第102話
「西園寺君の交友関係の調査について、何か進展はありましたか?」
迎えの車に乗り込んだ美麗は、いの一番に竜崎に尋ねる。
「申し訳ございません。
かなり念入りに調べておりますが、ほぼ毎日、自宅と学校の往復だけで、あとは朝食や夕食、日用品を購入する商店街だけにしか立ち寄らないそうです。
そこで彼が接する従業員についても調べがついておりますが、顔見知りの人間は、40代と50代の既婚のパート女性3人や、アルバイトの男子学生の他には居りませんでした。
不定期にシフトに入る女子学生が2名居りましたが、彼との接点は低く、業務上の会話以外はしないそうです」
「・・そうですか」
美麗は思考に沈む。
彼が女性の扱いに
今朝のキスだって、2度目であるはずの彼にあんな技術があるはずないと思ったが、本当にメディアから学んだだけなのだろうか?
彼が誠実で嘘が苦手な人物であることは、そのご両親亡きあと、誰よりも自分が1番よく知っている。
本当に気のせいなのかもしれない。
今日の告白でオーケイを貰えたし、今後は彼の彼女(婚約者)として付き合っていける。
遊び程度の存在なら、仮に居たとしてもどうとでもなる。
それに、そういう相手が居たとしたら、彼の性格上、彼女になった私に黙っているはずがない。
彼に内緒で身辺調査をするのは、何だか彼を疑っているみたいで少し気が咎めるし、一旦調査を打ち切ろう。
「彼に関する調査ですが、一旦打ち切ります。
今後はこれまで通り、身辺警護だけにしてください」
「畏まりました。
校内と校外の撮影班は如何致しますか?
担当者によると、時々カメラに視線が向けられるそうですが、十分な距離を取っているため、さすがに気付かれてはいないだろうと判断しているそうです」
「そちらは継続してください。
私と一緒の時以外で、彼が輝くシーンがあれば、見逃す訳には参りません」
「その撮影班より、グループ企業が開発した最新式の機材の納入希望が提出されておりますが?」
「許可します」
「畏まりました」
デート、何処に行こうかな?
帰宅し、必要なことをこなしてから、パソコンの前に座る。
『ログイン』すると、早速大森林の探索に出ようとして、そこで気付く。
『ゾンビダンジョン』に2度目の短剣スキルを使ってしまったから、このまま大森林の探索を進めても、転移魔法陣を新たに設置できない。
少し考えて、矢がまだ残っている事を思い出し、ゼオから先の森林で、魔物相手に弓を使うことにした。
ゼオでの攻撃の際、300本の矢を消費したが、その内の約半分は回収できたので、手元にある矢の在庫は約350。
今回は倍の経験値を要求されるから、250本ほど矢が足りないが、深夜なので武器屋で調達することもできず、取り敢えず現地に向かう。
音を立てずに屋敷から出て、玄関の鍵を開けたので不審者対策にエルダーウルフを残し、防衛線のさらに先に在る森林へ。
単にスキルを得るための狩りだから、魔物の強さに関係なく弓を射る。
ゴブリンなんて倒したのは何時以来だろう?
これとオークはレッドスライムに処分させ、ハイオークとグレートボアは回収して進むこと約2時間、巧妙に隠された洞窟を見つけた。
『マッピング』上には、魔物ではなく人の存在が複数表示されている。
入り口付近に男が1人居て、居眠りをしている。
矢を
「ぐっ」
ほぼ即死状態の男の死体をレッドスライムに任せ、洞窟の中に入って行く。
奥行きはそれ程なく、20メートルも進むと広場があり、そこに男女十数人が雑魚寝している。
赤く映らない奴を探したが、1人もいなかった。
男女関係なく、そいつらの首か胸を狙って矢を放つ。
途中で5人が起きたが、蹴りで片付ける。
死体から矢を抜き、あとはレッドスライムに任せてお宝を探す。
金色の点がある場所を掘ると、小さな宝箱が出て来て、その中に金貨や銀貨が入っている。
【アイテムボックス】に入れると、43万6400ギルと表示される。
死体を全て処理したレッドスライムからは、指輪や短剣が吐き出された。
因みに、このレッドスライム、ランクが既にGもあり、大きさはキングスライムの約2倍。
大の大人をすっぽり包んでもまだ余裕がある。
Hランクの魔物の死体なんかも手当たり次第に処理させていたからだろうか?
