第6話 お供え
小皿に盛られたうなぎご飯を前にして、ソレは不思議な顔をした。
「お裾分けだよ。それともお供え? とにかく、アンタの分さ」
とはいえ、固形物を食べられるのかと自分の行いに疑問が湧けば、座り直したソレが小皿を凝視する。すると、表情には変化はないものの、色のない頬が僅かに染まった。心なしか、喜んでいるように見える。
そうして残されたのは、中身そのままの小皿。
「…………」
一応、ソレの話では、人に仇なす手合いであるため、この変哲のない小皿の中身も、見た目ほど安全ではないかもしれないが――。
躊躇い一瞬、鈴子は小皿の中身を平らげた。
少しばかりぎょっとした様子のソレを見た時は、やはり拙かったかと思ったものの、先に食べていたモノと大差なく、それどころか増して味わい深いもののように感じる。
お供えしたモノを食べると味が落ちるという話もあるが、鈴子的には、あちらの方が現世のモノよりウマいもんを喰っているに決まっているのだから、お供えしたモノは逆に上手くなっているという、妙な確信を持っていた。
それも手伝ってか、美味しくいただいた鈴子は、「ごちそうさまでした」と手を合わせた。これを真似するように手を上げたソレは、気づいたようにまだ半分残っているうな重の中身へ目をやった。
「なんだ。まだ欲しいってか?」
聞けばふるふると首を振りながも、じーっと見つめるソレ。
その様子に疑問を感じ取った鈴子は、「ああ」と自分の腹を擦った。
「この歳じゃ、一度に全部は食えやしないからね。明日に取っておくのさ」
鈴子は「どっこいせ」と立ち上がると片付けつつ、
(っても、さすがに冷や飯を供えるわけにはいかないから、明日、日持ちする菓子でも買ってこようかね)
極々自然に同居者を思い、明日の計画を立てるのだった。
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