その8 お沙汰が下される
「おい小僧、それは俺が悪いと、そういうつもりか?」
黙って聞いていた経理班長の男性が
僕を睨みつけながらそう凄んでくる。
「おい貴様、彼は」
慌てて騎士団長がそれを止めようとするけど、
それより早く僕が彼の方を体ごと向き直って真正面から対峙する。
「はい。
僕は少なくともそう思っています。
だって彼が正規の彼用装備、或いはそれと同等の装備であれば、
間違いなくこのような事故は起きえませんでした」
その行為の意味を察したトムさんは悪そうな笑みを浮かべ目をつぶる。
ルドルフさんは止めるべきか悩みつつも、
ひとまず見守る体制にしてくれたようで腕を組んで押し黙った。
そして。
「言っただろ。
たまたま装備に余裕がなかったとな。
余裕が1つでもあれば渡すにきまっている。
それが無いからその鎧を譲渡したんだ。
そこで起きた事故のことなど知らん。
そもそも貴様のような小僧がどうなろうと知ったことか。
もういいでしょう団長、戻らせていただきますよ!」
「いいえまだです」
有無を言わせぬように退出しようとする男性を止める。
ものすごい表情で僕を睨みつけ怒鳴りつけてきた。
「うるせぇぞ!
ガキがすっこんでろ!」
「僕が火傷を負わなかった場合、王子殿下が熱湯を浴びたことになる。
そうなれば処分ではすみませんね?」
言葉を止めない僕にいよいよ男性はこちらへと肩を怒らせて歩み寄ってくる。
流石にマズいとルドルフさんが止めようとするけどそれより先に男性が足を振り上げていた。
「うるせぇと・・・言っているだろうが!!」
「やめろ!!」
ニブい音が響き渡る。
ゴインッ、という、ニブい音が。
蹴りつけられようとした足は、
横飛に庇ってくれたランロークさんの身体で止められていた。
・・・重装甲の鎧の部分で。
「あ・・・っだあああああああ!?」
脛の部分で思いっきり打ったのか、足を抱えてうずくまり悶える男性。
経理班長だからか特に装備はなにも身に着けていないので思いっきりダメージが入っている。
あれは・・・すごく痛そう。
ある意味自業自得だけど。
「あ。そういえば名乗り忘れてましたけど、
僕はマリウス=バーナードっていいます。
一応侯爵子息です」
「一応も何もれっきとした侯爵家の嫡子じゃろうが」
「あいいいいああああ・・・いい!?」
痛みに悶えながら僕の名乗りを聞いて更に目を見開き、
更にそれを前国王のトムさんが肯定したことで
己が行った行為を思い出して顔色が赤色から青色に染まっていく。
ただの子供だと思ったらルドルフさんと同じ爵位の子供だったんだから、
そりゃあ蹴ろうとしてた自分の行動がどれだけマズかったか思い知るよね。
「マリウス坊、流石に今のは心臓に悪いぞ・・・?」
「ごめんトムさん。
それより、大丈夫?蹴られたけど・・・」
「だ、大丈夫です。
マリウス様こそ問題ありませんか?
その、火傷もそうですけど・・・」
「うん?大丈夫だよ。
ちゃんと治療魔法で治してもらったし、痕も残ってないから」
「そうですか・・・」
ランロークさんが僕の言葉に、
僕を庇うために横っ飛びで落下した横向き姿のままやっと苦悶の表情を崩すのだった。
その後、僕はトムさんと退席。
改めて騎士団と王宮のほうで話が付けられることとなった。
話の中で暴露された装備備品の不足は、
あの経理班長の男性や経理班の一部の人たちによる装備品の横流しが原因だった。
といっても騎士の装備をそのまま横流ししたところで使えないため、
装備のデザイン自体を発注の時点で変更し、それを売りさばいて私腹を肥やしていたそうだ。
当然その人たちは全員解雇され、更に賠償金も発生し罰も与えられた。
特に僕を蹴りつけたあの男性は、
蹴りつけ未遂の上に僕が受けた火傷の処罰も受けることとなる。
なお、その犠牲者ともいえるランロークさんは
無事に無罪放免・・・とはいかなかった。
実際にやらかしを起こしてしまった当人であったため、
騎士見習いとして認められるのが半年遅れることとなったらしい。
逆を言えば半年間で済んだともいえるんだけど・・・。
「納得いかないなぁ」
「仕方あるまい。
罰は与えねばならんじゃろう」
その話をトムさんに聞きながら、
畑仕事を手伝う・・・といってもじょうろで水を与えてるだけだけど。
アルフは最近サボり気味だった剣の訓練。
アンジェとセレクトは相変わらず淑女訓練をしていて僕1人だったりする。
「だってランロークさんは何も悪くないのに」
「いや、奴にも悪かった部分はあるにはあるんじゃ」
「え、どこに?」
「装備が無い事を上官に報告しなかった事じゃな。
今回の場合は団長であるルドルフにその報告がなかった」
トムさんが言うには、
やはり騎士たるもの常在戦場を常として心構えるのが当たり前。
であれば装備の不備があるなら真っ先に上官に報告するべき案件だという。
それにより起こる不利な出来事を上官は判断し、
装備の整えなおしや近い装備の購入を指示、或いは代理を立てるなどを指示する。
もしその上でランロークさんに変更なしで指示を出し、同じ事件を起こした場合、
その罰を受けるのは指示をした団長、ということになる。
「そっか・・・」
「ま、おかげで不正が発覚したんじゃ。
悪い事ばかりではなかったがの」
大きな手で僕の頭を撫でるトムさん。
僕のやけどと引き換えに騎士団の不正を暴けたのなら、
まぁ、悪くないのかな?
*** *** *** *** ***
ゲーム本来のキャラクター紹介
ここではお話の終わりにシナリオ内ではほぼ出てこない
本来のゲームでのキャラクターの位置づけなどをご紹介します。
興味のない方はぜひ飛ばしてください。
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名前:ランローク=ギルダーム
性別 男性
学園入学時年齢:20歳
ギルダーム男爵家三男で騎士見習いとして王宮に入っていた金髪の美丈夫。
その才能を見込まれアルフレッド王子の直属の護衛騎士として学園に入る。
しかし妹に色目を使ったなどという誹謗をマリウスより受け、
執拗なマリウスからの責めに耐えかね、
学園がはじまった半年後に護衛騎士を辞めてしまう。
後にアルフレッドに請われてマリウスの悪行などを影から調べ上げ、
アルフレッド王子へと報告した後、護衛騎士として帰り咲く。
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