第6話 回想3: 年忘れの決闘
底冷えする寒さのなか、2人の人影が日本庭園で対峙している。
除夜の鐘の音が、夜風に乗って聞こえてくる。
片方は
一方の
「ただいまより、
水面家当主の大樹が屋敷の縁側に立ち、庭にいる2人に向けて宣言をしている。
その後ろにある広間では、乙弥の姉
「双方、決闘前に何か言うことはありますか?」
大樹が2人に問いかける。
「……僕が勝ったら、咲さんに土下座して謝ってもらう」
乙弥がまっすぐ優介を見据えて言う。
「じゃあ、俺が勝ったら――」
優介が一旦言葉を切り、乙弥に向かって人差し指を弾く。『
「死んでもらおうかな」
優介が柄から刃先まで闇を固めたように真っ黒な短刀――
「『我が手にあるは
言霊師の
「相性不利のクセに
優介が鞭を振るう。地面が大きく
「
鋼の鞭が空を切る。振るった
(
乙弥の首が吹き飛ぶかと思われたその瞬間。
バァン!
「……はぁ?」
巨大な
「
「にひひっ。
蝙蝠の翼、熊の下半身、カモシカの角。青白い肌には
「うげー、お前モノノケなんか使ってんのかよ。気色悪っ」
「儂はモノノケではない!カミサマだぞ!」
秋山が優介を
「モノノケ
優介が秋山の首めがけて鞭を振るう。が、その鞭を秋山は片手で
「わざわざ狙う場所を言うてくれるとは、ありがたいのう」
優介が鞭を手放す。
「うん?おっ?」
手を離れた鞭は秋山の
「なーんてな」
秋山の背後に回り込んだ優介が鞭の
「
「ぎゃわわわわ〜〜!?」
鞭を引き抜くと、秋山の体がベーゴマのようにスピンしてそのまま飛んで行った。
「しゅ、秋山ー!」
******
「あっはっは!やっぱり秋山じゃ優介には勝てなかったか」
決闘を見ていた甲子が、豪快に笑う。その手には小さな木彫りの笛――秋山を呼ぶための呪具が握られている。
「しっかし、乙弥もだいぶきてるねありゃあ。あたしが秋山を呼ばなきゃ死んでたよ」
甲子がとっくりを手に取り、隣に座っている亨子に酌をしようとする。しかし、鏡子がそれを制止した。
「さて、亨子はどっちが勝つと思う?」
「そうね……
亨子はそこで一度言葉を切り、甲子に微笑み返した。
「乙弥くんは負けない。そうでしょ?」
その答えに、甲子は満足そうに笑う。
「よく分かってるじゃないの。……乙弥は大して強くもないくせに、他人の揉め事にすぐ首を突っ込む。だけど、あいつは絶対、負けるケンカは売らない。ケンカ売ったからには、必ず勝って帰ってくるのさ」
2人は再び、目の前の庭園に視線を移した。
******
優介が鞭を振り回しながら、乙弥ににじり寄る。
「頼みの綱のモノノケくずれもいない。霊器を出す余力も残ってない。さて、ここからどうやって勝つのかな?
言霊師の調伏装束は、
浅葱色(女性なら緋色)が最も弱く、紫、濃紫、白の順番に強くなっていくため、「浅葱袴(あるいは緋袴)」は弱い言霊師を
優介が再び鞭を大きく振るう。鞭が風を切り、乙弥の喉元に向かってまっすぐ伸びる。
「『死ね!』」
乙弥の喉元に鞭の切先が迫る。喉笛に切先が届くか否かの瞬間、乙弥の体が宙を舞った。
「な……っ!?」
バク転で鞭を避けると、身体中に貼っていた治癒の呪符を剥がす。
優介につけられた傷は、すっかり治っていた。
「秋山が時間を稼いでくれたおかげで、傷の治療に集中できました」
「馬鹿な……!お前の霊力じゃ、あの短時間で骨折を完全に治すなんて不可能――」
そこまで言って、優介ははっと気づく。
「木戸家は木行、生命の力を司る……まさか、この庭中の草木から霊力を吸い上げたのか!」
「吸い上げるなんて勝手なことはしませんよ。ただ、
乙弥の言葉に、庭木がザワザワと揺れる。風もないのに揺れる枯れ木たちは、まるで意思を持って頷いているようだ。
「形勢逆転、ですかね」
除夜の鐘が鳴り止んだ。乙弥の反撃が、始まる。
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