第12話 結ばれたい相手と意地悪な過去
ずっと、救いたいと思っていた。
救うなんて、烏滸がましい。
でも、彼の方は、男でも女でもあり、そうでもないとも言える。
暗い夜空のマントにダイアモンドが縫い付けられて、それらは翻るように夜を動く。
星の民。未来の予知とこの星のちからを感じる能力を持つ聖なる一族。何周年かに一回は破滅をもたらす一族を根絶やしにする闇の一族と婚姻を結ばなければ、予知と破滅の均衡が崩れてある者は力が強すぎたり、ある者は力を封じられ凡人となる。
どうか、わたしは同じ星の民と結婚できますように。そして、どうか、ずっと悩んでいるあのお方の力になれたら。
その頃にはもう。彼女は。祖父母や両親、家族、数人の知り合いの闇の一族ですら捕まって、毎日とうもろこしの冷めたスープを飲んでいた。
それまでどういう生活をしていたか。そうだ。寒い日は牛の近くで寝ようとして、潰されるぞっ!と怒られた。馬の近くは蹴られるぞ!
じゃあ、藁を持ってきてみんなで寝る!
祖父母は笑ってくれた。両親は肝を冷やしていた。きょうだいはお姉ちゃんって変なの、とおかしがって。
唯一の救いは無駄がなかったこと。家畜も、家にある料理まで、みんな人買いとその手下が手をつけていった。みんな痩せっぽちだから太らせないと見栄えが悪い。さようなら、家族。さようなら。家畜たち。犬に猫。火が放たれなかっただけマシ。
ほかの集落があることは絶対に口にしちゃいけない。連れて行かれるのは、この、集落だけ。
そう、留めなきゃ。お嫁に行った姉さんたちや遠出して狩に行ったおじさんたちは、どうかそのまま。
そうして一つの屋敷に硬貨と交換で私は、やってきた。
「ねえ、あなた、未来がわかるんでしょう?」
「いまからこのティーポット、落とすから受け止めて」
「じゃないと、いきなり賠償金が膨れあがっちゃう!」
ほらっ!!
綺麗なティーポットが落ちる。熱い紅茶の入った、手がじんじんする熱。
周りのメイドは気味悪がった。緑が眩しい中。黒い日傘の人物が、芝生を踏み分けてくる。
優しそうな、黒髪の大人の女性が近づいてくる。真っ赤でスラリとしたドレスだった。
「ねえあなた、名前は」
「ぁ、……」声がかすれる。
「じゃ、ジャンヌです」
「星の末裔らしいわね。大切にするわ」
ジロリと、後ろにいたメイド達を赤い女性は睨みつける。
メイドたちは、手元をきゅっと握りながらもうしないという暗黙の了解をした。
「私の目の黒いうちはあなたは守るわ。そうだわ、いっそ、カナデの教育係になってちょうだい!」
かなで!その言葉!大切な気がする。もはや家族には二度と会えないけれど、かなで、ならいくらでもお側に。
「私の娘の最終兵器よ、あなたは」
そこからは、カナデ様のこのお母上と研鑽を積み。
カナデ様の御付きになり。
やがて、病でカナデ様のお母上は亡くなった。
だいじょうぶ!ジャンヌがついています!
後から来た意地悪な奥様には負けません!
人を殺したことはないけれど、殺し方は学びました。あとは角度と度胸と力加減。
「暗殺なんかしなくていい」
カナデ様はそうおっしゃいます。
ですが、いざというとき、そのためだけに私はこの刃を太ももに下げている。
相手が、たとえアキラ様でも、私自身でも。
一生に一度は、ひとはひとを殺すのではないでしょうか。カナデ様のお母上。
私は二人のカナデ様を救いたい。それに、もはや、刃は不要でしょうか。
カナデさまのセカンドライフは、なんと、私の縁結びになってしまったのです。
向こうのカナデ様を祈りを込めて覗けばベッドの上でまた悩んでらっしゃる。こちらに連れてきた写し身のカナデ様はお屋敷を抜け出すことを考えてらっしゃる。
いいのです。カナデさま。
そこまでの迷いなら私が負いましょう。
なぜなら、わたしも、どちらでもないのです。
そんな私に伴侶など。どうか、カナデ様。
願いが叶うならどうか、あなたと結ばれたかった。
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