第5話

 子供を捨てるとバチが当たるって、ばあちゃんに言われた。

 けれど俺には仕方がないことだった。

 直面してみると、自信というものがゴロリと床に転がって、気持ちが悪くなり逃げだした。

 俺って、本当にどうしようもない奴なんだなって、ぼんやりと考える毎日が、そこから始まったのだと思う。

 「はあ、また切らしちまった。」

 いけない、米を炊かなくてはいけないのに、すぐに切らせてしまうのだ。大食いってわけではないのに、俺はすごく量を食べ、しかし太ることもあまりなく米だけを、もりもりと消費してしまうのだった。

 「あんた、何してんのよ。」

 母はたまに現れて、そんなことを口にする。

 でも、俺は適当に愛想笑いを浮かべることしかできない。

 だって、子どもを捨てたことなど、誰にも言ってはいないから。

 浮気っていうか、何かほかの女と寝れば解決するだろうと思っていたけれど、違った。

 俺は今、何をしても満足できない。

 つまり、果てしなく後悔しているのだ。

 だからこの先、何をどうすればいいのか、道が見えない。俺は、本当にどうすればいいのか分からない。

 仕事から疲れて帰ってきたというのに、この粗末なアフターエイトを過ごさざる負えない、俺って、何?ホント、とかそんなくだらないことを、考えていた。


 「満、ただいま。」

 今日は事務の仕事がお休みで、それでちょっと町の方まで出て仕事をこなしていた。

 はあまったく、本当にまとわりつくような疲労を感じていたけれど、久しぶりの一人での外出はとても心地の良いものだった。

 「おかえり。」

 「おかえり!」

 「はは、ただいま。」

 満と、そしてみずきが居てくれる。

 みずきが、少しくらい休んだらと言ってくれて、私が満を預かるから、って、正直半信半疑で不安だったけれど、良かった。

 休日がこれほどありがたくて、そして日常がこれほど愛おしく感じるのも、余裕の成せる業なのだと気付いた。

 「じゃあ、今からご飯作るから。ちょっと待ってて。」

 「はい。」

 「ごめんね、よろしく。」

 みずきは料理が苦手だ、火を見るが怖いのだという。

 へえ、と思ったが、それはそれでみずきらしいとすら思った。

 彼女ってすごく、怖いもの知らず。そもそも、あたしみたいな心を開かない奴と付き合い続けていて、面白いのかなとさえ思ってしまう。

 もうやっぱり、全部終わらせるのが正解なのかな。

 こんな、所でずっと暮らすことはできそうもない。

 こんなって失礼だけど、ここはアパートの一室だし、すごく狭く窮屈な場所だったから、あたしは都心へと移り変えようと思っている。

 あたしは、仕事の都合で都心に暮らさなくてはいけないという事情もあるし、事務の仕事はそろそろ必要無くなりそうだったし、あたしは、だから今日ずっと、物件を探し回っていた。

 足が棒のようになっていたけれど、とても不快な心地ばかりが残っていて、気持ちはどんどん沈んでいってしまった。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る