第6話 浮わつく心、染まる瞳。

昔から真面目だと言われてきた。


両親からは

「真面目に生きなさい」

「そうすれば社会で活躍できる大人になる」

「学生なんて通過点」

「勉学以外に現を抜かしていてはいけない」


そうなんども言い聞かされてきた。


私はその言葉を守るよう真面目に生きてきた。

学級委員は毎年のようにこなし、授業だって真剣に聞き、困ってる人がいたら積極的に助けてきた。


なのに……


「その、あまり言いにくいのですが、テストの点があまりよろしくなくてですね…いや、生活態度そのものはとても良いのですが、いかんせんこのままだとこのレベルの高校は難しいかと…」


私は結果を出せなかった。


あんなに真面目に生きてきたのに、

報われなかった。


両親は私に怒るわけでもなく、悲しむわけでもなく、ただ無関心になっていった。


「高校はどうするの。私立なんてうちに行かせる余裕ないからね。公立にしてちょうだい。それだったらどこでもいいから。」


私には妹がいた。

真面目で、部活にも取り組んでいて、それでいてテストも学年で3位をとったこともあった。


自慢の妹だった。


だけど、いつからか妹にばかり両親が気にかけてるような気がしてきた。


出来損ないの私には用がないのだと


そう思うようになっていった。



私はそんな家族から逃げるように地元から少し離れた高校を選んだ。


偏差値もそこそこ。

部活もそこそこ。


そんな普通の高校。



そして私は誓った。


この高校の生徒会長になろうと。


そうすれば両親も少しは喜んでくれるだろう。

妹にもカッコいい姉として映るだろう。

なによりこのくらいの高校ならこんな私でも立派に見えるだろう、と。


そんな浅はかな思いを抱えて望んだ入学式の日


彼と出会ってしまった。


学級委員が多数決なり、先生の指名なりで決まるまでの長く短い地獄のような時間を終わらせてくれた男の子。


別に特出すべきこともないような平凡な男の子。真面目そうかといえばそうでもなく、不良かと言われればそうでもない。


ただ少し体はガッチリとしていてスポーツをしていたんだろうということを思わせる。


あまり出会ってことのないタイプの人だった。

学級委員になるような人は大抵真面目な人か

逆にすごく元気がいい人くらいだったから。


このなんともないけど親しみやすさを感じる人は初めてだった。



だから、


少し浮わついてしまった。



彼はすぐに色んな人と関わりを持っていくようになった。


私と違い友達を沢山作り、休み時間でも話しながら課題を写させてもらっていたりした。


私はただひたすらに予習をし、そんな彼を羨ましく思うだけで、つまらない生活を送っていた。


そんな中でも、彼との委員会の仕事はとても気が楽になれた。


緊張してるのは伝わってくるがそれをなんとか隠そうと冗談を言ってくれながら私との距離を近づけようとしてくれる彼に、私は少し安心すらしていた。


これが、普通なのだと。


真面目に生きるだけでは得られないような、

普通の生活なのだと。


でも、そんな彼にはどうやら彼女がいるらしい


隣のクラスの南野さん。


梅原君がそう呼んだ彼女は入学式の日に彼が声を聞いて照れていた女の子だった。


わざわざクラスまで来て呼び出すとはやはりそういうことなんだろう。



ずるい。



私の時間を奪わないで欲しい。



「ごめん東城さん少し出てきてもいいかな?」



嫌だ。

できれば引き留めたかった。

でもそれを言う権利は私にはなかった。



だから精一杯の負け惜しみとして、



「いいですよ、行ってくれば。モテ男さん」



変なことを言ってしまった。

私にもそんな冗談が言えたのだと。

そう嬉しくなると同時に



よくよく考える。


「モテ男」


(あれ?中原くんがモテ男…?南野さんの彼氏なのはいいとして……)



(この言い方だとまるで…………)





他に中原くんの事を好きな人がいるみたいな


そんな意味になるのでは……


「あ、」


今さら気付く。

自分がとんでもないことを言ったことに。


(まずい、変な勘違いをされちゃう……)


そう思い中原くん達の方に目をやると、女の子と目があった。


なんだかフワフワしてて、小柄で、愛嬌があって、


私とは真逆の可愛い女の子。


先程の発言と相まって気恥ずかしい私はすぐに目をそらし、火照った顔を隠すかのように、ノートに目を通すのだった。

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