第7話 体験入部とむかしの思い出

ソワソワ…



ソワソワソワ……


ソワソ


「あ、すまん待たせたな」


「あ、いや!全然!私も今きたとこだよ!」


「いやどういう嘘だよ…さっきからソワソワしまくってたの見えてたぞ」


「え、あーーー…えへへへ」


「ちょっと席替えが長引いちゃってな…誰だよじゃんけんにしようとか言ったバカは」


「あ、席替えしてたんだ!どうどう?良い席とれた?」


やけに盛り上がってるなぁって思ったら席替えだったようだ。


(いいなぁ……中原くんの隣…私も座りたかったなぁ…)


「あーいや、まぁ別に?一番前になったけど…」


「一番前!?最悪じゃん!え、まさかど真ん中!?日頃の行いじゃなーい?」


「うっせ、別にいいんだよ」


なんだかくやしさを感じない。


中学の頃はあんなに悔しがってたのに。



そう思いふと覗き込むと…




「あー…なるほど」


「なんだよ」


「隣が美人さんだから嬉しいんだ?」


「はぁ!?いやちげぇし!そんなんじゃ…!」


「はいはい分かりましたよー」


そう言いながら私は後ろを向いた。

そうじゃなきゃ今の顔を見られるだろうから。

今にも何かが吹き出しそう悔しそうな顔を…



ずるい……



ずるいずるいずるい!


ただでさえ同じクラス!同じ委員なのに!

となりの席だなんて!


もーーーーー!




「そんなことはいいから…見に行くんだろ?サッカー部」



中原くんの言葉で一気に現実に引き戻された。

本来の目的をすっかり忘れるところだった


「そ、そう!いやー昔みたいに中原くんがサッカーしてるとこ見れるなんて…」


「あー、いやプレイは…しないかな。やるならマネージャーぐらいがいい」


「あ、そう…なんだ」


またやったな!?

浮かれすぎだしテンパりすぎだよ私!


そんな簡単な話じゃないことなんて分かってるはずなのに…


「まぁ、軽くボール蹴るくらいなやってみようかな。さ、行くぞ」


「う、うん!レッツゴー!」


私が気にしすぎないようにフォローしてくれてるんだ…


やっぱり優しいね、きみは…





中学の頃。


私と中原くんは同じサッカー部にいた。

私はマネージャーで中原くんはフォワードだった。

二年生の頃からスタメンで皆からも一目おかれていた名ストライカーだったのだ。


ところがその夏、当時の三年生の最後の試合になったその日に事件は起きた。


後半ギリギリ。

同点のまま迎えた最後の攻め。

決めれば勝ちが確定するような絶好の場面。


中原くんは無茶をした。

お世話になった三年生達ともっとプレイがしたかったのだと後から聞いた。


その無茶で中原くんは足を怪我してしまった。


結局同点のまま後半は終わり、

中原くんは交代。

なんともいえない空気になってしまった私達はそのまま延長戦が始まってすぐに失点し、そのまま負けてしまった。


怪我はあまりひどくはなかったのだが…

中原くんはその日からサッカーを少しずつ遠ざけるようになっていった。


そのときはまだ理由は聞けなかった。


聞いてしまったら


どこか遠くに行ってしまいそうな目をしていたから……




「お?あれ!?士郎じゃん!」


グラウンドに着いたらマネージャーらしき人がこちらに駆け寄ってきた。


え、なに?また!?ライバル多すぎない!?


「なになにどした?まさかうちのサッカー部に入っちゃうの?うん?」


「年下扱いはやめろって…人の目もあんのに」


「ん?あーこれはごめん。え、かわい…あなた、お名前は?あなたも体験?それとも士郎の付き添い?彼女?」


彼女……


その言葉で私は頭がいっぱいいっぱいになる。


「いやいやいやいや!そんな!彼女だなんて…!私たちあのその…中学の頃に一緒のサッカー部にいて、あ、名前!名前は南野 春っていいます!お願いします!」


「なるほど…つまりあなたはマネージャー志望ってことかな?よろしくねハルちゃん!」

「にしても残念。こーーんなかわいい子が彼女だったらお姉さん安心だったのになぁ…チラ」


すごい事ばっかり言ってくる人だ…

でもなんだろう多分……


すごくすごく良い人だ!


「あんまりからかうのはやめてくれよ、ふゆ…喜多先輩。とりあえず、今から見学だけでもいいかな?」


「お、いいよいいよー。丁度今から一年生向けに試合形式でやるとこだったから特等席で見て行きな」


ん?この流れ、前にもあったような気が…



そんなこんなでマネージャーさんに連れられて二人でベンチに座って試合を眺めてた。


試合の様子を見てた中原くんの顔はやっぱりキラキラしてて、でもどことなく不安そうで、

まるであの時みたいな顔をしてた。



私は…



今でもその理由を聞くことはできなかった。

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