第103話

 カイウンさんの屋敷と『ヤギン商会』を回り、依頼の書簡を受け取った後、直ぐに王都に跳ぶ。


先ずは『グラン商会』に寄って書簡を渡し、会長さんからサインを貰う。


だが何故かそこで少し引き留められ、お茶とお菓子を頂いた20分の間に『ヤギン商会』からの書簡に目を通したらしい会長さんから、今度は『ヤギン商会』宛の書簡を届けるという依頼を金貨50枚の報酬で受けた。


その後、王城へと足を運んだが、門番の人に色々と質問されたり待たされたりして、宰相を名乗る人に取り次いで貰うまでに2時間も掛かった。


いい加減我慢の限界だったが、依頼でもあり、エレナさんにも先日注意されたから、どうにか耐えた。


「お待たせして申し訳ない。

陛下に内容を確認して貰うまでに時間が掛かってしまったのだ。

この通り、心からお詫びする」


初老の男性が、応接室で俺に頭を下げる。


本来なら、大国の宰相が一冒険者に頭を下げたりしない。


つまり、届けた書簡の中に、俺の地位に関する事が記されていたということだろう。


勝手に作った自治領ではあるが、たった1人で帝国軍を打ち破った俺を敵に回すのはまずいとでも判断したのか。


若しくは、カイウンさんが絶対に俺と敵対するなとでもしたためたのか。


「依頼だから我慢しましたが、もう帰ろうかと思ってました。

大体、届けた書簡が大事な物であるのは、裏面の印章を見れば分るでしょう?」


「それはそうなのだが、高位貴族からの書簡は、必ずそこに仕える騎士や役人が持って来るものだ。

それを貴族でもなければそこに仕えてもいない平民が持参すれば、何かしらの疑いが掛かっても仕方がない。

只でさえ陛下宛の代物なのだからな」


「じゃあ門番には俺の顔を覚えさせてくださいね?

多分ですが、今後もカイウンさんから依頼を頼まれることがあるでしょうから。

次に同じ事したら、力ずくでここまで来ますよ?」


「・・分った」


「そう彼を虐めないでくれ。

今回の件は私も悪かったのだ。

どうせまたマリアの近況報告だとばかり思っていたから、目を通すのが遅れた」


「陛下」


「君が西園寺君か。

文面通り、随分と若いな。

私がリンドル王国国王、アレキサンダ―・ハーマス・リンドルだ」


「初めまして。

西園寺修です」


ソファーから立ち上がり、自己紹介する。


別に家臣でもなければ国民でもないので、それ以上の礼儀は払わない。


「早速だが、ゼルフィードからここまで1日で来れるというのは本当なのか?」


お互いが腰を下ろすと、国王が尋ねてくる。


「本当です。

お渡しした書簡は、今日の昼頃に受け取った物ですから」


「「!!!」」


「本気で走ればそのくらいできますよ」


「・・まあ、手の内はそう簡単に晒さないよな。

ではこの国最強と言うのは?」


「それは俺自身が公言している訳ではありません」


「アイリスより強いと書かれてあったが?」


「逆にお尋ねしますが、彼女、そんなに強いですか?

ゼルフィードではこれまで1番だったようですが・・」


「彼女は強い。

恐らく、この国でも5本の指に入る」


「この国、大丈夫ですか?」


「「・・・」」


「帝国軍と1人で戦って、町を2つも奪ったそうだな?

帝国と戦争するつもりなのか?」


「別に帝国全土を侵略しようとは、今の所、考えてないです。

大事な人達を護ろうとしたら、結果的に領土が広がっただけなので」


「単刀直入に尋ねる。

この国とも戦うつもりか?」


「俺の大事な場所に手を出さないなら、何もしません」


「大事な場所とは何処だ?

ゼルフィードか?」


「ニエの村です。

恋人の実家があるので」


国王が宰相に目配せする。


宰相が黙って頷く。


「君は既に妻を娶っているのかね?」


「まだ未婚です。

ですが、その候補者は今現在5人いるので、積極的には募集しません」


「そう考えるなら、その女性達と早く婚姻を結ぶべきだ。

そうしないと、今後君への縁談話が殺到するぞ?

私だって君と縁を繋ぐためなら、娘の2、3人は用意する」


「勘弁してください。

ですが、ご忠告は有難く受け入れておきます」


「大分君の時間を無駄にさせてしまったが、まだ時間はあるかね?

お礼はするから、うちのナンバー1とナンバー2に稽古をつけてはくれまいか?

私自身も、君の実力を見てみたい」


「・・1時間だけなら」


「有り難う。

直ぐに準備させる」


宰相が部屋から出て行く。


「・・時に、どんな女性が好みなのかね?」


「頭と性格と容姿が良いのが大前提で、胸が大きい事も外せません」


「・・さすがに要求が高いね。

能力は?」


「知能以外の、戦闘力やスキルのことを言っているのなら、それは別にどうでも・・」


「全く求めないのかね?」


「ええ。

恋人の1人は、出会った時、魔法も使えない農民でした」


能力は、俺との魔力循環でどうとでもなる。


「・・・。

君、今度王家主催のパーティーに出てみないかね?

つまみ食いでも、相手が了承したなら問題ないぞ?」


「さすがに、それを国王であるあなたが言ったら駄目でしょう。

それに、恋人の1人に帝国の元伯爵令嬢がいるのですが、その娘が『社交界は腹の探り合いばかりでつまらない』と言っていたので」


「だがもう締め切りな訳ではないのだろう?

『英雄色を好む』とも言うしな」


「そういう陛下はどうなんですか?

妃を何人お持ちで?」


「8人いるが、さすがに(年齢が)30を超えると毎晩はきつい」


「じゃあこの国は暫く安泰ですね。

帝国みたいに継承権争いもないのでしょう?」


「幸い、王太子がそれなりに優秀だからな。

娘は7人いるが、息子は3人しか居らんし。

・・君に子供は?」


「まだ居りません」


「失礼致します。

準備が整いました」


ノックと共に、ドアの向こうから宰相の声がする。


「では行こうか」


「今更ですが、護衛を付けていないのですね」


「カイウンからの書簡に、君と会う際は護衛を外した方が良いと書かれていたからな。

当然、普段は付けている」


カイウンさん・・。

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