第3話
どう、なのだろうか。
あたしは聡は未だに、あたしのことをどう捉えているのかが読み取れない。
自らは大きな企業に就職し、そしてかたやあたしは小さな会社で雑用をこなす事務員となっていた。
そんな女に、なぜこの男は尽くし続けるのか、私には分からなかった。
「お母さん、お父さん、ただいま。」
娘の声が聞こえると、居間からひょっこり老夫婦が現れる。
二人とも、あたしの帰りを待ちわびていたかのような顔で、笑っていた。
はあ、何をそんなに。
あたしははいい子などではないのに。
「おかえりー。今日どうだった?この前話してたさ、おじさんのことは平気?」
「平気平気。だって悪い人じゃないし、ちょっと愚痴りたかっただけ。」
「そう、ならいいの。」
そう言って、本当に心配をし、そして本当に安心を覚え、また夫婦二人でまったりと時間を過ごしている。
この人たちは、一体何なのだろうか。
あたしは、恨みも何もないのに、とてもとてももどかしくてたまらなかった。
何に、不満を感じているのかが全く分からなかったからだ。
あたしは生まれた瞬間から、なぜか強烈な不満を持っていたらしい。
しかし、大人になるにつれ、それらは抑制可能なものであると知り、人の前では出さないように心がけていた。
が、
「はあ、疲れた。」
ベッドに戻り、一人息をつき、ぼうっとしている。
あたしはこのままで、このままではいけないような気がしている。
それはなぜなのだろう、あたしは、なぜ大人になれないのだろう。
自分の弱さが恨めしかった、けれど、それをどうすればいいのかなんて、見当もつかなかった。
「
「…うん。」
ひょこひょことあたしの後をついてくる。
小さなあたしの子。
あたしは、今たった一人になっていた。
あれだけあたしを可愛がってくれていた両親はもうとうにいない。
あたしは一人で、だから満を育てるしかなくて、それで、今はこの小さな家にずっと住んでいる。
両親と住んでいた家は、一度売って、遠くの町に小さな家を建てた。
あたしは、逃げたのだ。
まだ思慮分別の付くことがない、小さな娘の手を引いて、この町へと逃げてきた。
ここは、そしてあたしにとっては優しい町などではなかった。
「ガチャリ。」
満を幼稚園へ向かわせ、あたしはまた家へと戻った。
そして絵本を完成させていく、この日常は何なのだろう。
あたしは、それが分からずに、ずっと生きている。
「…終わった。」
勢いに任せて取り組んでいたそれは、とても重苦しいものに仕上がった。みずきとはたまに連絡を取り合っている、そして、満の父親である聡とは、もう幾分かずっと顔すら見ていない。
彼は、とんだたまだったのだ。
子供ができたと知ったら逃げるようにいなくなてしまった。
こういう類の男の存在は話には聞いたことがあったが、まさか、お前か。
とその時はその珍妙な感想しか浮かばなかったのだ。
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