺が貴国を助けるのは、相手が先に攻め込んで来た場合のみ。

こちらからの侵略戦争には加担しません。

また、そちらの指揮権にも入らない。

それで良ければ・・」


「その条件で良い。

直ぐに文書を作成しよう」


宰相が、予め準備していたとしか思えない手際の良さで、書面を提示してくる。


内容を確認し、俺が言った文言に間違いがないのを確かめると、こちらと向こうの保管用の2枚に、お互いにサインした。


「時に、文官は足りているかね?

もし必要なら、君の好みに合わせた女性を派遣するが?」


「・・今の所、間に合ってます」


苦笑すると、その場を後にした。



 「彼をどう見た?」


修が去った部屋で、国王が宰相に尋ねる。


「化け物と言うしかないですな。

模擬戦を非公開にして正解でした。

あんな光景を他の騎士達に見せたら、意気消沈してしまいます」


「本当になあ。

よくあんな化け物が人知れず隠れていたものだ。

カイウンとマリアには感謝しないとな。

他国に先んじて関係を結べて良かった」


「ただ、あまり欲が無いのが残念でしたな。

権力や女性で済む相手なら、こちらも楽でしたが」


「カイウンによると、彼の側には相当な美女が控えているらしい。

色仕掛けは恐らく通じないと書かれていた」


「だから陛下もご息女を無理に勧めなかったのですね」


「ああ。

彼の不興だけは買いたくない。

それに、うちの娘達はあまり胸が大きくないのだ」


「それ、彼女達に絶対口にしてはなりませぬぞ」


「分っておる。

只でさえ今は反抗期真っ盛りなのだ」


「・・娘を持つと苦労しますな」


「ああ、お互いにな」



 家に帰ってから『ヤギン商会』に書簡を届けると、もう夕食の時間だった。


ミーナを迎えに行き、いつもの店で夕食を取る。


皆が歓談しながら食事を取る様子を眺めながら、俺は国王に言われた事を考えていた。


『その女性達と早く婚姻を結ぶべきだ』


そうだよなあ。


いつまでも中途半端な関係のまま、彼女達を抱き続けるのも無責任だしな。


向こうの世界なら、まだ全然そんな事を考えずに相手していけるのだが、こちらの婚期は随分と早い。


十代後半で結婚するなんて珍しくもないのだ。


『よし、決めた。

近々彼女達にプロポーズしてみよう。

・・まさか断られないよな?』


そう考えた時、メールが届いた。


自動で開かれたそこには、こう書かれてあった。


『 特別イベント

『結婚システム』が開放されます。

このシステムはあなた専用で、対象女性のあなたに対する好感度が一定の水準を超え、尚且つその女性の純潔を散らし、『念話』を覚えさせた相手に限り、婚姻を結ぶことで特典が享受できます。

その1つ目は、『マリッジリング』の作成。

このリングは女性だけに与えられ、その機能として以下のものがあります。

A:あなたが作成した転移魔法陣を、あなた無しで何度でも無料で使用できる。

  但し、その女性のみに限ります。

  あなたのように、他者を転移させることはできません。

B:Eランクの『アイテムボックス』が使える。

  このランクは固定で、あなたのようにシステム化した【アイテムボックス】とも異なり、成長しません。

  何故なら、これはスキルではなく、リングに付属する機能だからです。

  当然、スキル欄にその記載もありません。

C:その女性の戦闘装備をあなたが予め設定できるようになり、設定された女性は、    戦闘時に念じるだけで瞬時にそれらを装着できる。

  勿論、その逆も可です。

D:このリングはその女性のみが使用でき、他者には使えません。

  また、自動的に装着された後は、その女性が死亡するか、不貞を働かない限り、 

外れることがありません。

  外れたリングは、その中身と共に、あなたの【アイテムボックス】に収容されます。

2つ目の特典は、『どっちにするの?』でスキル設定をした相手があなたの持つスキルの何れかを入手した際、代わりにあなたはその女性が持つレアスキルの何れかを習得できます。

勿論、まだ入手していないレアスキルのみです。

そのランクは、女性があなたから得る条件と同じ、Kからスタートします。


 尚、ここで言う『婚姻を結ぶ』とは、お互いの口頭によるものではありません。

あなたが対象となる女性を抱いた時、脳内に表示される選択肢で『結婚を申し込む』を選択し、その女性が同じく脳内でそれに同意した場合に限ります。

資格の無い女性を抱いてもこの選択肢は出ませんが、資格ある相手を抱いた場合、『一旦保留にする』を選ばない限り、何度でも出現します。

保留期間は1年で、その都度更新可能です。

但し、もし1度でも『結婚を申し込まない』を選んでしまうと、その女性を相手にしても、もう二度と選択肢が表示されませんので十分にご注意ください。


 以上、この世界を満喫するあなたへの贈り物でした。 』


「・・・」


ここまでサービスしてくれるなんて、もしかしてこの世界も少子化が進んでいるのかな?


いや、そんな事ないか。


重婚し放題だもんな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る