第21話 魔女、ニーナちゃんと入浴する
「師匠、からだがうまく動かないんですけど」
「うふふ、任せなさい」
そう言ってニーナちゃんをお姫様抱っこする。
「わ、わわわ、汗まみれで臭くないですか?」
大丈夫と言いながら階下に降りて裏口からお風呂場に向かう。魔石はアーシアさんが仕舞ったのか置いてなかったので新しい魔石を取り出して設置台に置きお湯はりを開始する。お湯がたまるまでにニーナちゃんをとりあえず椅子に座らせて衣服を脱いで、ニーナちゃんの衣服も脱がせていく。
全裸になった所でお湯をすくいかけてあげる、石鹸と洗髪剤でごしごししてお湯が溜まった所で魔石を回収して湯船に浸かる。
「改めてお疲れ様ニーナちゃん」
「ありがとうございます師匠」
ニーナちゃんはお湯に浸かりながらぐでーとしている、まだ体がだるいのだろうね、うんうん分かるよ私も魔力制御を覚えた時は数日まともに動けなかったからね。
「予定としては暫くは魔力の制御を教えていくわね。今は見えない状態を維持しているけど、見える状態と見えない状態を瞬時に切り替えられるようになるのが課題かな」
「はい、師匠よろしくお願いします……、あの一つ聞いてもいいですか?」
「なあに? 私に答えられることなら答えるよ」
ニーナちゃんは先程までぐでーっとしていたのを辞めて座り直してこちらを見てくる。
「さっき師匠ならママの声を治せるって言ってましたよね」
「うん言ったね、今の手持ちの素材じゃ足りないけどね、私なら作るのは難しくないよ」
「それじゃあどうして治そうとは思わなかったのですか?」
「理由はいくつかあるかな、まずは大将にお願いされなかった、お願いされていたらそれ相応の対価をもらって依頼は受けたと思うよ」
「そうなのですね」
「それとね、大将は私が魔女の弟子と名乗ったときに、私なら治せるかもって思っただろうし、もし私が駄目でも私の師匠に渡りを付けてもらえるかもしれないと考えたはずよ」
「えっ、師匠って魔女の弟子だったんですか!」
かなりびっくりしたようでお湯の中であたふたしている、うんかわいいな。
「あれ? 言ってなかったかな?」
「き、聞いてませんよ、それじゃあ私は魔女の弟子の弟子ってことになるんですね」
正確には魔女である私の弟子という事で、そのままズバリ魔女の弟子なんだけどね、わざわざ言わなくてもいいよね。
「そうなるかな、私が魔女の弟子っていうことは内緒でね」
「はい」
「話の続きだけど、大将が私にその事を願い出なかったのは、私のことが信頼できるか分からなかったからだと思うよ。もしかしたら迷いに迷った末に頼むつもりだったかもしれないけどね」
side ニーナ
師匠になったエリーさんに運ばれて一緒にお風呂に入っていたはずなのに、いつの間にか眠ってしまって夢の中にいるのかも知れない、体がすごくふわふわしている。そんな中不意にここ一年ほどのことが浮かんできた。
わたしが自分の目がおかしいと気がついたのはだいたい一年前だったと思う。急に人の周りからモヤモヤした煙のような物が見えるようになっていた。そのモヤモヤはパパやママからも出ていて、どうしたら良いのかわからなくなっていた。
それとなく調べ物をしたいと言って図書館の入館料をもらって図書館で調べようと思ったのだけど、習っていない文字もあって余り役には立たなかった。図書館のお姉さんにそれとなく質問してみたのだけど、結局は分からなかった。
誰にも相談できないのに、いつまで経っても見えなくならない、ずっとそんな日が続くのかなと思っていたのだけど数日前にモヤモヤが全く見えない人が家の宿に来た、それがエリーさんで私の師匠になってくれる人だった。
何をしているのかわからないうちに家の裏庭にお風呂というものが出来ていたり、それを作ったのがエリーさんだったりと、なんだかよくわからない人だった。だけどお風呂はすっごく気持ちいいし、エリーさんが出してくれた石鹸と洗髪剤というものを使ったら髪も体もピカピカになるので大好きになった。
それにしても、エリーさんが魔女の弟子なのはびっくりしたよ、魔の森の魔女は悪いことをした子どもを連れて行くって言われていたけど、もしかしたらエリーさんはわたしを連れ去りに来たのかなと思ったのだけど、それを言ったらすごく笑われた。
エリーさんはわたしの目をちゃんと使いこなせるようにしてくれるだけではなくて、ママの声を治すために錬金術師になることを勧めてくれた。錬金術師になればママの声を治せるのはもちろん、ママみたいに困った人を助けることが出来ると聞いてやる気が出てきた。
だから今のわたしの目標は、この目を使いこなして、ママの声を治せる立派な錬金術師になることだ。
なんだかすっごくねむく……なって……。
◆
返事がないと思ったら、うつらうつらとしている。よっぽど疲れたんだろうね。抱き上げてお風呂から上がり魔法で水気を飛ばして、洗濯をすませておいた衣服を着せる。私もささっと着替えを終えて水を抜いて裏口から厨房へ入る。
そこには大将とアーシアさんがいたので、シーっとするように指を立てて、後でねと小声で言って部屋にニーナちゃんを連れて行きベッドに寝かせる。階下に降りると飲み物を飲みながら二人が待っていた。
「おまたせしました大将にアーシアさん」
「エリー、ニーナは……」
「ニーナちゃんは大丈夫ですよ、それと事後報告になりますけど、ニーナちゃんを錬金術師としての弟子にすることにしました」
「それは、いいのか?」
「大将とアーシアさんが駄目と言うなら無理にとは言いませんけど、アーシアさんの声を治すためにニーナちゃんはやる気ですよ」
「詳しく教えてもらってもいいか」
有無を言わさぬという感じで大将が向き合ってくる。私はさっきニーナちゃんと話した内容をそのまま話す事にする。ニーナちゃんの”見る”能力のこと、その能力は大将から受け継がれたものだという事。アーシアさんの声を治すだけなら私が出来ること、ニーナちゃんの能力は錬金術師になるには有用で有利なこと。
そしてニーナちゃん自身に自分の能力を好きになってもらいたい事や、嫌いなままだと危険だという事。好きになって貰うのにはアーシアさんの声を治すという目標を持ってもらう事などなど。
「エリーお前はそれで良いのか? お前にも何か目的があるんじゃないのか?」
「私ですか? 私には特に急ぎの用事とか無いですよ、それよりも大将とアーシアさんが私にニーナちゃんを任せられるかどうかが大事だと思いますけどね」
「それに関してはこちらからお願いしたいくらいだ、ニーナがずっと悩んでいたのは知っていたし色々ツテを探してみたが俺たちにはどうすることも出来なかった。それを解決してくれたのがエリーだからな」
「わかりました、ニーナちゃんの事は任せてください、錬金術師の弟子としてお引き受けします」
こうしてニーナちゃんは、親公認の正式な弟子となることが決まった。
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