その3 届いた手紙
「マリウス」
「はい」
「お前に手紙が来ているぞ。
前国王陛下から・・・だな」
「ほんと!?」
僕は父上から手紙を受け取り、中を開く。
あの日から、僕と父上の関係が少し変わったのかもしれない。
なんとなく今までと違うな、っていうのは母上もセレクトも感じていたんだろう、
何かあったのかな?という顔でたまに僕と父上を見るけれど、
その変わった結果がいい方向だと分かったのだろう、
特に二人とも何かを言うことはなかった。
時折確認するように僕の断罪の出来事や、
記憶に残っていることを父上は確認しに僕の部屋に訪れる。
もちろん他の誰にも聞かれまいとするべく手を・・・というか遮音の魔道具を打って。
ネバデス・・・じいには話してもいいのではないかと思ったのだけど、
今は父上に任せよう、そう思い胸の内に秘めたままにしておこうと改めて決意した。
でも、なんだか父上に重荷をガンガン積んでる気がしてちょっと申し訳ない気分だったり。
さて、トムさんからの手紙には、
あの紫色の皮の芋の件が書かれていた。
エルデリラス男爵領の村で栽培が行われている甘芋という名前の芋があるらしい。
皮も紫色のため、それがそうではないか、ということだった。
もしそれが一致したものであれば
こちらにも種なり芋なりを送ってほしいと書かれていた。
甘芋・・・
甘いお芋だから甘芋、なのかな。
それにしてもこの世界なら甘味はけっこう大きなアドバンテージのはずだけど、
大々的に売ったりしていないのだろうか?
というかしていれば今頃誰もが知っている作物になってるはず。
なのに知れ渡っていないのは何か理由でもあるのだろうか・・・?
「前国王陛下はなんと?」
「はい、どうぞ」
「ん、読んでいいのか?」
「問題ないと思う。
というより父上のほうが必要な情報かもしれないし」
「・・・ふむ」
父上が僕の手紙を手に取り、読む。
そこまで長文でもないのですぐに読み終えられるだろうけど、
僕のほうを見て微妙な表情をしていた。
「甘芋、か」
「知ってたの?父上は」
「いや、知らん。
しかし甘い芋など食べるのに向かんのではないか?
塩をふっても不味いだろうこれは」
「んー・・・調理してみないと、
というより見てみないと何とも言えないかなぁ」
「ふむ・・・」
さてここで問題になるのは、エルデリラス男爵領だ。
確かここからそんなに遠くはない。
ただ、馬車で数日の距離はある。
気軽に行ける距離でもない。
「ひとまずその作物に対する書状をエルデリラス男爵へ送るとしよう。
幾つか都合してくれるかもしれん」
「あの父上」
「うん?」
「どうせなら直接見に行きたいのですけど・・・」
「ふむ・・・」
どうせならどう栽培していて、どれだけの栽培期間と適した栽培時期、
収穫に適したタイミングなどを直接農家の人に聞いてみたい。
そもそもそれを食べているのかどうかも。
「ではそれで書状を送るとする・・・が」
「・・・?」
「そうなると、まずお前の護衛を決めねばならんな」
僕の護衛・・・。
そういえば、僕にもセレクトにも護衛やお付きは存在しない。
アンジェに護衛騎士としてエレナさんがいたように、
レミエリア嬢にリーナさんがいたように。
僕やセレクトにも側仕えのメイドさんや護衛騎士が居てもおかしくはないのだけど・・・。
「でも基本的に僕もセレクトも外出する時は父上と一緒なんですよね」
そう、王宮へ出向くときも基本父上が一緒だ。
中庭では流石に一緒ではないけれど、それ以外は同行するため、
護衛騎士などが不要になる。
メイドなどに関しても、父上の側仕えが全部してくれてしまうので
必要を感じたことがなかった。
そもそも必要な身の回りのことは、基本的に自分たちでもできるように教育を受けているから、
必要ないといえばないんだよね。
「・・・本音を言えば、
もう少し外に自分から出ろと言いたいところなんだがなぁ」
基本的に僕もセレクトも屋敷に籠って勉強や稽古をする程度で外に出ない。
特にセレクトに至っては本の虫ですらあるために全然出てこない。
「ということで、だ。
お前の護衛騎士の手配をする。
よいか?」
「はい。
もちろん心強いので構わないのだけど・・・」
「・・・?どうした?」
「あんまり外に出ない主人を守り甲斐がないって投げ出されたりしないかなぁ」
「・・・」
その言葉に流石の父上も頭にチョップをかましてくるのだった。
「はっ!せやっ!!」
「また変な癖が出ていますよ!
もっと腰を落として!」
「はい!」
現在僕は日課である剣術稽古を付けてもらっているのだけど・・・
やはり剣の腕は全然上がらない。
しばらく素振りを見てもらいながら稽古を続けていると、
父上がやってくる。
「どうだ、マリウスの具合は」
「お疲れ様です旦那様。
えぇとその・・・ご子息様なのですが・・・」
「あぁ、いい。
才能を感じないのは私も知っているし
そもそもこの子自身がそれを理解している」
「あ、いえっ、それは・・・」
先ほどまで僕を鍛えてくれていた、
父上の領地を守る騎士団の団長さんが
苦笑いをしながら返答に困ってしまっていた。
父上の領地はけっこうな広さがあるため、それを守る騎士団が存在する。
もちろん各々の町や村には衛兵も存在するけど、
衛兵などでは対処仕切れない事案が発生した場合に、
騎士団が出兵し、その事案に当たる。
なので普段は何部隊かに分けて
領地内を数日かけての巡察をするのが騎士団の日々の役割で、
基本的に騎士団長さんは屋敷の側にある騎士団兵所に詰めている。
暇を見てはこうやって僕に稽古をつけてくれるんだけど・・・。
「なんといいますか、
ご子息様は妙なクセのようなものがあるようで、
そのせいでか全く剣術が伸びないように感じております」
「クセ・・・か」
何か思い当たるものはあるか?と視線で問われ、
少し考えてそういえば・・・と思いついたのでこくりとうなずく。
ただ、言葉にはしない。
というかできない。
それを理解した父上が、分かった、と頷き、
あとで僕と話をする、と言い残して教練場から立ち去っていく。
「えぇと・・・マリウス様、申し訳ない。
もしかして、叱られますか・・・?」
「え?
いや大丈夫だと思うよ。
多分クセについて話をすることになるだけだと思う」
「はぁ。
では本日の訓練はここまでということで」
「うん、忙しいのにいつもありがとう」
「勿体ない事です。
たとえ剣術の上達が難しくとも、
日々の稽古は裏切りません。
いつでも稽古はお付けしますので頼ってください」
「うん、ありがとう」
僕はそうお礼を言って立ち去る。
僕に才能というか、剣術上達が見込めないのは、
稽古を始めて少しして騎士団長さんが漏らした言葉で分かったことだった。
どうにも剣術が上達しない。
もちろん稽古による筋力とかそういうのは身についていると思うのだけど、
技というか、そういうのが上達がしない。
まぁ・・・僕自身別にいいかな、
って思っているあたりに大きな原因がある気がするけど。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます