現地到着


「まぁ、それなりの距離だったな」


 城塞の全貌がはっきり見えだした辺りで俺は依頼を引き受けたギルドからの道のりを思い出す。

 そもそも国の外から攻めてくるオーガーどもを防ぐ城塞だ。国境線上の辺境に位置するのだからギルドのあった街からでもかなりの距離になる。経由した村や宿場町など人が暮らせる場所の数は片手の指は超えていたように思う。


「徒歩で半月、馬車なら一週間ってとこだな」


 単純に馬に跨って駆けさせればもっと早いが、馬と言うものは世話も必要だし、飼い葉など餌だっている。


「馬を召喚出来りゃ、召喚術師もあそこまで不遇扱いされねぇんだろうが」


 一人前の召喚術師がもちうる全魔力を使って召喚できるのはせいぜいネコか兎くらいの大きさの動物がせいぜい。馬を召喚できる召喚術師と同格で別の職業の冒険者となると単独でオーガーの上位個体を残獲出来る剣士とかになると言えば、その希少さをわかってもらえるかもしれない。

 尚、この世界にそんな召喚術師が皆無かと言うとそうでもなく、少なくとも俺と言う実例が存在はしている。コスト的にも見合わないし、召喚術師であることがバレる恐れもあるのでここまで来るのも馬は召喚していないが。


「『リング』んで『ブーツ』」


 ここまでくれば大丈夫だろうと俺は移動力強化が大量に付与エンチャントされた召喚装備の指輪と靴の召喚を解除し、汎用エンチャントの施されたモノを召喚して装備し直す。


「馬の全力疾走より早い徒歩なんざ反則だわな」


 それをなしうる装備召喚こそが俺の最強の秘密でもあった。


「装備召喚」


 まず、装備とあるからわかるように呼び出すのは、身に着ける物品だ。生物でないので魔力的な意味での召喚コストは生物と比べ10~100分の1と言う破格の低さを誇る。

 これに加えて構造がシンプルだとさらにコストは下がる。生物の肉体構造は複雑なんでシンプルな構造の装備なら先の生物でないこととあわせて10000分の1にだって下げられるモノも出てくる。主にこれは単一の金属で作られた指輪なんかだが。

 で、コストの下がってる部分をエンチャントに注ぎ込むことで「馬の全力疾走以上の脚力」だとか「オーガー数体を纏めて両断する膂力」みたいな化け物めいた力を得ているのだ。

 俺が真っ先に指輪を装着するのは、コストが低い分ぶっ飛んだ凄まじい規模のエンチャントを施しているからでもある。

 もし装備召喚の存在に他の召喚術師たちが気づいたら、召喚術師は不遇どころか最強の職業と見なされておかしくないだろう。


「最悪の場合『召喚術師に非ずんば人に非ず』なんて時代が来ちまうかもしれねぇ」


 ちなみに召喚術師のような職業は才能が条件を満たしていれば神殿で儀式を受けることで就くことができる。転職も可能だが職業に就くことが目的の神殿の利用は二度目からかなりの額のお布施を要求されるため、すぐに転職というのは余程裕福でなければ無理だろうが、それでも召喚術師に就く条件を満たした潜在的召喚術師はかなりの数が居ると思われる。

 何せ召喚術師が要求する条件はかなり緩い。だからこそ俺の様に召喚術師以外に就くことのできないようなヤツも居て、前世の記憶が目覚めて装備召喚に思い至ってなければ、今でも俺は誰もパーティーを組んでくれずソロで雑用を数こなして糊口をしのぐという不遇をかこっていたと思う。


「自分同様に虐げられてた連中を放っておくのかって言われりゃ耳は痛いんだがなぁ」


 装備召喚を教えた場合の影響を考えると俺はその一歩を踏み出せずにいる。俺自身装備召喚について探り探りな部分があるのも理由の一つではあるが。


「エンチャント抜きで教えてみるって手もあるにゃある」


 この場合、影響もそこまで大きくはならないだろうが、召喚した装備を扱う技術を修めなければ大して効果はないし、独自にエンチャントの発想に至ってしまう人材がどこかで生まれれば先に懸念した世界がひっくりかねない事態に陥ることも考えられる。


「んー、人柄を見て『これは』ってヤツを何人か弟子にしてソイツらに急速に力を得ていくであろう召喚術師たちを統制させる、か?」


 そして道を踏み外しそうな召喚術師が現れたら弟子総出で潰してゆく訳だ。


「そう……だな、とりあえず一人か二人か弟子をとってソレをテストケースにするか」


 ソイツらが増長したり道を踏み外したら責任をとって処した上で不遇を囲う同胞には悪いが装備召喚の伝授は以後しないことにする。


「とりあえず弟子を見繕うのはこの仕事を終えたらってことで……」


 依頼を引き受けた以上、私事はまず仕事を終わらせてからにすべきだろう。俺は件の城塞へと歩いて向かい始めた。

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