第171話 魔女、魔力を注ぐ
「これ水とかに濡らしても大丈夫だと思う?」
「その程度では壊れないかと」
部屋の入口を開けた所で誇り臭い空気が流れ出してきた。このまま入るのもあれなのでお掃除魔法で一度きれいにしたほうがいいだろう。
「それじゃあ入る前に掃除しちゃうわね」
「掃除?」
早速私はお掃除魔法を発動する。まずは風の魔法で埃を吸い込んで一つの塊にする。続いてミストを発生させて部屋のすべてを濡らす事で汚れを浮き上がらせる。適当なタイミングで室内を乾燥させて再び風を起こして汚れを一つに集める。
「これできれいになったかな」
「魔術ってこういう風に使えるのね」
「これは魔術じゃなくて魔法よ」
「魔法? そういうものもあるのね」
カーミラは魔法の存在を知らなかったようだ。確かに今の吸血大陸はマナが薄いので魔法を知っていても使えないのだろう。ではなぜ今私がお掃除魔法を使えたかなのだけど、リーザの屋敷の地下にマナがあったようにこの城の地下にもマナが満ちていた。
今の今まで気にしていなかったから気が付かなかったけど、もしかするとこの大陸のマナは何らかの理由で地面の下へと下がっていっているのかも知れない。後でヴァラドに聞いてみることにする。もしかするとヴァラドも気がついていない可能性がある。
マナが地上に満ちていないと人も魔物も生きられない。吸血鬼はどうかはわからないけど、始祖より下位の吸血鬼が絶滅していることからきっとマナは必要なのだろう。
人も魔物も、そして吸血鬼もマナを体内に取り込んでオドに変えることで、身体強化をしたり魔術を使ったりしている。マナがない所で人間が活動できないというのは、この大陸に来ることになった行方不明事件でわかっている。
あれもマナがないところに来たことで、体内の魔力が枯渇して動けなくなったのが原因だった。何か解決方法はないだろうかと、たった一人の普通の人間であるアダルに視線を向けると「何だよその目は」と言われた。今のアダルは、マスターキーと言われる腕輪を付けているのでマナがなくても問題なく動けている。
つまりはマスターキーの何らかの機能がわかればマナのない場所でも活動できるようになるのだろう。ただマスターキーは一つしか……あれ? 確かマスターキーではない腕輪が。
収納から腕輪を取り出して腕につけてみる。特に何も起きない。やっぱりマスターキーでないと意味はないのだろうか? もしくはあの変態にマスターキーを調べてもらうのが確実かもしれない。
「今は考えても仕方がないか」
「なんのことだ?」
「ちょっとマスターキーのことをね。ほらマスターキーを付けているアダルってマナがなくてもこの大陸で動けているでしょ? それってなんでかなと思ってね」
「これか? 流石にわからんな。そもそも言われるまでこれがマスターキーってのも知らなかったからな」
「それでそのマスターキーの劣化品っぽいこの腕輪に同じ機能があったらいいなと思ってね」
「さあな、そのタイプのなら何個かあるから一個くらいはバラしてもいいがな」
アダルはそう言って腕輪を二つ渡してくれた。
「もらっていいの?」
「かまわねえよ。まだあるからな」
「そうそれじゃあもらっておくよ」
これは元の大陸に戻ったときに、変態に調べてもらうことにする。私は魔導具関係に関しては得意でないので専門家に任せるのがいいだろう。
「カーミラどんな感じかな?」
きれいになった部屋で装置を調べていたカーミラに声をかける。
「どれも魔力を注げば動きそうではあるわ。ただしどこに通じているかはわからないままね」
「例に魔力を流してみる?」
「かなり魔力が必要だと思うけどいけるの?」
「魔力量に関しては問題ないよ」
ちょうどカーミラが調べていた装置のところへ移動する。そこには元の大陸とリーザの所で見たものと同じ作りの装置があった。
「ここに魔力を注げばいいわけね」
転移装置に手を触れて魔力を流していく。暫く魔力を流しているとアダルのマスターキーが反応を示した。どうやらリーザのところにあった転移装置と同じでアダルのマスターキーと連動しているようだ。残念ながら私の劣化版には反応がない。
「アダルなにかわかる?」
「どうやらその装置では転移できなさそうだな。転移先の装置がだめになっているようだ」
アダルのマスターキーからホロモニターが立ち上がり、そこには転移不可と赤い文字が点滅表示されている。
「残念。そういうことならまずは全部の装置に魔力を注いでみましょうか」
私は残り五つの転移装置に魔力を注いでいく。とちゅう魔力を大量に消費してもピンピンしている私にカーミラは化け物でも見る目で見てきた。そういえばカーミラには私が転生者じゃないので、神に魔力とスキルを交換してもらっていないことを話してなかった気がする。
今更ながらカーミラが転生した時に出会った神とは、神祖のヴァラドだったのだろうか? それとも別の神を名のる存在だったのだろうか? 後で聞いてみるのもいいだろう。そういえばケンヤのときはどうだったのかな。
「よし、これで全部の装置に魔力をいれ終わったね。それで大丈夫そうなのは何個だった?」
「三つだな」
アダルがホロモニターを見ながら答えた。
「そのうちの一つは、俺たちが来た大陸に通じているようだ。だが俺たちが来たダダンのところの遺跡とは別の場所のようだ」
「そういうこともわかるの?」
「なんてかいているかは読めねえが、転移先を表す文字がエリザベータのところで見た転移先の文字と同じだからな」
「じゃあ残りの五個は別大陸って考えたほうがいいのかな?」
「さあな。もしかするとこの大陸の別の場所って可能性もある」
「結局転移してみないと何もわからないってことには変わりないか」
「そうだな。で、どうする? 早速転移してみるか?」
改めて聞かれてどうするか考える。ちょこっとだけ見てみるか、戻れない可能性も考慮して決めたほうが良さそうだ。
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