第83話

 ミウが買って来た新しい衣類に着替えた全員が、大分瞳に生気を取り戻して、脱衣所から出て来る。


その彼女達を連れ、領主屋敷まで歩いた。


応接室では椅子が足りないので、大食堂で皆と会話を計る。


この場に居る元奴隷の女性は9人。


入手した情報の7人より多い。


1人1人名前を尋ね、リストと照らし合わせると、幸いなことに全員揃っていた。


「私は西園寺修、この町の新領主です。

ですが、帝国とは無関係の存在ですから、どうかご心配なさらずに。

・・先ず初めにお伝えしておきます。

今から皆さんは自由です。

あなた方を拘束している奴隷紋は、その方法を知る者に速やかに解除させます。

また、前領主の息子によって理不尽な目に遭われた方々には、1人当たり金貨20枚の賠償金をお支払い致します。

勿論、解放に当たっては、それとは別に、1人当たり金貨3枚を当座の生活費として支給致します。

ご家族の下に帰られるも良し、この町から移住したいというならそれでも構いません。

もし身寄りがなく、行く当てのないという方は、個別にご相談ください。

暫くはこの屋敷にお泊りいただいて結構です。

食事や風呂は、ここの施設でこちらがご用意致します。

以上です」


話に耳を傾けていた女性達が、皆一様に驚きで目を見開いている。


自分達の境遇に対して何の責任もない新たな領主が、多額の慰謝料を支払い、普通では有り得ない程の待遇でもてなしてくれると言うのだ。


てっきり食事くらいで放り出されると考えていた者もいたのだろう。


安心して泣き出す人も居た。


ミウが女性達を其々の部屋に案内している間、素朴そぼくな感じの若い女性が俺に話しかけてきた。


彼女は確か、リストに載っていた7人の内の1人だ。


「あの、もし宜しかったら、後で少しお時間を頂いても宜しいでしょうか?」


「勿論。

何か相談事ですか?」


「はい。

今後の事で少しご相談が・・」


「では入浴後に時間を作ります。

その時にここで・・」


「分りました。

有り難うございます」


彼女もミウに部屋まで案内され、全員を案内し終えたミウに留守番を頼んで、この屋敷の護衛にエルダーウルフを配置した後、カコ村に跳ぶ。


2回目のお湯張りをしてから、城壁の建造中に一休みしていたサリーの下へ行く。


「済まないが、今日の夕食は俺を除いた皆で食べてくれ。

少し用事ができた」


「分りました。

訓練の方は大丈夫ですか?」


「1時間くらい遅らせてくれると助かる」


「・・女性絡みですか?」


サリーがそれとなく尋ねてくる。


「ああ。

町で奴隷にされていた女性達を助けたのだが、その内の1人から相談があると言われたんだ」


「かわいいなのですか?」


「え?

・・胸は中々大きいけれど、かわいいと言うより、純朴と言った方がピッタリくる」


「そろそろ、第1回目のハーレムナイトを開催したいです。

修様のご都合の良い日を後で教えてください」


「・・まだ早くないか?」


「では、私だけのお相手をお願い致します」


にっこりと微笑まれる。


「・・じゃあ、今夜、訓練が終わった後に」


「フフッ、有り難うございます。

これで明日にでも城壁が完成しそうです」


「もしかして、朝まで?」


「ええ。

若しくは5発以上を希望致します」


「・・頑張ります」


夕食代など、追加の生活費として王国金貨100枚を彼女に渡し、またダセに戻る。


ミウにお礼を言ってゼルフィードの家まで送り、とんぼ返りして領主屋敷で夕食や風呂の準備をする。


食事は勿論、数軒の屋台で購入した物だ。


肉や野菜、果物をふんだんに買い込み、彼女達に好きなだけ食べて貰う。


お茶とワインの両方を用意し、そちらも自由に飲んで貰った。


女性達がそうしている間に、再度カコ村に跳んでサリーを家まで送り、再びとんぼ返り。


大浴場は領主の屋敷だけあってそれなりに大きく、湯を張っている時に大丈夫だろうと思ったから、9人全員で入って貰う。


領主の妻や娘が使っていたと思われる、洗い立てのバスローブが人数分あったので、湯上りはそれを着て貰い、朝は好きなだけ寝ていて良いと告げて、其々の部屋に行かせた。


大食堂で待っていると、話を聴くと約束した女性が入って来る。


何故かまだバスローブを着たままだ。


「お時間を頂き、有り難うございます」


その女性は俺の前まで来ると、徐にバスローブを脱いだ。


大きめの胸と、女性らしい肉付きの体が、全てあらわになる。


「・・あの、一体何を?」


「え?

・・話を聴いてくださる条件として、こういう事をお望みなのかと」


俺の困惑した顔を見たその女性は、慌てたようにそう口にする。


「そんな事は一言も言っていません」


もしかして、バスローブなんか着せたから、勘違いしたのだろうか。


「済みません!」


女性が直ぐにまたバスローブを身に付けた。


幾らバスローブ姿だとしても、ちゃんとショーツくらい穿こうよ。


「それで、お話とは一体?」


彼女にも椅子を勧め、相談事とやらを尋ねる。


「私には身寄りが無くて、解放されても行く当てがありません。

大金を頂けるそうですから、それで暫くは暮らせるでしょうが、その後にたった1人で生きていくためには、何らかの仕事に就くしかありません。

ですから、もし宜しければ、あなたにお仕えしたいと思いまして・・」


「俺にですか?

・・失礼ですが、あなたは奴隷にされるまで、一体どんなお仕事を?」


「ここで事務処理を担当しておりました」


「え!?」


「私が奴隷にされたのは、領主様の息子の不正を、領主様に訴えようとしたからです」


何とまあ、こんな偶然があるとは。


今一番欲しい人材が、目の前に居た。

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