第11話 姫宮ユウカの悶々(another side)
勉強机についたまま、私はボーっとしていた。
ドルフィンパンツから伸びる両足を落ち着きなくぶらつかせながら。
「しちゃったんだ……ホントに……」
唇に触れて、あの瞬間の感触を思い出す。
柔らかく、甘酸っぱい初めての経験。
陽の光が差し込む教室で、彼に……タケルにキスを……。
「ユウカ~ご飯よ~降りてきなさーい」
恍惚とする私の意識を現実に引き戻すようなママの声が聞こえた。
我に返って返事をする。
「は、はーい。もう降りるー」
あーもう、何やってるんだ私。
勉強しようと思ってたのに帰宅してから2時間近くずーっとこんな調子だ。放課後の記憶がずーっと脳でフラッシュバックして、何も手につかない……
あーもう。
大体、タケルが悪い。
こんなに好きにさせたタケルが悪い
あんな思わせぶりなことしておいて、未だに私のこと避けてるし、今日だってぶっきらぼうな会話しかできなかったし……
あーもう。
でもそんなとこも好き。大好き。
色々考えてそうで、だけど言葉にはしない思慮深さがあるってことだもん。
てか、なんで彼は私のこともっと見てくれないの? 他の男子からの視線は気持ち悪いけどタケルになら見られても良いって思えるのに……
もしかして私が近寄りがたい雰囲気出しちゃってるとか? えー、でもそれはないか、だって今日だって私から話しかけに行ったし? 会話も良い感じにできてた気がするし? オレンジジュースは買ってきてくれなかったし、後から来たよく分からない女とどっかに行ってるの見て悲しくはなったけど、でも、大丈夫だよね。
だって、タケルは私のことが好きなんだから。それだけは絶対に揺るがないんだから。――私が好きで、あれだけ好きだったエンドコンテンツ攻略を辞めたんだから。
あ―もう好き。好きが抑えきれない。なんなのマジで、アイツ。
いっつも気だるそうで、その癖EUの話とかしたくてたまらないのにコミュ障だから輪に入れず一人孤独に過ごしてる様とか……愛おしすぎる! バカ。でもそんな馬鹿な彼が好き。
あぁ、もう……我慢ならないッ!
私は荒ぶりながら白紙のページに「湊タケル」と「姫宮ユウカ」と書いた。そしてその名前を♡で囲う。
それからそのページだけを切り取って、机の引き出しにしまった。
……そろそろ溢れちゃうからファイルに綴じないとだなぁ……
昂る気持ちはルーティンで抑えた。後は……
「結局タケルを呼び出してたあの女、何用だったんだろ」
なんかのほほんとした雰囲気でタケルを呼び出して、私に許可なく近づいて……
タケルのことを信じてるから、交友関係を広げる邪魔はしたくないけど、悪い虫は付かないようにしないとね……。
私はスマホに手を伸ばして、いつものグループチャットに呼びかけた。
――今夜22時、親衛隊は広場に集合。遅刻厳禁
私からの全体連絡に、すぐさま何件かのレスポンスが届く。そのどれもが了承の意だった。
さすが、私の親衛隊ね。
安堵したところに、少し語気の強いママの声が聞こえてきた
「――ユウカ、何してるの~。ご飯冷めちゃうわよ!」
「ごめんー、もう降りるからー!」
私はようやく椅子から立ち上がり部屋を出て、リビングへと続く階段を下りる。
「……タケルと結婚したら、何階建てに住もうかなあ。子供は9人? いや、18人? それとも11人? ふふっ、頑張らなくちゃ……」
魅惑な笑みを浮かべる姫宮家の長女、姫宮ユウカ。
今日の姫宮家の夕飯はカキフライだった。
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