第77話

 「ダンジョンメーカーって何だ?」


「!!!

・・あんた『鑑定』持ちだったんだね。

益々良い。

これで全てのピースが揃った」


「?」


「あたし達、『巡礼者』が持つ役割だよ。

その辺りのことは宿で話してあげる。

夜まで時間を潰すだろ?

約束通り、やる気が出るように裸くらいは見せてやるよ」


「それなんだけどさ、君がここまでの戦力なら、このまま領主の屋敷に攻め込もう。

君は自分の身を護るだけで良いから。

俺、夕方から夜にかけてやる事があるからさ、さっさと終わらせてしまおう」


「本気か?

幾らあんたが強くても、領主屋敷には200以上の戦力が居るぞ?」


「そのくらいなら君を護りながらでも大丈夫だ」


「・・分った。

あんたの強さを信じる。

魔力は嘘を吐かない」


「ただ、君の顔を隠す必要があるな。

俺は装備品でごまかせるけど、君はフードが外れたら直ぐにバレるだろ?」


「仮面を持ってるから大丈夫だ。

女の一人旅は何かと物騒だったからな」


彼女がフードを外す。


「!!!」


美しい。


ぶっきらぼうな言葉使いにそぐわない、綺麗な顔をしている。


ダークブロンドの短めの髪に赤い瞳が印象的で、褐色の肌に良く映える。


彼女が仮面を付けようとして、じっと見ていた俺に気付く。


「何だ?」


「・・いや、綺麗な顔だなと思って」


「フッ、終わったら幾らでも相手してやるよ。

あんたもあたし好みの良い男だしな」


「それじゃあ行こうか。

領主屋敷の場所は知っているのか?」


「ああ、案内するよ。

・・!!!」


『ガイア』を装着した俺を見て、彼女が目を見開く。


「何だそれ!?

途轍とてつも無い魔力を感じるぞ?」


「俺の奥の手だ」


「はは・・やっぱりとんでもない奴だったな」



 今の俺の姿は非常に目立つため、領主屋敷の在る場所までは、ミウを抱き抱えながら走った。


あまりのスピードに、風圧で、道行く人達の髪や衣服がひるがえる。


「・・死ぬかと思った」


大袈裟おおげさだな。

このくらい(俺が生まれた世界では)普通だよ」


「嘘吐け!」


「さて、お喋りはここまでだ。

君の相棒の場所は分るのか?」


「魔力を辿れば分る」


「よし。

なら始めるぞ?」


こちらに向かって来る門番の兵士達を見ながら、彼女に声をかける。


「ああ、頼む」


短剣を取り出した彼女が、そう答えて身構えた。



 「ひっ、わしを殺せば帝国が黙っていないぞ?」


領主屋敷の自分の部屋で、みつぎ物を届ける、帝都への長い旅の準備をしていたトルソーは、いきなり侵入してきた2人組に驚き、恐れおののいた。


黒ずくめの装備を身に付けた男の顔は、下半分しか見えないが、両の拳から血がしたたっている。


もう1人、仮面を付けた女の方は、手に持つ短剣が赤く濡れていた。


「別に構わん。

それより、奪った物を返して貰う」


重厚なテーブルの上に載せてあった大きな籠に、女の方が飛び付く。


「ミーシャ、無事で良かった!」


籠には鍵が掛かっていたので、男がそれを無理やりこじ開ける。


「!」


鉄製の鍵をいとも容易たやすく・・。


中から飛び出してきた銀狐が、嬉しそうに女の肩に上った。


「・・警備兵達はどうした?」


幾ら何でも1人もここに駆けつけないのはおかしい。


この屋敷と、直ぐ隣の兵舎には、200人を超える兵士が常駐しているのだ。


「さあな、後で自分で確かめてみたらどうだ?」


「・・殺さないのか?」


「ああ。

但し、全財産を没収の上、この町から追放する」


「・・分った。

家族はどうした?」


「息子の1人は殺した。

あんたの妻らしい女性は既に逃げた。

あと2人、娘と息子は生かしてある」


「・・お前は一体何者だ?」


「知る必要はない」


「子供達に会わせてくれ」


「分った。

直ぐにこの町から出て貰う。

食料以外の持ち出しは、1人金貨1枚しか認めない」


男に促されて外に出ると、既に食料と水を積んだ馬車が用意され、その中に息子と娘が居た。


しかも護衛が6人付いている。


「お前達、何故奴と戦わん?」


「既に交戦し、敗れております。

ここに居るのは彼の温情です」


「・・そうか」


馬車に乗る前、振り向いて屋敷を見る。


自分の屋敷なのに、ちゃんと見たのは随分と久し振りだった。



 領主一家を町から追放した後、戦利品の回収を再開する。


戦闘中も屋敷内に金色の点を見つければ、優先して取りに行った。


残しておいても、漁夫の利を得ようとする輩に、持ち逃げされるだけだからだ。


その典型が領主の妻で、赤く映らなかったから逃がしはしたが、持ち去ろうとした宝石類は全て取り返した。


金貨1枚くれてやっただけで十分だ。


その代わり、追放した娘が抱えていたぬいぐるみを借りて、その中に切れ込みを作り、1番大きな宝石を入れて返してやった。


『後でっておけ』


そう言って渡した時、彼女は目を見開いて驚いていた。


金庫の中にあった金貨2000枚を含め、屋敷中にあったお金と宝飾品、貴金属を頂戴し、殺した兵達の装備品も粗方回収する。


『えげつないな』と笑うミウにも、分け前として金貨400枚と、大きめの宝石5個を渡す。


それから、殺さずにいた使用人の中から2人を選んで立て看板を作らせ、屋敷の門の前に立てさせる。


掲示された文言は、『この町は占領され、新たな領主によって統治される。それを受け入れられない場合、1週間以内に町を退去せよ。居残った者が新領主に反抗した場合、相応の罰を与える』だ。


因みに、2名を除き、使用人は全員生かしてある。


彼ら(彼女ら)には、退職金として全員に金貨5枚ずつを与えてある。


その上で、もし再雇用の希望があれば、1週間後にまたここに来て欲しいと伝えた。


殺した2人は、同じく殺された領主の長男に従い、領内で繰り返し犯罪行為に手を染めていた者達だ。


こいつらと、そのおこぼれを頂戴するために従った兵士達が、ほぼ元凶と言って良かった。


だが、それを知りながら放置していた以上、その家族も何らかの罪は免れない。


それに加えてトルソーは、ミウの相棒もさらったのだから、情けは掛けなかった。

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