第76話

 カコ村で城壁の建造に着手したサリーと別れ、俺は公衆浴場で1回目のお湯張りをした後、ジークに頼んで乗馬を教えて貰う。


幸い、馬達は帝国軍によって十分に訓練されていたので、さして暴れることもなく、また、捕まえた際の威嚇を覚えていたのか、素人の俺が乗っても従順だった。


厩舎内の歩行訓練から始めて、30分も経たずに簡単な走行を試してみる。


ジークと2人で村を出て、近隣の荒れ地をゆっくりと1時間くらい走っていると、何時の間にか『乗馬』のスキルを得ていた。


彼にお礼を述べ、肉類が足りない村人達のために、ハイオークの死体を5体取り出して渡す。


2回目のお湯張りをし、サリーに大体の帰還時間を告げて、前回引き返してきた場所を目指して走り出す。


既に強い魔物は狩ってあるし、森林も素通りして、トルソー男爵が治める町、ダセの手前まで来た。


覚え立ての『乗馬』を代償に転移魔法陣を作成し、一介いっかいの冒険者を装って町に入る。


「王国の冒険者風情がこの町に何の用だ?」


念のため、ジークに借りた粗末なマントを身に付けていたせいか、身分証を見た門番に嫌味を言われたが、気にせず答える。


「向こうでは全く芽が出なかったので、こちらで一旗揚げようと思いまして」


「Fじゃなあ。

お前にはこの町は勿体ねえんじゃないか?

カコ村辺りで十分だろ?」


「そう思ったんですが、あそこ、何にもないんですよ」


「ハハハ!

確かにな。

まあせいぜい頑張りな。

入場料は100ギルだ」


金を支払い、やっと通して貰える。


門番が偉そうに言うだけあって、そこそこ栄えているようだが、ゼルフィードと比べるとかなり見劣りする。


まあ、実質的にはこの町が国境付近の砦のような役割をしているのだろうから、城壁が頑丈に見えただけで、中身は平凡なのかもしれない。


市場を歩き、カコ村に放出する野菜や果物を大量に買い、冒険者ギルドも覗いてみる。


大して大きくはない建物に、十数人の冒険者達がたむろしているだけ。


掲示板を見ても、目星い依頼はなかった。


立ち去ろうとした時、女性の声に呼び止められる。


「なあ、少し話さないか?」


振り向いて声の主を探すと、俺と同じ様な粗末なローブに身を包み、顔さえフードで隠した人物と目が合う。


「良いけど、ここでか?」


「付いて来てくれ」


椅子から腰を上げたその相手は、俺の前を横切り、先導するように歩いて行く。


ギルドを出ると、直ぐに路地裏に入り、誰もいない場所で振り向いた。


「あんた、余所者だよな?」


「ああ。

さっきこの町に来たばかりだ」


「1人で来たのかい?」


「そうだ」


「ランクは?」


「Fだけど・・」


「え、嘘!?

そんなはずは・・。

もしかして冒険者になったばかりなのかい?」


「質問ばかりだな。

俺は君の事を何も知らないが?」


「ああ、済まない。

少し急いでいたんでね。

あたしの名はミウ。

一緒に仕事をしてくれる相手を探してたんだ」


「仕事?

ギルドの依頼か?」


「違う。

表に出せないやつだ。

バレたらヤバいし、多分命懸けだ」


「非合法なものはお断りだ。

犯罪者になるつもりはない」


「それは大丈夫。

合法とは言えないけど、女神様は必ず許してくださる」


「・・でも何で俺に?」


「あんたが強いからさ。

尋常じゃない魔力の匂いがする」


「さっきも言ったけど、俺、Fランクだよ?」


「何か理由があるはずだ。

あんたは絶対に強い」


「因みに、魔力って匂うの?」


「あたしらの種族には分かるのさ。

上質な魔力、厖大ぼうだいな魔力量を有した存在がね」


「・・話を戻すけど、頼みたい仕事って何だ?」


「それを話す前に、聴いておきたいことがある。

あんた、帝国の人間か?」


「違う。

何処にも属していないが、住居があるのはリンドル王国だ」


「この町には何をしに?

ここの領主と知り合いか?」


「単なる観光だ。

名前くらいは知っているが、領主に会ったことはない」


「帝国とは無関係なんだな?」


「ああ」


「・・頼みたい仕事は、魔物の救出だ。

ここの領主の屋敷に囚われている。

あたしが目を離した隙に、衛兵に連れ去られてしまったんだ」


「魔物?」


「まだ子供の狐さ。

美しい銀色の毛並みが上品で、非常に賢いから、皇帝への贈り物にでもするつもりなんだろう」


「・・・」


「あたしにとっては、何よりも大切な存在なんだ。

ほとんど生まれた時から側に居る。

あたし達の種族は特殊で、とある理由から非常に数が少ない。

そしてやはりある理由で、親とも一定の年齢で離れなくてはならない。

そんなあたしにとって、彼女は家族も同然なんだ」


「・・・」


「報酬はあたしの身体。

好きに抱いて良い。

処女だから病気の心配もないぞ。

たった1つしかないから、事後報酬になるが、約束は必ず守る。

今は姿を見せるだけで勘弁して欲しい」


「もしあそこで誰も仲間が見つからなかったら、1人でも侵入するつもりだったのか?」


「勿論。

彼女を見捨てることなんてできない」


「分った。

手を貸そう」


「本当か!?」


「ああ。

ちょうど俺も、ここの領主にやりたい事があったからな。

でも、そうなると侵入は夜だよな?」


「できるだけ早く助けたいが、それは仕方がない。

こちらは2人しかいないんだから」


「君は戦えるのか?」


「それなりには。

と言っても、あんたとじゃ比べものにならないけどね」


「もしかして『鑑定』持ちか?」


「違うよ。

言っただろ?

魔力量で大体の強さが分るんだよ」


彼女のステータスを見せて貰おう。


______________________________________


氏名 ミウ(18)


パーソナルデータ 力J 体力J 精神G 器用J 敏捷I 魔法耐性F


スキル 短剣I 『テイム』H 『マッピング』I 『アイテムボックス』J 


魔法 火魔法J 水魔法J 風魔法K 土魔法J 回復魔法J 生活魔法I


ジョブ ダンジョンメーカー


______________________________________


物凄く有能じゃないか。


それに、ダンジョンメーカー?

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