相方は未来人?

いととふゆ

相方は未来人?

▪️登場人物

大谷:漫才コンビ『漫才愛』のボケ担当

田村:漫才コンビ『漫才愛』のツッコミ担当


20XX年漫才頂点大会一回戦当日。

田村「大谷遅いな。こんな大切な日に何やってんだよ」

(控え室の扉がバンッと開かれる音)

大谷「おい、田村。驚かないで聞いてくれ。俺は未来から来た大谷なんだ。実は今日、大事な舞台だというのに酷い風邪をひいてしまった。本当の今の俺は家で寝込んでるんだ。未来でそれを悔やんでいる俺が今に戻って来たんだ」

田村「何意味わかんねぇこと言ってんだ。本番前からネタに入り込み過ぎだぞ。もう出番だ。顔汚れてるからこれで拭け。行くぞ!」


田村「どうもー、漫才愛でーす」

大谷「漫才ラブ」(胸の前で両手の指を丸めてハートを作る仕草)

田村「いやー、もはやAIがいたるところに導入されて、お笑い芸人も必要なくなるんじゃないか心配ですよ。そのうちタイムマシンなんかもできたりして」

大谷「どうする? タイムマシンに乗れるなら」

田村「えー、俺? どうしよう。そうだな、未来に行ってまだ漫才をやってるか確かめたい!」

大谷「そりゃあ、やってるよー。どうもー、漫才AIでーす。マ・ン・ザ・イ・ラ・ブ」(ハートを作る仕草から指を伸ばして左右の手を離していく)

田村「AIに乗っ取られてるじゃねーか! その手の形タブレット?もしかして……」

大谷「発券用紙ヲオトリクダサイ」

田村「ペッ◯ーくんじゃねーか! 某回転寿司チェーンの! ってか、なぜか今はいなくなってんだよ!」

大谷「発券用紙ヲオトリクダサイ」

田村「はいはい。なになに? 『田村、鼻毛出てる』って言いにくいことを発券用紙に託すな!」

大谷「タムラ、身長サバヨムナ」

田村「乗っ取られたことをいいことに相方の秘密を暴露すんな! 内容小さすぎて誰も食いつかねーし!」

…………

…………

…………

田村「いいかげんにしろ!」

大谷・田村「どうも、ありがとうございましたー」


大会終了後、人気ひとけのない公園のベンチに座り込む二人。

田村「あー終わった。今年もダメだったな……」

公園の時計を見上げ、立ち上がる大谷。

大谷「じゃあな、俺は未来に戻るから」

どこからともなく現れたタイムマシンに乗って消える大谷。

田村「本当だったのか!」

パニックになった田村は急いで大谷の家に行こうと駆け出すと、大きな穴に落ちた。


***


田村「どうもー、漫才愛でーす」

大谷「漫才ラブ」

田村「今日の会場はきれいな花畑。最高だね」

大谷「前は川だったしね。ところでこの前、お前を落とし穴にはめようとして」

田村「なにサラッとひどすぎること言ってんだよ!」

大谷「穴掘るの面倒だから、弟子のAIロボットに落とし穴作らせたの」

田村「そんな弟子いたの? AIの?」

大谷「そしてお前が来たら、見事に落ちて。泥だらけで見上げた先にはロボットと田村が」

田村「お前が落ちてんのかよ!」

大谷「ロボットが俺を突き落としてさ、『ドッキリ大成功』の看板を見せてきたの」

田村「逆にドッキリにはめられたわけね。とんだ弟子だな」

大谷「AIこわくない!? 死ぬかと思ったんだから」

田村「もう死んでんだよ!」

…………

…………

…………

 

 実は大谷はあの大会の日の夜、自宅で息を引き取った。

 あの世に行った大谷は大会に出場できずに未練が残ったままで、また、相方がいなくなった田村が気がかりだった。

 他の相方を見つけるのか。あいつは人見知りだから、もしやAIを相方にするのではないか……。

 大谷はもちろん頂点を目指していたが、それよりも二人で『漫才愛』をいつまでもやっていることが心からの願いだった。

 そんなことを死んでから気づいた大谷は、特別に一日だけ生きていた日に戻れるタイムマシンに乗って、自分が死んだあの日に戻り、田村を道連れにしようとしたのだ。

 田村は大会前に大谷がタイムマシンを隠すために掘った穴に落ちて死んだ。その穴に大谷は大きな石を仕込んでおいたのだ。

 大谷の計算通りだった。

 自分勝手だとは思うが、田村も天国で自分と漫才ができて嬉しそうだ。


「いいかげんにしろ!」

「どうも、ありがとうございましたー」


 AIに相方の代わりはできない。

 二人の漫才愛とコンビ愛は永遠に……。

(完)

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