第43話 待ちぼうけ

一人、また一人と昼食と会計を終えていく。

「ご馳走様、お会計お願いするよ」

「はい、店長の気まぐれランチ定食一点ですね」

ドーリッシュがてきぱきと会計をする。

「ありがとう、ご馳走様」

「またお願いします」

ドーリッシュが笑顔で言う。

「ありがとうございました」

涼も笑顔で最後のお客を見送る。


涼はホールに出て、食器を片付けた。

ドーリッシュはもう先に食器洗い機にかけている。

「もうすぐ終わるから、ちょっと待って」

「はい。先に乾燥機から上がった食器、拭いときますね」

「ああ、頼む」

涼は乾燥機から出てきた食器を拭く。

と言っても、ほんの少し拭くだけでいい。

食器より、カトラリーを磨く方に時間がかかった。


「お、ピッカピカじゃん」

ドーリッシュは笑って言う。

「やっぱりお客様には笑顔で使ってほしいから」

「うんうん、その心意気が大事なんだよね」

ドーリッシュは感心したように言う。


ランチの後片付けを終えて、少しディナーの準備をしていたら一時間かかっていた。

ドーリッシュは制服を脱いで着替えると、煙草を吸いに行く。

「ドーリッシュさん、俺一旦寮に戻ってぴぃの世話してきます」

「うん、分かった。後で迎えに行くよ」

「はい」

涼は着替えて、賄いを持って一旦寮へと戻る。

ペットのぴぃの世話をしないといけないからだ。


「ただいま、ぴぃ」

ぴぃは眠っていた。

モルモットの習性で目を開けて眠っている。

先に部屋んぽできるよう、柵の準備をした。

部屋んぽ中に野菜をあげようと準備に取りかかろうとした瞬間。

冷蔵庫の音で目を覚ましたらしいぴぃがじっと見つめている。

「プーイ! プーイ!」

「出たな、野菜警察のサイレンが」

涼は笑って切りたてのピーマンを少しあげた。

しゃくしゃくしゃくと音を立てて、ピーマンが吸い込まれていく。

レタスを手でちぎって、ピーマンの後にあげる。

ぴぃは嬉しそうに野菜を食べる。


部屋んぽさせている間にケージを掃除する。

餌は常に置いておかないといけないから、まずペレットを交換する。

それからケージ内を清掃し、チモシーを敷いて、さらに食べられるように多めに置いておく。

上機嫌そうな、プププという声がする。

「ぴぃ、今日はご機嫌だな。おいで」

涼はさりげなく手を伸ばすと、ぴぃは喜んで寄ってくる。

抱っこして撫でると、プイプイと喜びの声をあげる。


「あ、ちょっと爪伸び始めたな。明日辺りに爪切らないと」

ぴぃはタオルがあれば比較的おとなしく爪を切らせてくれる。

だが、本来は爪切りが嫌いらしく、泣き叫ぶことがある。


ぴぃを降ろして、涼は手を洗って賄いを食べる。

「今日は海鮮オムレツだ! ホワイトソースがすごく合ってる。……美味しい!」

涼はパクパクとオムレツを食べる。

「これ、今度作ってみるかな」

ぴぃは不思議そうに涼を見た。

何してるのー? と言わんばかりのまん丸い瞳に、涼は思わず笑いそうになった。

「これは俺のご飯。ぴぃは食べられないよ」

そういうと、ぴぃは涼から視線を逸らしてケージに戻ろうとする。

「ケージに帰るの? ほら」

涼はぴぃを抱っこしてケージに戻す。

ついでにレタスとピーマン、ニンジンのスティックを小皿に入れて置いておく。

「それも食べていいぞ」

ぴぃは嬉しそうにしゃくしゃく音を立てて食べる。


涼は賄いを食べ終わると、器を洗う。

器は洗って返却する決まりになっているからだ。

一回店に寄ることはわかっているから、涼はあれこれと準備を始める。

そう、夜釣りに行くための準備だ。


ドーリッシュが迎えに行くと言っていたのだが、なかなか来ない。

「どうしたのかな?」

涼は不安げに待っていると、ノックの音が聞こえる。

「はい」

涼はドアスコープで覗いてからドアを開けた。

そこにいたのは、ドーリッシュではなく梨那だった。

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