第82話

 死体は取り敢えずそのままにして、店の奥に入って行く。


途中で金庫らしき物を見つけ、鍵を無理やりこじ開ける。


その中には2つの皮袋が収められており、一方には帝国白金貨が50枚、もう一方には帝国金貨が300枚程入れられていた。


「奴隷商って随分と儲かるんだ」


中を見たミウが呆れている。


「何代か続けば、このくらいになるのかもな」


更に進むと、地下へ降りる階段を見つけた。


「何だか陰気臭い所だね」


生活魔法の『照明』を使ったミウが、嫌そうに呟く。


階段を降りると、鉄格子で閉じられた牢屋ろうやが幾つも並んでいた。


それを1つ1つ覗いていく。


そこに居たのは、どれも不衛生な環境に置かれた女性達。


こちらを見返す目が、半分死んでいる。


「・・・。

思った以上に酷いな」


「・・これはさすがに洒落にもならないよ」


ミウがドン引きしている。


取り敢えず、鉄格子に付いた鍵をこじ開け、その場でミウと2人して生活魔法の『身体浄化』を掛けて回る。


それから中に居る彼女達を促して牢の外に出て貰い、足腰が弱っているだろうから、ゆっくりと階段を上らせた。


外に出ると、女性達の表情が多少明るくなる。


その1人1人にパンと水を手渡し、食べて貰っている間に、もう1度全員に『身体浄化』を掛ける。


ゼルフィードの家で護衛をさせていたレッドスライムをこちらに呼び出し、殺した者達の死体処理をさせ、その合間に、まだ食べられそうな人達には追加のパンや水を差し出す。


人心地ひとごこちがついた彼女達を、今度は公衆浴場まで案内する。


奴隷としての粗末な衣類しか着ていない彼女達であったが、その恰好で移動するのだけは我慢して貰った。


公衆浴場に着くと、その時間から女湯を借り切って、連れて来た全員を風呂に入らせる。


費用は当然、全額俺が持った。


ミウには、人数分の簡素な下着と服を買いに行って貰い、俺はその場で待つ。


『奴隷を公衆浴場に入れるなんて・・』


もしそんな事を言う奴が居たら、きつめのお仕置きをしようと考えていたが、幸いにも、そんな奴は現れなかった。


風呂に入れた女性達には、石鹸とシャンプー、歯ブラシと歯磨粉を受付で人数分買って渡し、『時間は気にしないで良いから、疲れと(心の)傷をじっくりと癒してください』と伝えたので、ミウが買い物から戻って来るまで、誰も風呂から上がっては来なかった。


「修、彼女達をどうするの?」


脱衣所まで買って来た衣類を置きに行ったミウが、戻って来るなりそう尋ねる。


「・・皆、泣いてたよ。

悲しいのか嬉しいのかまでは分らないけど、とにかく涙を流しながら身体を洗ってた」


「正直な所、今はまだ良い案が浮かばない。

全員を奴隷から解放するのは勿論だが、その後の生活保障までとなると二の足を踏む。

ミウはどうするのが良いと思う?」


「・・あたしにも、これという案は浮かばない。

取り敢えず解放してみて、家族や行き先の無い人が居た場合には、その時改めて考えれば良いんじゃないかな」


「・・やっぱり、それが無難かな」


『最後まで面倒を見られないなら、助けない方が良い』


まるで動物と同じ様に考えて、そう意見する人も中にはいるだろうが、俺はそうは思わない。


自分の意思で行動できるかどうか、その選択を得られるのかどうかは、有ると無いのとでは全然違う。


今は浴室で魂の洗濯までしているかもしれない彼女達が、ある程度満足して出てくるまでには、もう少し時間が掛かりそうだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る