第170話 魔女、好奇心を刺激される

「我は構わぬ。もし他の大陸へ行くというのなら頼みたいこともある」

「頼みたいこと?」

「貴様もこの大陸を移動してきたゆえわかると思うが、今この大陸にはなにもない」


 言われるまでもなく、確かに何も無い。魔物もいなければ動植物も絶望的だ。なによりマナが無いのはいただけない。むしろマナをほとんど必要としない始祖や真祖がおかしいともいえる。そこ、おまいうとか言わない。私はいいのよ私は。


「植物の株とか動物を連れてこいってこと?」

「植物に関してはそうであるが、魔物に関してはその魔物の魔石でよいし動物ならその死体でも構わん」

「それでいいならいくつか融通は出来るけど」

「今の我には払える対価がない」

「ですよねー」


 結局そこに繋がるわけだ。ただ私が提供し続けるだけというのは取引としては健全ではない。ただリーザが手に入れた物となれば話は別だろう。


「ゆえに貴様がリーザを対価に望むのなら」

「私はそれでかまわないわよ。あとはリーザがどうしたいかね」


 私とヴァラドの話を聞いていたリーザは困った表情を浮かべながらカーミラとスティルハイツの服を掴んでいる。


「妾は……」

「リーザの好きなようにしたらいい、と言いたいけどぜひエリーといっしょに行くべきだと思うわ」


 リーザはカーミラを見上げる。


「カーミラ姉さまは妾と一緒にいたくないということかの」

「そうではないわ。リーザあなたにはもっと広い世界を見てきてほしいと思っているのよ」

「俺様も同じ意見だ」

「スティルハイツ兄様……」


 スティルハイツはリーザの頭をなで続ける。


「それでカーミラとスティルハイツはどうするつもりなの? 別に一緒に来てもいいわよ?」

「おぉ、そうじゃ、カーミラ姉さまとスティルハイツ兄さまも共に行けばよいではないか」


 リーザはいい考えだと言うようにそう言ったが、カーミラとスティルハイツはこの大陸に残って神祖の手伝いをするようだった。他にも大陸全土を回って色々と使えそうな物資を集めるつもりのようだ。しばらくリーザとカーミラたちはどうするかの相談をして結論を出した。


「それでどうするか決まった?」

「うむ、カーミラ姉さまとスティルハイツ兄さまの役に立つのなら妾はエリーと共に行くのじゃ」

「ということだから、リーザは私が預かるわ。その代わりそれに見合った物資を置いていくわね」

「ふむ、決まりであるな」


 こうして私の旅の仲間としてリーザが加わることになった。



 いっけん私にはなんの得もないようではある。物質的な利益は無いどころかマイナスなのは確かだ。神祖に使った肉とそれ同等の肉。追加でいくつかの魔物の魔石と植物の種も提供しておいた。


 さて、それらを提供して対価はリーザを連れて行くこと。ここにどんな利益があるのか。まあ大したものではないのだけど、答えは私の知的好奇心が満たされる。それだけだったりする。だけどこれは私にとっては大事なことだ。


 知らないことを知る、未知を探求する。本だけでは手にはいらない知識を得たい。それを無くしちゃうとそれこそなんのために生きているのかわからない。ひとところに留まらず旅を続けているのもそれが理由の大部分をしめているともいえる。


 そんなわけで、リーザという吸血鬼で神祖候補の真祖を他の大陸へ連れて行った場合どうなるのか。一応リーザは太陽の光にあたっても大丈夫なのは確認済みだけど、本当にそうなのかは直接確認してみないと行けない。


 いまの吸血大陸は夜の国となっている。そこでずっと育ってきたわけだから、太陽の照りつける大地がリーザにどういった影響があるのかなどなど、気になることが多い。危険がないように検査はするつもりだけど、太陽に対応できなければ戻ってもらうつもりではある。色々調べがいがありそうで楽しみだ。


 話し合いも終わり、私は渡せるものを一通り渡した所で一度解散になった。神祖はそのまま始祖を蘇らせる作業に入るようだ。スティルハイツは一度自分の屋敷に戻りあの首なし達を連れてくると言って帰っていった。


 そして私たちは食堂でまったりと、秘蔵のワインを飲みながらのんびりしている。


「それで俺たちは一度エリザベータの屋敷に戻るのか?」


 アダルがどうするかと確認してきた。そういえばここに来た目的の一つは他の大陸へ行く転移装置があるからだった。


「その辺りどうなの? この城にある転移装置は使えそうなのかな?」


 一番転移装置に詳しそうなカーミラに聞いてみる。


「壊れてはいないと思うわよ。ただ魔力が無いからちゃんと動かせるかは確認出来ていないわ。あとどこに通じているかもわからないわね」

「やっぱり。安全性を考えるとリーザの屋敷に戻るのが良いけど時間がかかるよね。一か八かでここの転移装置を使うのもそれはそれでリスクがあるわけね」

「そうね。ただ転移先の装置が壊れていれば転移はできなくなっているようだから、危険性はないと思うわよ」


 さてどうしたものか……、と考えてみたけど一度私が使用してみて危険がなければ、そしておかしなところに転移していないか確認してもいいか。


「とりあえず一度確認させてもらってもいいかな?」

「案内するわ」


 こうして案内されたのは地下にある広い空間。そこには六台の転移装置が埃をかぶった状態で鎮座していた。

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