第6話
メルヘンチックなお城で、あたしは今、籠城をしている。
「馬鹿野郎、何してんだよ。いい加減降りてこい。」
父は、頭に角を出現させ、怒り狂っていた。
けれど、あたしはここから動くつもりなどみじんもない。だって、あたしは今とても後悔しているから。
すべてを捨て去ったこと、それによってもたらされた絶望、その他もろもろのことに激しく絶望していた。
「人から声を奪いやがった…。」
あたしは呪いのようなセリフを口にする。
ぶん殴りたい感情とはこういうのものなのだと、今はっきりと分かった。
一日中アホのごとく、切れていて本当に、頭がおかしいのではないかと思ったほどだった。
あたしを狂わせておいて、何なのよ。
おかしいのは、誰?
メルヘンチックなこんなバカげた城を立てやがって、だから母は逃げたのよ!
あたしの母親は、あたしを置いて逃げた。
馬鹿のごとくさっそうと、逃げ去ってしまった。
けれどあたしはそれを責められない。母には、多くの使用人と多くのお金、そして贅沢をして暮らせるという特権を捨てなくてはいけないという事実があり、けれどそれを選んでまでして、母は逃げた。
あたしから、それを見るととても有能な選択であったかのように思う。
ふざけんなよ、クソおやじ。
昔からこのクソ野郎と一緒にいるせいで、あたしの頭の中にはイガイガとした汚い感情だけが現れるようになった。
けれど、あたしはずっと待っている。
ここから誰かが連れだしてくれるのを、待っている、はずだった。
しかしそんなことをするつもりなど毛頭ない。
あたしは、今夜ここから出るのだ。
とっとと、こんなところを捨て去って、あたしは一匹で生きてやる。
決意は強く、決行は成された。
あたしは急いでドレスを脱ぎ、使用人の服へと着替えた。
ち、どれもこれもまどろっこしいけれど、この服はいい。
いかにも掃除のおばさんって感じで、とても動きやすい。
それに、あたしはここから出たらまず、使用人になるのだと決めていた。
そもそも、このご時世で使用人だなんて呼び方、変だろ。
あたしは心の中で毒づく、自分のことだけを愛し、自分のことだけを見ている。
きっとそれはみんな同じで、あたしもきっとそうなのだ。
「ちょっとあんた、何その髪。」
「いや、生まれつきなんです。」
「茶色じゃない、黒にして。」
「でも…。」
あたしの髪は、母譲りで茶色い毛をしている。
それが、いけないのか。
まあいいか、と思い染めることなどせず、あたしは悠長にかましていたけれ度、気付けばあたしは、一人きりになっていて、このレストランの仕事もクビになっていた。
「チクショウ。」
でも、いいか。
今あたしは、自由を感じている。
これはきっととてつもなく寂しいけれど、ずっと望んでいたものなのだ。
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