004
気が付けば俺は飛んでいた。
どこをって空をだ。
いや、
正確には空中、
という方が正しいかもしれない。
とにかく、
俺は飛んで、
何かを貫通して飛び続けた。
そう思ったのは、
一瞬辺りが暗くなったからだ。
そして再び明るくなった、
ということは、
つまりそういうことなんだろう。
ってことを、
何度か何かを貫通して学んだ。
ところで。
……俺はいつ止まるの?
<連続飛行時間1000を達成しました>
<EXP報酬を獲得しました>
<Qualが10増加しました>
<SPを獲得しました>
そんな表示が出て、
またか。と思う。
俺はまだ飛んでいる。
どこまで飛んでいくのか分からないが、
とにかくここは海の上だ。
こんなことになってるのは、
連続飛行時間とやらが10に達した時だった。
その時に、視野[全方位]ってスキルが生えた。
その瞬間、
無いはずの脳みそが揺さぶられて、
一瞬意識がブラックアウトしたが、
まわりが明るくなると同時に目が見えるようになった。
それまでは明るさぐらいしか分からなかった。
飛ぶのが速過ぎて、
周りに何があるのかも分からなかったからだ。
それが、何があるか分かるようになった。
そこは森の中のようで、
周りを観察している最中にまた何かを貫通した。
それはたまたま何かの動物だったっぽいんだが。
その時、俺は思ったわけだ。
……これもしかして、
人間貫通したこともあるんじゃね?と。
俺は慌てて、
身体を動かそうとしてできなかった。
何故かはわからないが、
とにかくできなかった。
だから、祈るしかなかった。
どうか、人間には当たりませんように、ってな。
そしたら言われたんだ。
<SPを使用して軌道操作を獲得しますか?>
って。
ちょっと悩んだけど、獲得した。
それで、俺はやっと止まれると思ったんだが。
無理だった。
石。
貫通した。
岩。
貫通した。
地面。
貫通して恐くなったから、
すぐに地上に出た。
どこかの街の城壁。
普通に貫通して人に当たりそうになったから、
慌てて上空に逃げた。
その間に鳥を一羽貫通して、
もしかしてドラゴンとかいるんじゃね?
と気付いた俺は山に向かい。
山を一つ貫通した。
なんか一瞬周りが一気に赤く眩しくなって、
気が付いた時には貫通してて恐くなったから、
もう二度と山を貫通しないと決めた。
山を探索して、化け物の身体を幾つも貫通した。
そんで、
金属の塊のゴーレムっぽい何かを貫通した時、
俺は諦めの境地に達していた。
まさかコイツが、
ドラゴンより柔らかいってこたぁ無いだろうと。
そう思った俺は海を目指した。
理由は、何にも気にしなくていいからだ。
そうやって俺は、
こうやってぼーっと意識を飛ばして過ごしてる。
どれぐらい海の上を行ったのか。
俺はとうとう静かになった、
アナウンスさんの存在を忘れかけていた。
そんな時のことだった。
<連続飛行時間2147483647繧帝#謌舌@縺セ縺励◆>
<EXP蝣ア驟ャ繧堤佐蠕励@縺セ縺励◆>
<Qual縺?147483647蠅怜刈縺励∪縺励◆>
<SP繧堤佐蠕励@縺セ縺励◆>
おっと、
おっとっと?
にわかに思考が覚醒した。
いやいやいや、
これはまずいんじゃないの?
と俺が思った瞬間。
俺はほんの少し抵抗を覚えた何かに衝突した。
こんなことは一度も無かった。
抵抗を覚えるなんてことは。一度も。
俺は一体、何に当たってしまったんだ?
と、思う間もなく。
俺の身体は、
何らかの力を受けて、
ようやく、
停止した。
そこは、なんというか、何も無かった。
真っ暗だっていうのに、
何もないということだけが直感的に分かる。
そんな空間だった。
そう、虚無だ。
無いが在る。
そこには、
本当に何もない、
はずだった。
そこに、
俺という異物が紛れ込んだことによって。
………一体、どうなってしまうんだ?
その日。
邪神が封印された島のある大陸南部が。
何らかの力によって丸ごと吹き飛んだ。
それはまるで、
何か巨大なものが爆発したかの如き爆発だったそうな。
ところが。
全くの無音だったという。
まるでそこに在った全てのものが、
粉々に砕かれる様が直感的に理解できたという。
そうして、
何もかもが跡形も無く消滅した、
そこには。
古びた金属が落ちていたそうな。
それは、
円錐の底面と円柱の上部を、
滑らかに溶接した様な形状で、
少しの凹みも無く、
傷も無かったという。
あれほどの未曽有の爆発の最中にありながらも、
全くの無傷であったというそれは。
今も、
とある王国の宝物庫に、
ひっそりと安置されているそうな。
光を感じて、
俺は目が覚める。
そこは見覚えがあるとか、
そういう次元の話ではなく、
実家か、と思えるほどには見た、
博物館の倉庫っぽい場所だ。
そこは、
定期的に誰かに管理されているらしく、
その日も、そうなのか、とだけ思い、
目を閉じようとした、
その時だった。
「ふーん、宝物庫、ねぇ」
聞き覚えの無い声が聞こえた。
随分と若いその声は、
俺が飾られていると思われるケースの前で立ち止まり。
その興味深そうな視線を俺に釘付けにした。
そして。
「………え゛」
とても美少女とは思えない声を上げた。
「私より強い銃弾とか、嘘よね。ってか、表示バグってるんですけど」
『それは俺も常々思ってるよ』
「しかもしゃべるし。……って、え?」
『………え?』
その日、
俺は人の温もりを思い出した。
***
蛇足
裏設定
主人公が突入したのは時空のひずみってやつです。
世界を微妙に角度をつけて飛んでいたために、
糸を巻き付ける様に間断無く、
螺旋状の軌道を描く内に、
普通に撃ったんじゃ当たらないような、
何千万分の一ぐらいの確率に、
ヒットしてしまった、
というお話でした。
なお、世界は球状です。
とても不安定な空間の歪みに、
本来なら入り得ないはずのスキマに、
ねじ込むように入ってしまったため、
一気にバランスが崩れて崩壊。
原子レベルまでバラバラになりました。
ちなみにそのひずみは、
邪神が暴れた際に生まれたもので、
インガオホーというやつでした。
この後彼は、
仕事が遅い神に振り回される、
可哀そうな自称勇者ちゃんと共に、
超スピードで通過した世界を、
旅しなおします。
彼らの行く末や如何に!?
※続かない予定です。
短編集003 グミ好き @gumisuki59
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