第13話 結婚だけでもいいじゃ無い。

私は今まで祈ってきた。

でも、もうそんな暇はない。

賊がアキラ様の屋敷の玄関ホールまで押し寄せてきていた。せめて女性は守らねば。商人達も武器を取り、近隣の店も被害に遭いながらも応戦している。

ああ。こんな気持ちでいいのだろう。

「カナデ様。わたくし、応戦してまいります」

「ジャンヌ?!」

「だいじょうぶ、反対側のこちらの通路、入り組んでおりますが頭に地図は入っております。外に出て女は全て逃げたと思わせましょう」

自分だけわざと見つかり、撹乱してこちらを追わせ、人数を割く。

「だめよ、ジャンヌ。嫁入り前の娘がそんな危険なことをしてはダメ!」

「カナデ様、立派なレディになられました。さあ、離してくださいまし。時間は待ってはくれません」

今までに無い強い力でカナデ様を引き剥がす。

なぜなら、半分男性だから。

「だめよ、ジャンヌみたいな可愛い子、絶対に行かせない」

今度はたおやかな優しい手でそっと触れて抱きしめてから、

「私なら、だいじょうぶなのです」

なぜなら仮に襲われても、動揺した相手の首を。

喉元を深く切ることが予知できるから。

すると、あらたな予知が加わった。

カナデ様が泣いている。それを聞きながら。

「……来てくれた?」

星の民と、破滅の民が、馬に乗り。アキラ様の屋敷へ。

「ジャンヌ……?」

「あは、は。カナデ様」

抱きしめた。

「怖い思いをさせて申し訳ございません」

「私の、仲間が、いま加勢に訪れました。もう大丈夫です」

仲間かはわからない。しかし血縁かもしれない。

玄関ホールを守っていた男達がゆっくりと戻ってきたら、女性達の歓喜の泣き叫ぶ声。当然だろう。

私はカナデ様を置いて、玄関ホールへ向かおうとし。

強い力で腕を掴まれた。

「いまの貴女では、それが精一杯ですよ、カナデ様」

「ジャンヌ、あなたもそうなの?」

わたしは、一度としてあなたの裸を見たことがない。

「どうでしょう」

腕を振り払えない。

一緒に連れて行きますか。

廊下を歩きながらカナデ様と最後のお喋りをする。

昔ティーポットが落ちると予知したかのように伝えられているがメイドのイタズラだったこと。新緑の中、赤いドレスの素晴らしい淑女が人生を変えてくれたこと。医者には頑張って診てもらおうとしたが場所が場所だけに触診で勘弁してもらったこと。この先にいる同胞達に混じっても、一生結婚しないこと。

「結婚くらいしてもいいじゃない」

耳を疑った。

「子供がいなくても、夫婦仲がいい人はいるわ」

でも、

ずっとこどもいないんだ、って目で見られるんですよ?

「いいじゃない。一緒にいたい人と一緒にいれば」

「……それが、カナデ様のセカンドライフなのかもしれませんね。結婚したけど、結婚に乗り気ではなかったけれど、とにかく楽しむ」

玄関を開ける。馬に乗った懐かしい顔立ちたちの一族がいた。

「ねえジャンヌ」

季節は、いつのまにかあの海水浴から秋に変わり、今日は冬。小雪が、二つ、目の前に落ちた。

「アキラは死んでしまったの」

なんてことを女性は考えるんだろう。それとも、生きていくがゆえに。人は誰かを選び取る。お気に入りのスリットの入ったメイド服が冬風に大きく揺れる。思えば太ももにナイフもギリギリだったな。だから細身にしていたが。しかしちゃんと見えないよう分厚い下着を履いていた。

「ねえジャンヌ」

何度目かの愛しい呼び声。

「どうかわたしと結婚してください」

カナデの禁忌の告白。

とても、嬉しい。でも、

「私に、同じ星の末裔をあてがってくれるのではなかったのですか」

「行かないで」

駆けつけた破滅へと導く闇の民と星の民を見る。皆命懸けで来てくれたのだ。

その者たちに向き直る。

「私は子を成せません。一緒に行ってもいいですか?」

それぞれの族長に問う。後方ではざわめきが聞こえる。

「この世に、その心に、星を思う心があるならばついて来い。我が一族よ。」

この星を思う。

それどころか、異世界まで、とある星の下に生まれた人を思ってしまった。

「行きます!」

馬のあぶみへ。足をかけて鞍にまたがる

カナデ様が叫ぶ。最後に強く、祈った。

カナデ様を元の世界へ。


あいしてる。

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