第17話
堕落勇者の立ち上がり
第17話「二通目、三通目」
視界に光が差し込んでくる。何が光っているのか気になり目を覚ました。そして光ってる物を確認する、どうやらある一定の暗さになると自動で光る謎技術が使われているライトが光っていたらしい。
「...ここは?...あ、そうか...魔王城」
そして今は魔王討伐中と言う事にやっと気付いた。すぐに剣を背中に装着し扉を開き外に出る。そして玉座の間まで向かおうと歩き始めようとした時あることに気付く。
「道が戻ってる」
そう、幻術は解かれ完全に五年前と同じ内装になっているのだ。それなら玉座の間まで行くのは楽だと思い廊下を進もうとした、だが一歩足を突き出した所である重大な事を思い出した。
「ラックとゴドルフィン!行かなきゃ、全部を終わらせるんだ。死ぬかもしれない、最後に一言言わなきゃね」
アルスは方向を変えとりあえず訓練場へ向かう事にした。
見覚えのある道を歩み五年前に猫騎士と戦った訓練場の前へと到着する。既に扉が半開きで誰かが来ていた後があった。もうほぼ察していた、だが気合を入れ扉を開く。
「...やっぱり...」
部屋の中央ではうな垂れて動かなくなっているゴドルフィンの姿があった。近付き顔を見る、するとゴドルフィンはとても嬉しそうな顔をしていた。
「なんでこんな嬉しそうなの..?」
その後も少し状態を確認したがもう無理だろう。血も固まっている、ただ一箇所不自然な固まり方をしている場所があった。不思議に思い色んな角度から見てみる。するとゴドルフィンが向いている方向からな意味が分かる事に気付いた。
「なんだ?...『かて』か...分かってるよ。僕はそんなに弱くないさ、こんな..こんな事書かないでよかったのに..それだったらもっと感動的な事でも書いてくれよ...」
そう言いながら涙目でかてと書かれたゴドルフィンの血文字を眺める。そしてここは立ち去る事に決めた。
「勝つよ。見ててね」
アルスは訓練場を出て行く。ゴドルフィンの骸を後にして、次はラックだ。
だがどこにあるか見当が付かない。どうすれば見つける事が出来るか、方法を模索していると地面に着いている物が目に入り込んで来た。
「これは..土?」
比較的新しい土だ。少なくともアルスが寝ている間に付着したものだろう、そしてこの土の形は口や人の足の形ではない。動物の足跡だ。
「猫騎士の大きさじゃないな..だとしたら[アレキサンダー]だ!」
前勇者と一緒に来ている事は魔王に聞いていた。だからまだ付近に居るかもしれない。そして嗅覚の鋭い犬であるアレキサンダーならラックの場所を特定出来るかもしれない。
必死になって足跡を辿っていく、すると地面に這いつくばっているアルスに影が重なった。
「わんっ!」
アレキサンダーと合流する事に成功した。アルスはやはりアレキサンダーだったのだと少し喜びながら事情を説明した。するとアレキサンダーはさっきまでの活気を失い気弱な雰囲気を醸し出す。まさかラックの死体の場所を知っているのではないかと思い追及する。
「お願いだ!ラックの場所に...」
そこまで言えばアレキサンダーだって分かる。気弱な声で「付いてこい」と言わんばかりに一度吠えてから方向を百八十度変えトボトボと歩き出す。
アルスも同じぐらいのスピードで廊下を進む。少し進んだ所で地面に血が付着している事に気付く、もうすぐそこなのだろう、そう思いながら気を引き締めアレキサンダーを追い続ける。
「わん..」
血の跡が酷い場所で立ち止まり横にある部屋の方を向きながら吠える。その部屋の中は血の跡が一層酷かった、だがそんな事は気にならない程悲惨な状態が目に入る。
「ラック...!!」
壁によりかかって倒れている死体の元へ駆け寄る。そしてこちらも完全に死亡しているのを確認した、一瞬で悲しさや悔しさ憤り等様々な感情が混ざり合い表現も出来ない様な心情に成り代わる。
だが今は泣いている暇は無い。何処か遺書のような物は無いか探しているとアレキサンダーが吠える。そちらを見ると犬の餌と一緒に便せんにすら入っていない手紙があった。
「これは..遺書か。ありがとうね」
餌を食べるアレキサンダーの頭を撫でながら遺書を手に取る。そして読み始める、字は非常に乱雑でかろうじて読める程だ。便せんにも入れていなかったし出発前にそうとう急いで書いたのだろう。
そんな事はどうでも良い、遺書の内容はこんなものだった。
『アルス、これはお前に見てほしい。アレキサンダーの餌と一緒に置いておくからユーデンガルのおっさんにはバレないと思う。
そんで本題。多分この世の者では無いと言う事は知っていると思う、実は俺は三歳の頃からしか記憶が無い。これだけ聞いたら寧ろ覚えている方だと思う。だが俺は産まれた時の記憶が鮮明にある。神が目の前にいた、凄くウザイ奴だった事を覚えている。そんでそいつが胎児の俺に話しかけて来るんだ、胎児と言っても母体は無くて宙に浮いてる感じなんだがな。そしてこう言われた『君は駒だ。私が退屈をしない為の調整役、普通に生きる事は出来ないよ』とな。そして眩い光に包まれた。そこから先は記憶が無く一気に三歳まで飛んだ。
こんな話をしたのは自分の生き様を見せつけたかった訳じゃない。この世界は結局神の思うがままだ、そしてその調整を行う駒である俺は思うんだ。お前は勝てる、どんな勝ち方だろうが気にするな。ユーデンガルのおっさんが王と話し合ってなんとかしてくれる。だから俺らの事は気にせず戦ってくれ』
