その二


 雪山の洞窟の奥処に、篝火が焚かれている。

 「なぜ、燃やす?」

 と、赤い鱗のレインが言った。

 「だってもう読んだもの」

 篝火が、ユウナの火照った横顔に陰影を齎す。

 陰鬱な横顔だった。レインとユウナの相対的なポジションは、レインが奥処のひらけた場所に居て、出入り口をふさぐように篝火の彼方にユウナが立っている。

 「傷はどうだ?」

 「ん~、なんとも言えない。痛くはないんだけど、そろそろ包帯を変えるべきかも……」

 「そうか。だが、のんびりは出来ない」

 「そりゃそうよね。こんなところで死ぬなんて真っ平御免だわ」

 「腹が減った……」

 「そうね。食糧はどうするの。わたしも、お腹が空いた。こんなんじゃ餓死するだけ……。のたれ死にもいいとこよ。あなたも飢えてる」

 「飢えは時折精神の糧となる。皮肉だな。富める者が病む、病んだ者が、時に幸福となる」

 「ねえ、わたしの下着の色、何だと思う?」

 ドラゴンは沈黙した。

 「何か云ってよ」

 「もう行こう、ユウナ。時は来た。この暗い洞窟に潜み続けるよりも、大空を飛び廻って、自由を感じたいんだ」

 ユウナはドラゴンの背に乗り、洞窟を凄まじいスピードで飛び出る。その竜影を、偶然にも私は見た。

 ふっと空を仰ぐと、ドラゴンの背に乗った少女が見えた。私は複雑な表情を禁じ得なかった。即ち、涙を零した理由が、判然としなかった。彼女は今度こそ、復讐を成し遂げるだろう。


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