第84話

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氏名 エル(22)


パーソナルデータ 力K 体力K 精神I 器用J 敏捷K 魔法耐性J


スキル 事務処理I


魔法 生活魔法K


ジョブ 無職


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成程。


確かにそれなりの事務処理能力を持っている。


「・・苦痛なら無理にとは言いませんが、奴隷にされてからの事を話していただけませんか?

一体どんな扱いを受けていたんですか?」


あの牢屋は、とても人が暮らすような場所ではなかった。


トイレがあるだけで、他にはベッドと呼べない寝床があるだけ。


水道すらないから、室内にあったたらいに入っていた水を飲んでいたのだろう。


全く掃除がされていなかったし、生活魔法を使えなかったら、さぞ不衛生だったはずだ。


実際、そうした環境に居た人も、3名程居た。


俺とミウが全員に『身体浄化』を2回ずつ掛けたのも、本命はその人達で、残りの人達は、その3名を目立たせなくするためだった。


疑問に思うのは、彼女達は仮にも商品だったはずなのに、何故あんな扱いしか受けなかったのかということだ。


あれでは、奴隷を買いに来た客が、皆敬遠するに決まっている。


余程安い値で売られる予定だったのか。


「・・私は約3か月前に奴隷に売られたので、あそこではまだ新参の部類でした。

ほぼ毎日のように誰かのすすり泣く声を聞きながら、自我を保つのに必死でした。

別に、あそこで凌辱を受けていた訳ではないんです。

奴隷としては処女の方が高く売れるので、食事や水を運んで来る手下の人達から時々厭らしい目で見られることはあっても、手までは出されませんでした。

きっと私達に手を出したら、主に殺されるからでしょう」


良かった。


最低限の尊厳は守られていたんだな。


「私達があんな扱いを受けていたのには、理由が有ります。

その取引が非合法で、まともな地位の買主には売ることができなかったからです。

せいぜい、賭け事や盗みなどで一時的に大金を得た、ならず者くらいにしか売れません。

その証拠に、私達の体に付けられた奴隷紋は、本物ではありません。

本物の奴隷紋は、双方の同意が無いと付与できませんから。

消えにくい何かの液体で描かれたまがい物で、何度か入浴する内に、やがて奇麗に消えていくでしょう」


「!!!

それは本当ですか!?

では、皆の奴隷紋を解除する必要はないんですね?」


「はい。

全員での入浴の際、1人1人奴隷紋を見て回りましたので、間違いありません。

この場でそれをお教えしようと思っていましたので、あの場では口を挿むことは致しませんでした。

私は以前、領主様のお仕事に同行し、本物の奴隷紋を何度も見たことがあります。

それとは、色も形も微妙に異なります。

また、習得すれば給与を上げるとも言われていたので、『奴隷生成』の魔法も勉強しておりました。

残念ながら魔力量が足りず、習得には至りませんでしたけれど。

ほとんどの人は、奴隷紋などじっくり見たことがないでしょうから、案外気が付かないのです。

一旦買われてしまえば、後で奴隷紋を更新する必要があるとか理由を付けて、本物に付け替えることも可能ですからね。

その時には、自分が奴隷だと皆が既に認識していますから、手続きも楽に進むはずです。

勿論、私は誰かに買われたら、直ぐに逃げるつもりでいましたが」


「もしかして、あんな扱いを受けていた理由の1つは・・?」


「その通りです。

私達は既に奴隷なんだという認識を、皆に植え付けるためでしょう。

本来、ちゃんとした奴隷であれば、きちんとした部屋が与えられます。

衣服は簡素でも、食事もそれなりの物を食べられます。

奴隷の健康状態は、売り値にかなり影響するからです」


あの店に他の生存反応がなかったのは、言葉は悪いが、単に在庫がなかったからだったんだな。


「話していただいて有り難うございます。

非常に助かりました」


そういう理由なら、リストに載っていた7人以外にも賠償金を支払わなくてはならない。

全員に金貨20枚を渡さなくては。


「エルさん、あなたを採用致します。

是非私の部下になってください」


「!!!

有り難うございます。

とても嬉しいです。

・・私の名前、おぼえていてくれたのですね」


「俺は『鑑定』持ちなので、失礼ですが、今あなたのステータスも見せて貰いました。

それから、今後は上司と部下の間柄になるので、エルさんの方が年上ですが、言葉使いを普段のものに直させて貰います」


「はい、勿論」


「待遇について簡単に述べますが、給与は月に8000ギル。

この屋敷で生活して貰って構わないので、この額になります。

風呂に関しては、俺がここに来た時だけは湯を張りますが、そうでない時は公衆浴場を使うなりしてください。

食事も同様に、自分で用意して貰います。

ここまでで何か質問はありますか?」


「・・あの、給与の額は6000ギルでも構わないので、その代わり、月に1度でも良いですから、私を抱いていただけませんか?」


「え?」


「私、まだ男性経験がありません。

奴隷として捕まるまでは、何時か素敵な人に出会えると思って、大切に処女を護ってきました。

けれど、捕まった後、非常に後悔したんです。

もしかしたら、意に沿わぬ誰かに強引に奪われてしまうかもしれない。

こんな事なら、もっと積極的に探せば良かったって。

・・西園寺様が助けに来てくださった時、あなたの事が、ずっと待ち望んでいた運命の人に思えたんです。

正直に言うと、一目惚れしてしまいました。

先程あなたの前で脱いだのも、もしかしたらという願望があったからです。

私、一途いちずなので、絶対に浮気なんてしません。

勿論、愛人の1人で十分です。

お考えいただけないでしょうか?」


とても真剣な目でそう言われた。


「・・俺は、愛情が無い性行為はしたくない。

そして誰かを抱けば、その人を保護しようという気になる。

エルさんは俺に好意を寄せてくれて、俺の部下になる以上は、当然保護対象にもなる。

俺もエルさんの外見は嫌いではないし、人柄や性格も、話した時点では何の問題もない。

けれど、さすがにこの場で即答はできない。

少し考える時間を貰えないか?」


「はい。

勿論です。

いつまでもお待ちしています」


「そんなに長くは掛からないから。

・・勇気を出して申し出てくれたのに、待たせるようなことをして済まない」


今はそれしか言えなかった。

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