第12話「初めてのダンジョン」
ダンジョンは街の外に出て、徒歩十分くらいの距離にあった。
見た目はただの洞穴である。
「本当に監視しやすそうな場所にあるんだ」
三郎丸も思わずつぶやく。
「では皆さまに渡しておきたいものがあります」
とオリビアが言うと、アイシャとリリーが肩にかけていた大きなカバンから、ひとつの白いバッグと四つの紫色の腕輪を取り出す。
「このバッグはモンスターの部位、拾ったアイテムなどを収納するもの。腕輪はモンスターの魔力を回収するアイテムです」
とオリビアは説明する。
「元の世界に帰るために必要な魔力って、これで貯めるんですか?」
本郷の質問に彼女はうなずいた。
「ええ。皆さんが使う魔力とは別物なので、これで魔力を回復したりはできませんよ」
「できないんですね」
三郎丸はちょっと残念そうに言う。
できるなら魔力の残量の心配が減るかと思っていたのだ。
「さて、誰から入る?」
と竜王寺が三人の仲間の顔を順に見る。
「俺からが無難かな」
と三郎丸は手を挙げた。
中級呪文の習熟度も身長も一番高い。
「妥当だね。ウチも前に出ようか」
と綱島も手を挙げる。
本郷がチラリとオリビアを見ると、
「わたくしは口を出しません。危ないと判断したら加勢いたしますが」
微笑みながら距離をとるような発言をした。
「ゆりかごからいよいよ出ていくときってことか」
綱島は張り切っているようで、右腕をぐるっと回す。
三郎丸が最初に洞穴の中に入り、彼女が続く。
「真っ暗じゃん。どうする?」
と綱島が三郎丸に聞いた。
「火よ、荒ぶる力を見せよ【フラム】」
三郎丸は火属性の下級呪文を唱えて、自分のすこし前に火の玉を移動させて光源とする。
「なるほどね」
綱島は感心したが、続いて入って来た本郷が首をかしげた。
「三郎丸くんひとりだと負担が大きいよね? ほかに何か考えたほうがよくない?」
「同感だけど、あーしは水だから光らないんだよね」
四番めになった竜王寺はそう言って綱島を見る。
「下級呪文をやたら練習させられたのは、こんなときのためだったか」
綱島は何かに気づいたと苦笑い。
竜王寺のあとから入って来たオリビアは何も言わずに微笑んでいる。
「バランスが大事ってこういう意味もあったんだね」
三郎丸はしみじみとつぶやく。
「光源を作れる人がいないときついし、ひとりに負担が集中するのもきついね」
本郷はぶつぶつと言っている。
「綱島の雷属性が光源になるか、たしかめておいたほうがよくない?」
と三郎丸は提案した。
「そだね。雷よ、荒ぶる力を【トネール】」
綱島は同意して雷属性の下級呪文を唱えて、雷球を作り出す。
三郎丸は自分の魔法を一度消した。
「この明るさならできそうだね」
「ならふたりで分担すればいいか」
三郎丸と綱島はふたりうなずき合う。
「今回は俺がやってみよう。火よ、荒ぶる力を【フラム】」
綱島は魔法を消し、三郎丸が再度火の玉を掲げる。
「じゃあ中に進んでいこうか」
三郎丸が言うと、
「わたしは後ろを警戒してるね」
と本郷が応じた。
「後ろからか……じゃあ横穴とかもあるのかな」
三郎丸はすこし不安になる。
「やっべー、ダンジョン舐めてたかも」
綱島の表情に緊張が宿った。
「四人だと人手不足かも? 前、横、後ろの四方向を警戒して、敵が出たら即応するんでしょ?」
本郷が懸念を示す。
竜王寺が三郎丸に話しかける。
「三郎丸さ、ゲームとかだとどうなってんの?」
「ゲームはゲームだから参考ならないよ。ゲームなら呪文使い四人ってパーティーを避けることだってできるし」
ゲームを参考にするのは危険だと彼は答えた。
「言ってることわかるけどさ、自分たちで考えるなら、参考になるものは何だって多いほどよくね?」
竜王寺は切り返す。
「それはたしかに」
三郎丸は納得して大きくうなずく。
「フィクションだと索敵は省略されているか、斥候と呼ばれるポジションの人がひとりで受け持つことが多いね」
「省略されんのか……いや、いちいち敵や罠を探すって面倒そうだけど」
綱島はそっと息を吐き、返答を聞いた女子たちの反応は微妙だ。
期待していたものとズレているのだろう。
「たしかにその辺は全然考えてなかったなぁ。【魔法適性】の俺がやるのが一番だと思うけど」
というかほかに選択肢はあるのだろうか、と三郎丸は思う。
オリビアに教わってないのは、気分で考えろということだろう。
「罠対策や灯りならわたしが錬金術で作るという手もあるよね」
と本郷が提案する。
「そうだね。これってダンジョンに入る前に話し合ったほうがいいやつでは?」
三郎丸の発言に女子たちは苦笑した。
「この段階で気づけて良かったね」
と本郷が言う通りだと彼は思う。
「後悔してからじゃあ遅いもんな。そのためにこのタイミングで、突き放されたのかも」
三郎丸は推測をしてちらりとオリビアを見ると、彼女は微笑んでいて「正解」と言われた気持ちになる。
「ほかに何か気になることある?」
と三郎丸がメンバーに問いかけた。
「特にないかも」
綱島が最初に答える。
「あとは戦闘こなしながら気づくしかなさそう」
と竜王寺は言い、本郷は無言でうなずいた。
「あ、バッグは誰が持つ?」
と三郎丸が忘れかけていた質問を放つ。
「わたししかいないと思う。三郎丸くんと光ちゃんは無理でしょ」
本郷が即座に手を挙げる。
「ふたりには前で踏ん張ってもらって、桜はわたしが守ることになりそうだね」
と竜王寺も言う。
「まずは一回これでやってみようか。ダメそうなら逃げ帰るか、オリビア様たちに助けてもらおう」
いま正式に決める必要はないと三郎丸が言外に告げると、女子たちは黙って賛成した。
「見栄をはってもしゃーないしね」
と綱島が笑う。
初めての実戦なのにほどよく肩の力が抜けていて、三郎丸は心強く思った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます