第57話 ひらり、ふわり
ノイカは製造ラインエリアをくまなく探してみるも、リンファらしき姿は何処にも見当たらなかった。
――ほんっと、何処にもいないじゃないの!
なかなか見つからないことに対してノイカはだんだんと苛立ちを覚えるが、こんなところで地団駄を踏んでいても仕方がない。
ノイカは自分を落ち着かせるために深呼吸をする。
わざとらしく腕を大きく広げ上を見上げた視線の先に、異様な光景が映った。
恐らくは倉庫内を警備するアンドロイドなのだろう、それが両腕を千切られた状態で天井に突き刺さっているのだ。
ノイカの位置からでは首から上が天井の中にあるため、首を縄で吊った人間のように見えてしまう。
あまりにもショッキングな状態に、彼女は深呼吸をするどころではなくなってしまった。
――なんでこんなところにアンドロイドが突き刺さってんのよ……!
考えられる原因などただ一つしかないのだが、そこまでしっかり思考が回らなかった。今のノイカは心中全く穏やかではない。
彼女が付近を探索すると、バラバラにされたアンドロイドの部品がどこかに向かって続いている。
まるでヘンゼルとグレーテルのようであるが、落ちているのがアンドロイドの四肢では物騒というほかない。
ノイカはその部品を落としている存在が向かった場所に検討がついてしまい、一気に心拍数が上がった。
――あっんの、ライフルオタク!全然大丈夫じゃないじゃないっ!
悪態をつくよりも先に脚を動かすべきであることはノイカが一番よく分かっている。
彼女は製造ラインエリアへついた時よりも早く、来た道を戻っていくのだった。
◇
ノイカとアルバートと別れてから、アイは保管庫エリアで、件の『リンファ』を探していた。
『というか、アイ。あんた、リンファの見た目、知らないじゃない』
見た目も分からないのに探せるのかという当然の疑問をノイカがアイにぶつけてきたのは先刻のこと。
彼女たちが持つ端末には写真を撮る機能もあるのだが、如何せんこの場にいないもののデータを作り出すのは難しい。
アルバートの端末の中にならリンファの画像情報があるのではないかとも思ったのだが、どうやら先のセントラル解放作戦で端末を壊しているらしく、バックアップもしていないとのことだった。
『大丈夫。キミとアルバート以外で人間を示す生体反応があれば、それがリンファということになる』
元々倉庫の中には人間がいることはめったにない。
イーストエリアで働いている者のほとんどは畑で作業をしているのだ。
何をさせられているのかはノイカたちも知らなかったが、収穫物の格納ぐらいでしか人間は倉庫に行くことはなかった。
ましてや小麦と大豆の収穫はまだ先の事なので、この付近には誰もいないということになる。
アイの回答にノイカも納得したのか、彼女はそこで引き下がったのだった。
保管庫エリアは中央のスペースが吹き抜けのようになっていて、二階から一階部分を見渡せるようになっている。
またこの吹き抜けがある場所だけ天井がガラス張りになっているようで、日の光が倉庫内の埃を照らしていた。
――正直、二階部分は必要ないように思うのだけれど。
アイは二階部分を見上げてそんな風に考える。
ここに来るまでの倉庫の使用状況を確認したが、備蓄されている品に対して倉庫が広すぎるのだ。どう積算しても倉庫のスペースが余ってしまう。これは合理的ではない。
そんな余計なことを考えているアイの視線の先にひらり、と光に反射する何かが映った。
それは無機物ではなく有機物が持つ特徴的な曲線である。
二階部分から何かがこちらを見つめているとアイが思った直後、それが舞い降りてきて、重力など感じさせない動きでふわり、とアイの目の前に着地した。
宙を漂っていた長い髪が、彼女の動きから一秒遅れて、彼女の体に追いつく。
頭の天辺から毛先にかけて金色とピンク色のグラデーションになっている髪はこの世のものとは思えぬほどに美しい。
彼女の整った見た目も相まって天使のように見えていたはずだ。
……手に持つ、アンドロイドの頭さえ無ければ。
無垢な瞳がアイへと向けられると同時に、彼女は手に持ったそれを乱暴に遠くへと投げ捨てる。
そして一瞬のうちにアイとの距離を詰めると、彼の眼前へと手を伸ばしていた。
コンポジット・インストール 若桜紅葉 @wakasakoyo
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