10章 魔女、山を超える
第173話 魔女、念願の船を手に入れる
「やっと戻ってきたのね」
「ごめんね。急に野暮用ができてなかなか戻ってこれなかったのよ」
「まあいい、金も素材も一通り受け取っていたからな。船自体はほぼ完成しているよ」
ダダンへの説明はアダルに任せることにして、私とリーザとガーリーはシオンの造船所に来ている。
「色々と聞きたいこともあるが、まずは船を見る?」
一瞬だけ視線をリーザに向けたシオンだけど、リーザよりも私に船をお披露目したいのかそれぞれの紹介は後回しにするようだ。
「まあいいけど、それじゃあお願いするよ」
「ならこっちだ」
シオンの後をついていくと港の端のほうに連れて行かれた。そこには真っ黒な外装の船が陸にあがっていた。デザインは私がリクエストしたものに似た、まさしくクルーザーのような船になっていた。
「思っていたものとは少し違う気はするけどいい出来だね」
「外装は魔鉄を薄い板金にして貼り付けている。色に関しては聞いてからと思ってそのままにしているよ」
「このままでも良いけど、やっぱりクルーザーといえば白がいいかな」
「ふむ、そのクルーザーというものはわからないが白く染めれば良いのね」
「お願いするよ」
クルーザーといえばやっぱり白でしょう。黒のほうが夜は目立たないとは思うけど真っ白なクルーザーってちょっと高級感があっていいと思う。
「まあ外装や機能については後ほど改めて説明するが、まずは内装を見てもらおうか。内装はエリーの要望通りにできているよ」
「それは楽しみだね」
縄梯子を使い船のデッキまで登る。
「そういえば窓をまだ作っていなかったね」
「ああこちらで用意しても良かったけど、エリーの方で作るという話を聞いていたからね」
「まだ出来ていないから後で作るよ。できれば寸法を教えてもらえるかな」
「寸法は後で用意しておくよ」
シオンについて船の中に入る。中は思っていたよりも広く感じられる。最初に目に入ったのは左右の壁沿いに備え付けられているソファーとテーブルだ。
「このソファー高かったんじゃない?」
「まあ、相応の値段はしたね。預かっていた資金を超えているから追加でお金をもらえると助かる」
「言い値を出すよ」
「エリーならそう言ってくれると思っていたよ」
中にある家具類は貴族が使いそうなほど良さそうだった。これは下手をすると船自体の値段よりも家具類のほうが高くなっているのではないだろうか。
「とりあえず操作室に案内しよう」
ソファーとテーブルの間を進み、そこを過ぎると仕切りがしてあり二段ベッドが左右に二つあるのが見えた。そこから更に進むと階段がありその階段を上がった所に操舵室と思われる場所があった。
「ここが操舵室になる。その中央の台座に魔石を置いて魔力を流してもらえれば船全体に魔力を送ることができる。それと同時にマスター登録もできるようにしているから一度してしまえば他の者が使うにはマスターの許可が必要になるようにしているよ」
「へー、シオンってやっぱりすごいね」
相変わらず魔導具関連に弱い私にはそこまでの仕組みを作ることは難しい。そんな事をなんでもないようにやってのけているシオンはかなりすごい実力を備えているように思える。魔導具作りに関してはあの変態と組ませればなんかとんでもないものを作るんじゃないだろうか。今頃どこにいるんだろうね。
「それほどでもないよ。あの地下遺跡で手に入れた知識だからね。すごいのは私ではなく先史時代の文明だろうね」
「その先史時代の物を今の時代に使えているというのが普通にすごいんだけどね」
さっそく収納ポシェットから手頃な魔石を取り出してセットする。そのまま魔石に手を置いて魔力を流し込む。
「おっと、意外と魔力が必要みたいだね」
「ん? そんなはずわ……あっ」
今の「あっ」というのはなんだろう? と思った所で魔力がいっぱいになったようで止まる。
「それで何が「あっ」なの?」
「えっと、エリーの設計図からちょっと追加した機能があってね。きっとそれの分も魔力が必要だったんじゃないかなと」
「外観が設計と違ったのはそのせいってこと?」
「そうなるね」
「ちなみのその機能って?」
「その辺りはそこの操舵席に座ってもらえればわかるよ」
操舵室の中には椅子が三つある。そのうちの一つが船長の席であり、操舵なども可能になっているようだ。
「そういうことなら」
早速座ってみる。席から正面を向くとよく前方が見える。操舵室が二階にあるのは視界を確保するためなのだろう。座ったまま後ろを振り返ると、ちゃんと後方も見える。ただし前後左右に窓がまだついていないのでこのまま海に出た場合風で大変なことになるだろう。さっさと窓を作ってはめ込まないといけない。
「えっと、ああこうなるのね」
先ほど魔力を注いだ魔石が自然に私の正面まで移動してくる。なんというか私がいた時代の地球よりもSFをしている気がする。目の前に来た魔石に手で触れる。今度は魔力を吸われることはない。
「へー、面白いね。これってちゃんと機能するの?」
「試せてはいないのでわからないというのが正直なところかな」
「まあいいや。今動かしても意味なさそうだし暫く窓づくりに性を出すよ」
「それは残念だな。お楽しみはあとに取っておくことにするよ」
私は魔石を回収すると全員で船から外に出た。
「それで満足いただけたかな」
「ええすごく満足したわ」
追加機能も合わせるとすごく満足できる出来だと思う。あとは窓をつけて実際に海に出てみないといけないだろうけど。暫くは窓づくりに勤しむことになりそうだ。
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