第141話 魔女、大量に処分する

「というわけで、アダルはどこかいい場所知らない?」

「いきなり来てそう言われてもな。まあ心当たりがないわけではないが」


 飛竜の被膜をシオンに届けた後、再びヒューボルトに戻った。一晩宿でゆっくりした後にアダルたちと合流して、アイアンゴーレムがいる遺跡などを知らないかと訪ねた。その答えが心当たりがあるというものだった。ただし少し歯切れが悪い。


「何か問題があるの?」

「沖の方にある小島郡に一つ遺跡があるんだがな、その近くを縄張りにしている海賊がいてな」

「つまりはその海賊を殲滅したらいいのね」

「止めろ、マジやめてくれ。俺が何とかするから少しだけ待ってくれ」


 どうやら海賊と言っても別に商船を襲うのがメインというわけではないようだ。海の魔物は巨大化しているのが多い、そう言った魔物を避ける為に商船を護衛したりもしているのだとか。それなら海賊じゃなくて普通に護衛船団とか名乗れば? と思わなくもないがそれはそれということらしい。護衛を拒否する商船は普通に襲うし、海賊同士での小競り合いなどは日常茶飯事なのだとか。


 それでも海賊同士の暗黙の了解があり、護衛中の海賊を襲ったりはしないとか大型魔獣などが出たときは協力するとかそう言ったものがちゃんとあるようだ。海賊同士での繋がりもあり、あまり手を出すのはおすすめしないのだとか。そういう訳で暫くはヒューボルトで暇をつぶすことになりそうだ。



 ティッシモと同じ宿に泊まっているわけだけど、現在ティッシモは泊まっている宿以外の酒場に出向いて吟遊詩人としての活動をしているようだ。いい小遣い稼ぎになるとは言っているが、情報収集の目的もあるようだ。


 ティッシモが集めてきた話だと、数年前に二大海賊による大海戦があったのだとか。何が原因だったかまではわからないが、勝利したのが現在この街を差配している海賊の最大派閥という事になる。


 負けた方の海賊は主要人物は処刑され、後の者たちはしれっと他の海賊団の一員となったり、そのまま勝利した海賊団の下部海賊になったようだ。それ以外にも海賊をやめて田舎に戻ったとか様々だとか。


 アダルとギーラも元は負けた側の船員だったようで、昔の顔なじみもいるようだ。そしてアイアンゴーレムがいるという遺跡周辺を縄張りとしている海賊団にアダルの昔の知り合いが所属しているという事で話を着けてくれるというわけだ。


 こっそり行って中に入ってしまえばいいと思うのだけど、流石に海は監視されているのでこっそりというわけにはイカないようだ。私一人だけなら空から行けばいいのだけど、案内としてアダルたちがいたほうがいいとは思うので任せている。そういう訳で、今の私はすこぶる暇なのである。


「そういう訳で何か依頼はないかな?」

「この街では冒険者ギルドに依頼はほとんど来ないですからね。前に言ったかも知れませんが海運ギルドに行ったほうが良いと思いますよ」


 相変わらず暇そうに受付カウンターにいるリンダと話している。冒険者ギルドは相変わらず閑散としているというか、冒険者が一人もいない。


「はぁ、まあ全く依頼がないわけではないですけど」

「一応あるんだ」

「いわゆるこの辺りの地域共通の塩漬け依頼というやつですね」


 リンダは十枚ほどの紙の束を奥から持ち出してきた。紙はかなり色が変わっているようで古いとものというのはわかる。


「いつくらいの依頼か知らないけど流石に依頼者が死んでるってことはないよね?」

「えーっと……」


 改めて内容を確認して何枚かの依頼書を弾いている。その弾いた依頼書に目を向けると発行がおよそ百年ほど前の日付になっている。


「暇なんだからたまには整理整頓したほうが良いんじゃない?」

「あはは、そうですね。ただしてもしなくても一緒な気はしますけどね」


 手渡された残りの依頼書に目を通してみる。確かにこれは塩漬けになっても仕方がないような依頼ばかりだった。


「これとこれとこれならすぐに出せるけど」

「へ? えっ本当ですか?」

「ただね、どれも十年近く前の依頼だから今も有効か確認しないと駄目かもね」


 丁度いい具合に依頼の一つに飛竜の肉というものがあった。美味しくない飛竜の肉で何をするつもりなのかは知らないけど大量に入っているから処分ができるなら万々歳だ。ただし依頼が出されたのが十年前になっている上に、この街から出された依頼ではない。


 他にもキラーホエールの角もアダル達と釣りをした時に釣り上げて、お肉は食べたけど角は収納に入れっぱなしにしているのがある。これはこの街で出された依頼のようだけどこれも十年ほど前のようだ。


「お待たせしました、向こうのギルドに確認した所まだ有効のようで受け取りに来てくれるようです」

「そう? 物は今渡したほうが良い?」

「はい、保冷庫を動かしますので良ければそこまで運んでもらえますか?」


 そういう訳で保冷庫まで移動したまでは良かったのだけど、どうやら長年動かしていなかったようで魔石が経年劣化で割れていた。


「まあ、うん、代わりの魔石いる?」

「お願いできますか?」


 半泣きのリンダに代わり保冷庫を点検する。一通り見て問題ないことを確認してから新しい魔石を設置すると保冷庫はちゃんと動いた。魔石の代金も上乗せしてくれようとしたけど私としても飛竜の大量の死体を引き取ってもらえるなら助かるので、サービスということにしておいた。


 それにしても飛竜の肉を大量に引き取ってもらえるのは良いのだけど、この美味しくない肉をどうするつもりなんだろうね。私が知らないだけで美味しく食べる方法があったりするのだろうか? それならそれで少し興味がある。

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