そう書いてあった。アルスはこの世界が操作されている事なんかよりラックがそんな役だった事に驚愕する。今までの行動の全てが操作された物だったとは思った事も無かったからだ、少しづつ追及していく。何が操作されていて何が操作されていないのか。だが追及していけば追及していくほど全てが操られていたように思えてくる。
そしておかしくなってしまいそうになった時ある者の声で正気を取り戻す。
「わんっ!!!」
アレキサンダーだ。少し視線を落としそちらを見てみるとアレキサンダーは一つの紙きれを加えていた。アルスは受け取り確認してみる。するとそこには先程と同じ筆跡の文字でこう書かれていた。
『言い忘れてた。全てが操られたものだったとしても俺はお前の事を友達だと思ってたし仲間だと思ってた。
ユーデンガル・クレシュティーン、ゴドルフィン、アレキサンダー、リリア・スギラウェンド、バリゲッド・アーケイン、そしてアルス・ラングレット。俺がお前らと会えたのは駒だったからだ、駒じゃなかったら手の届かない存在だった。そう思うと駒も悪くなかったって思えるんだ。
つまり何て言いたいかと言うと ありがとう それだけ言わせてくれ。
それじゃあ、頑張ってな。俺は見ているぞ』
アルスは堪えきれず涙を流す。そして膝から崩れ落ち震えて、嗄れて、弱弱しい勇者の声で想いを伝える。
「僕も、言いたかった!..ずっと、言いたかった!僕に寄り添ってくれてありがとう..僕をみんなと逢り合わせてくれてありがとう..僕を立ち上がらせてくれて、勇者にしてくれてありがとう!」
もう言葉にならない、涙と掠れた息の音しか鳴ることはない。だがその音は次第に弱まって行く、そして弱気だった声は反転し勇者の声になったのだ。
そして立ち上がる最後にラックの顔を確認する、その顔は...秘密だ。だが勇気付けられた、それは確信できる。
「行こう、アレキサンダー」
アレキサンダーと共に行こうとする、だがアレキサンダーは元気になったアルスの顔を見て元気に吠えてから何処か違う場所へ走って行ってしまった。
「そっか、じゃあ先に行って待ってるよ」
アルスはアレキサンダーが向かった方向とは真逆の方向へ向かう、そこにあるのは玉座の間だ。魔王が待ち構えている、もう終わるのだ。アルスは勇者としての力を最大限振り絞り戦うのだ。
コツコツと足音が響く、次第に廊下も大きくなり前方には大きな扉が佇んでいる。スピードはブレず一定を保ち扉の前まで進んだ。
そして大きな両開きの扉の取っ手にそれぞれ手を掛けた。ゆっくりと開かれる。部屋の中が見えて来る、手前には剣を三本携えた前勇者[ユーデンガル・クレシュティーン]、その横に立つ前勇者の嫁の魔法使い[サラス・シグリン]、そしてアルス自らが引き入れた勇者一行の一人[バリゲッド・アーケイン]がアルスの方を見て立っている。
「や~っと来たか。逃げたのかと思ったぞ」
「全力でサポートするね!アルス君!」
「行くぞアルス!」
そしてその奥には玉座がある。その横に全身鉄鎧で包んだ剣に手をかけている猫魔人の騎士[ハーミット・シュワレペントゥ・キースイッチ]、そしてその反対方向に立っている左腕は無く体がボロボロな状態でもサーベルを握り闘志を燃やしている男[ハリケッド・ファンタスティア・サーレイン]、そしてオオトリだ。
玉座に堂々と座りその見た目からは想像も出来ない様なオーラを放ち続けている白髪赤目の美少女魔人、奴は魔王だ、殺すべき相手、その名も[スティール・ピクペアフラ]。彼女はいつもの調子でアルスに話しかける。
「よく来たな!![勇者-アルスラングレット]!!貴様は様々な鍛錬を重ね日々我を倒す為に努力をしてきただろう!!!」
「え、いや..僕は別に君の事を倒す為に訓練してたわけじゃないんだけど...」
「むぅ...そうか...だとしても今ここで我を討ち倒そうとしているのは事実!!!我はその決闘を受けてやろう!!!」
「うん。よろしく」
アルスはそう言いながら皆より少しだけ前に出る。そして勇者の剣を抜いた。それに合わせハーミットも剣を抜く、全員戦闘体勢に入った。
アルスが動けば開戦と言うところでアルスは口角を上げ微笑みだした。
「こんな時になんで笑ってるんだ?アルス」
バリゲッドのその問いには考える事もせず反射で答える。
「ゴドルフィンは満足そうに微笑みながら死んでいた、ラックも満足気に笑って死んでいった。なら僕も、お揃いで笑うんだ」
そう、ラックは笑っていたのである。満足気に、自分の役目を終え強制退場となったラックは苦痛に塗れた顔をしているのではなく笑っていたのだ。
恐らく全てに満足したのだろう、その笑顔は自分だけを喜ばせる物では無かった。勇者にも勇気を与えた、五年前のあの時の様に、だが五年前はゴドルフィンを通してだった。だが今回は直接与える事が出来たのだ、ラックは死後も尚アルスに勇気を授けたのだ。
「さぁ、行くよ」
そして遂に始まった、生死を取り合う醜い決闘が。初音は踏み込む音だった、勇者一人、いや勇者とその心にいる仲間を合わせた三人の。
第17話「二通目、三通目」
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