更にこのスライム、何時の間にか『アイテムボックス』のスキルを得ている。
死体から回収した物をそこに溜め込み、俺の前か、【魔物図鑑】に回収後、【アイテムボックス】内に吐き出している。
従魔にした時はまだMランクだったのに、随分と成長したものだ。
その後も2時間ばかり、矢を射っては回収する、まるで貧乏な初級冒険者のような探索を続け、どうにか代償となる2回目の弓スキルを得た。
夜が明け、俺達が使用する帝国用の偽造身分証を作って貰うべくゼオの屋敷に戻ると、ちょっとした騒ぎになっていた。
エルダーウルフが俺の従魔だと知らない屋敷の者達が、玄関を塞ぐように座っている彼の存在を遠巻きに眺めていた。
その中にセレンが居たので、俺が頼みと共に従魔の存在を説明すると、『身分証と一緒にこの屋敷の合鍵も作製して、西園寺様のお部屋に置いておきます』と微笑まれた。
ミーナを送り届けた後、更に予備の代償を作るべく、カコ村へ跳ぶ。
村の直ぐ側の空き地に、向こうの世界の競馬場を参考にした、馬のトレーニング施設を造るためだ。
1周で2400メートルくらいの楕円形の敷地になるよう、荒れ地を整備する。
雑木を切り倒し、切り株を引っこ抜き、岩や小石を除去する。
その後、周囲を『造作』で造った壁で囲い、約3時間掛けて基礎を完成させる。
ジーナさんの家に行き、手の空いている村人を雇って、更にトレーニング施設の整備を進めて貰うよう指示し、そのための資金として銀貨300枚を渡す。
村の鍛冶屋に探索で得た金属製の装備品を提供し、雑貨屋には、ゼルフィードで仕入れた配給用の小麦1トンを、手数料と共に渡す。
宿屋に出向き、そこの主人に宿の改修工事を指示する。
ダセから剣の訓練をして貰う騎士達を呼ぶ際、今の部屋では貧相過ぎる。
ジーナさんとも相談し、人を雇って速やかに進めるよう、金貨30枚を渡して念を押した。
序でに、改修工事に使えるよう、これまでに伐採した樹木の幹部分、約500本分を宿近くの空き地に積む。
ジークには、訓練の合間にこれらの施設を回って、作業が遅れているようなら発破を掛けろと指示した。
昼休みに入ったらしいエレナさんから念話が届き、マーサさんの店で落ち合うと、カイウンさんと『ヤギン商会』からの指名依頼の話をされる。
「ご領主様(エレナさんはもう俺の妻も同然であり、俺が自治領の領主である以上、カイウンさんをこう呼ぶ必要はないのだが、ギルドの職員としても働いているから、その立場上、まだ彼をこう呼んでいる)が、王都までの書簡を届けて欲しいそうよ。
国王陛下宛の物だって。
報酬は金貨50枚で、お急ぎ便だからギルド評価も割増しになるわ。
『ヤギン商会』からの依頼も、王都の『グラン商会』宛の書簡の配達で、こちらの報酬は金貨60枚。
彼、律儀に報酬3倍の約束を守っているようね」
「当たり前です。
それ以上の儲けに繋がる仕事ですからね」
「どちらも受けてくれる?」
「良いですよ」
「じゃあこの2枚の依頼書にサインして」
サリーから教わった、こちらの文字を使ってサインをする。
尤も、まだ名前くらいしか書けないが。
「サリーさん達は今何をしてるの?」
「彼女とミウは、2人で魔力循環の訓練をしています。
あの2人、結構仲が良いみたいだから」
「サリーさんは私達の誰にでも優しいし、気配り上手だからね。
帝国の社交界で名を
「そうですね。
細かい所まで助けて貰ってます」
「・・今夜、部屋に行っても良い?」
俺の目をじっと見つめて、エレナさんがそう囁く。
「構いませんよ」
「嬉しい。
・・そろそろお昼休みが終わりだから、また夕食でね」
そう口にした彼女は、とても魅力的な笑顔を残して席を立った。
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