第十一話 隠れ家 その一
『きゅるるる〜』
渓谷に、“ご主人”の腹の音がこだまします。
「今のは、“木霊”だかぇ~?」
“団子”は、とぼけておるのでしょうか…。
「何をいまさら…。“ご主人”の、腹歌で御座いますに。」
とうの“ご主人”は、フラフラ歩いております。
「そうだか〜♪ なら、村の人にもらった胡瓜でもかじるだか〜。」
「おぉ~。それがあったの〜!」
“ご主人”は、風呂敷に包み“団子”に縛り持たせていた胡瓜を取り出しました。
「ん〜!? 減っておるな…。」
「何をいっておるのです…。あっし(私)等は、胡瓜など食べませんよ。」
「そうか…? 気のせいかの…。(バリッ! モグモグ)」
まったく、食い意地の張った“ご主人”で御座います。
「にしても、胡瓜というのは…(バリッ)、味気がないの…(モグモグ)。」
「頂いた物ですよ。失礼です。」
「そうだが…(モグモグ)。そうだ! 魚でも捕まえよう!」
「おら! 魚、とっ捕まえるの得意だ〜!」
ちょうど小川沿いを、歩いていたところです。
“ご主人”と“団子”は、荷物を投げ捨て小川に飛び込みました。
「“おやびん”、足元だ〜。」
「おりゃ〜」『ジャパンっ』
『ジャポンっ』「ふんぅがが〜(捕っただ〜)」
「“団子”、やるじゃね〜か。」
まったく…、川で遊ぶ童の様です。
そんな“ご主人”と“団子”を、あっし(私)は川辺から寝そべり見つめておりました。
小川のせせらぎ…、童が遊ぶ水しぶきの様な音…、心地の良い日差しに、うとうとしてきたところでした。
スッと背後に、影が動いたように思えました。
「むむっ!」
童が風呂敷の中の胡瓜をむさぼりとっております。しかし…、何処か様子がおかしい…、緑色の肌、胡瓜をつかむ指の間には水かき…。…!? “河童”です!!
「ガブッ!」
「フンギャ〜!」
あっし(私)は、とっさに胡瓜をつかむ“河童”の腕に噛みつきました。
“河童”は叫びながら、あっし(私)を振り解き逃げ出します。
「何だ“アレ”は?」
「かっ“河童”だ〜。胡瓜を盗みに来ただ〜!」
“ご主人”達も騒ぎに気づき、ふんどしのまま刀だけ手に取り、逃げる“河童”を追いかけます。
“河童”は、ピョンピョンすばしっこく逃げていき、森の中で見失ってしまいました…。
「あの野郎〜。今度見つけたら、口に手つっこんで胡瓜を引き抜いてやる。」
「“ご主人”。たかが胡瓜です。もと来た道へ戻りましょう。」
あっし(私)等は、トボトボ歩き川沿いの道へ戻ろうと歩き続けましたが、行けども行けども川までたどり着けません…。
「おかしい…。そんなに森の中へ深く入ってないはずなのに…。」
「んだ〜、景色も変わらねぇだ〜。」
「“ご主人”。あそこに、お屋敷があります。住人に、道を尋ねましょう。」
途方に暮れておるなか、古びたお屋敷があるのに気づきました。
“河童”を追っている時に、お屋敷など無かったはずです、何より森の中にポツリと…、人が暮らしておるのでしょうか…。
不自然ではありますが、すがる気持ちで尋ねてみました。
「申し訳ない。誰かおられますか。」
(し〜ん…)
玄関の前で“ご主人”が声を張り上げ呼びかけますが、何も返事がありません。
「ん…!?。開いておるぞ…。」
“ご主人”は、引き戸を勝手に開け中に入ってゆきました。
なんと失礼な…、何よりふんどし姿で、余計怪しまれます!
「ごっ…、“ご主人”。いけませぬ! 失礼ですよ!」
ズカズカ上がり部屋を見て回りますが、やはり誰もおらぬようです。
「“オハギ”。そう心配するな。空き家のようだ。これはこれで、問題だが…。」
「旅人よ…。道に迷われたか…?」
「うわっ!?」
暗い部屋の奥から、声が聞こえてきました。
「もっ、申し訳ない。空き家かと思いました。」
その暗い部屋には、座布団が三枚敷いてあり、その奥に“翁”が煙管を吸いチョコンっと座っておりました。
「謝らなくてよい…。知っておった…。“河童”を悪く思わんでくれ、あいつはそういう奴じゃ…。」
「“河童”を追いかけてきた事も、ご存知で?」
「そんな気がしただけじゃ…。」
つかみどころの無い奴です。人の気配など無かったのです…、敷かれた座布団も…、やはり、あっし(私)等が来るのを知っていたのでしょうか。
「“犬”よ。そう気持ち悪がらんでもよい。さぁ、座りなされ…。」
全て見透かされておるようです。心を読むといわれる、天邪鬼という“ものの傀”の話を聞いた事があります…。その類でしょうか…。
「フォッフォッフォッ。」
“翁”は、不気味に微笑み、煙管の灰を竹皿に落とし、掃除をしながら話し始めました。
「旅人よ。自分が何者か、分かっておらぬな…。故に旅人か…。今は、非道な者を討ちたいと思っておるのか…、刀がそう言っておる。」
「“中の国”に、争いをばらまく者がおります。もしかして貴方なら、何かご存知ですか?」
「そなたは、自分が何者かは、気にしておらんのだな…。うむ…、それもよし。そのまま進めば、その者を討つことが出来よう。しかし…、その者を討つことが出来たら、どうなさる…? また次の者を討つか…。それもよし。それ故に旅人か…。しかし、本当は何を望む…。うむ…、旅の先に答えがあるのかもしれぬな…。」
次に“翁”は、あっし(私)に煙管を突き付け話し出しました。
「“犬”よ…。おぬしの主人は、何処におる…?」
穏やかですが、槍で刺されたような言葉…、何を見透かしておるのでしょうか…。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます