第3話  水曜日 泥沼のプラン

「レン~」


 今日はご機嫌な声で呼ばれる。

 不安を感じたが覚悟を決めた。

 こいつのためでもある。


「宿題できた」


「はあ~。

 聞いてあげるよ、花火の日用事ないか」


「それだけ?」


「自分のことなんだから自分でなんとかしろ」


「うん。

 私と行ってくれるかな」


「どうだろうな」


 急にかわいらしくなった。

 俺にはあんなに無茶言うのにホントに不安なのか。

 だが負けない。


「レン冷たい」


「どこがだよ」


「カワイイ幼なじみが困っているのに」


「自分のことだろ。

 少しは自分でなんとかしろよ」


「いつからそんな冷血になっちゃたの」


「変わってないよ」


「昔は何でも俺に任せろって」


「それはお前の話じゃないか。

 そんなこといった覚えはない」


「あったよ。

 風に飛ばされて木に引っかかった私の帽子をサッカーボールで落としてくれた」


「いつの話だよ」


「小学校1年生になる年の春一番。

 強風に飛ばされた私のお気に入りの帽子。

 すぐにとってくれた」


「ホントか」


「間違えないわよ」


「よく覚えているな。

 記憶力も良いとは思っていたけど」


「記憶力の問題じゃないし。

 レンが私の役に立つなんて年に一回くらいなんだから、そのくらい覚えてあげないとかわいそうかなって」


「痛み入ります」


 そういえばそんなこともあった気がするが


「しかし、ずいぶん遡ったな。

 どうせ出すならもっと最近の話にしてくれ」


「しょうがないじゃん。

 ないんだから」


「そんなことないだろ」


「ちなみに去年私の役に立ったのは、先輩に彼女がいないって情報くらいかな」


「そうですか。

 お役に立てて良かったです」


「もう少し使えると私も助かるんだけどね」


「申し訳ございません」


「で、私が先輩に誘わないといけないの」


「そりゃそうだろ」


「私の役に立つチャンスなのに」


「立たなくて良いよ」


「そんな。

 自信を持って。

 レンなら出来るから」


「都合のいいことを

 自分のことなんだから自分でなんとかしろ」


 イラつきを感じた。


「無理」


「じゃああきらめろ。

 もういいか」


「だめ。

 レンなんとかして」


「なんとかって

 他力本願にも程があるぞ」


「例えば先輩から私に声を掛けてもらえるようにするとか」


 都合の悪いとこはスルーしやがって


「どうやって」

 

「ちょっと考えてみる」


「だいたい、声もかけれないのに先輩と花火デートできるのか」


「・・・ わからない」


「・・・」


 しばらく無言で歩るく。

 こいつは何か考えているようだ。

 また俺に何かさせようとしているんじゃないだろうな。


 静かな住宅地に入り、別れ際になって急にあいつが口を開く。


「レンッ」


「・・・」


 さっきとは打って変わって明るい声だ。

 嫌な予感がした。


「さっきの話だけど、まず先輩に土曜日用事ありますかって。

 あるって言ったらまた再検討。

 もし空いてるって言ったら俺たちと見に行きましょうって誘うの」


「俺たちって」


「俺たち。

 レンと私」


「・・・ で」


「でって。

 それでとりあえず三人で花火を見て、頃合いを見てレンは帰って良いよ」


「なんだそれは。

 突っ込みどころ満載というか、全部おかしいぞ」


「どこが」


「お前、先輩と二人で行きたかったんじゃないのかよ」


「考えてみたんだけど、先輩と二人きりなんて私失神してしまうかも知れないし、レンが居ればちょうど良い」


「はあ。

 で、お前が落ち着いたところで俺は退散するのか」


「そこまで行ければ良いなあって目標。

 もしかしたらレンに最後までいてもらった方が良いかも」


「無理だろ。

 諦めろ。

 お前には早い」


「えー。

 頑張るから」


「だったら頑張って自分で誘え。

 他力本願が過ぎる。

 恋愛で。

 一体どうしたいんだ。

 先輩と花火みれれば満足なのか」


「こっ、告白しようと思うの」


「何の」


「言わせたいの。

 つ、付き合ってほしい。

 男と女のとして」


「なんて言い方を。

 昭和か」


「告白するって考えただけで無理。

 ねえ、どうすれば良いと思う」


「だから俺に聞くか」




 布団に入って明かりを消す。

 はあ。

 あいつの話を思い出してしまった。

 無理だろ、どう考えても。

 相当ひどいぞ。

 気持ちとしては認めがたいが、学校では優等生と言って良いと思う。

 恋愛ではここまでポンコツだとは。


 しかし考えてみると、なんだかんだ言って俺はあいつが好きなんだと思う。

 一緒に帰れない日は少しさみしく思ってしまうし、振り返ってしまう。

 あいつの相談も本当は嬉しく感じているような。

 感づかれているのかな。

 あいつを助けてやりたいとも思っている。

 先輩があいつのことをどう思っているか知らないけど、さっさと告白しないから俺もどうすることも出来ないし、今週はどんどんあいつのことが好きになっていく感じがする。

 今回でなんとか決めてくれよ。

 いや無理か。

 どうする。

 あいつも相当深みにはまっていると思うが、俺もかな。

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