07 入浴と考察

 やっちまった。最悪だ。

 いや、眺めは最高だったさ。


 でもこれ今後どうやって接して行けばいいんだ?

 誰か俺に教えてくれ。


 そう思ったまま額を床に擦り付けていると、ようやくドア越しに頭を上げる許可をいただけたので頭を上げる。

 良かった。風呂場の方にいるみたいだ。


 そしてくぐもった声が聞こえた。


「ふ、服は私が洗うから置いておいてもらえる?」


「そ、そうだよな。悪かった。まだ動作テストしてないから、ちゃんと使えるか分からなくて、そのことで頭がいっぱいだったんだ。断じてそういうことに使おうとしたわけじゃ」


「わ、分かったから。そのことは、もういいわ」


 言い訳みたいに聞こえたに違いないのに、許してもらえたみたいだ。ええ子や。

 こういうのは完全に男側が悪者にされがちだからな。良かったぜ。


「ところで、その、どうやって使えばいいの?」


「何が……ってそうか。知らないのか」


 と、若干上の空で答えて、あれ?となる。


 この場合どうすればいいんだ?

 俺はフツーに一人で使うために作ったからユーザビリティとかそういうのは全く考えていない。そう、全く考えていないのだ。


 それはつまり、チュートリアル無しでは使えないということで。

 ……。


 あーもう!しょうがねぇなぁ!!(自業自得)


「分かりにくいと思うから、もう今日は湯舟ゆぶねの方に入ってくれ」


「湯舟って……このお湯がたくさん入ったすごく大きなおけのこと?」


「……桶?かは分からんが、入って左手奥にあるやつだよ」


「……えっと、でも、私は、その」


「心配しなくても大丈夫だから。ただ、気になるってんなら、湯は入れ替えるから問題なしだ」


 そう言うと、少しの沈黙の後で。


「……私のために、ごめんなさい」


「あーいい、いい、謝らないでくれ。俺が何も考えずに作ったのが悪いんだ。それに……それならさっきのことと相殺そうさいに、は出来ないよな。まぁ、ちょっと軽くするぐらいにして、たっぷり楽しんでくれ」


 別に彼女のためってわけでもないし、ただ、後ろめたく思われるぐらいなら、図太ずぶとく楽しんでもらった方が助かる。そんなタマではなさそうだが、だからこそえてそんなふうに言わせてもらった。

 すると。


「ふふ、分かったわ」


 と、返事が返ってきた。

 ……少しでも心が軽くなったんなら良かったぜ。

 デリケートな問題だからな。ケアが大事。


 と、いうところで。


「……さてと、俺はちゃちゃっと湖で汗を流してきますかね」


 最初からそうすればよかったんじゃ?という意見は黙殺する。

 俺もいきなり居住メンバーが増えて動揺してるんだよ。分かってくれ。


 しかも女の子だぞ?

 しかも、裸を一瞬でも見ちまったんだぞ??


 動揺しなかったら男じゃないだろ。女か、心が女か、男が好きか……あれ?意外と例外多いな。まぁいいや。

 とにかく、予想以上に出る所は出ていて、腰がくびれていたことだけ、記憶に焼き付けた。眼福だった。ゆめにでそう。


 自作の風呂を最初に堪能できないのは残念だが、時間も時間だ。

 もう完全にとっぷりと暮れている。いい子は寝る時間だ。


 さっさとねたい、と思ったのは嘘じゃないし、別に明日でもいいや。


 そういうわけで、着替えを準備して湖に向かう。

 ちなみにだが、トイレも湖だ。さすがに屋敷から距離はとっているが。


 浄化の魔石が全てを解決する。チートとはこういうことを言うのだ。




「はふぅ……」


 思わず吐息が漏れる。丁度いい温度だった。こんな贅沢は中々味わえないだろう。

 かつての私でさえこれほど広いところに浸かることは出来なかったのだから。


 それこそ王族でもない限りは。


「……ふぅ」


 それにしても、彼は一体何者なんだろうか、と思う。

 これほどのものをすぐに作ってしまって、すぐに使用できるようにしてしまう手並みもそうだけれど。


 どこかの国の凄腕の魔導士なのではないか、あるいは突如異能をその身に宿した王族か何かか、とも思う。


 けれど。

 彼本人は至って普通だった。異性の……体を見れば赤面して顔を逸らしてしまうような、年相応の男の子。少し体は大きいが、それは特段珍しくはない。


 村人だと言っていたから、農村の出だと思うけれど、あれぐらいの体格は普通だ。というより、あれぐらいの体格が無いと農民などは大変だ。それぐらい、農民は過酷なのだ。だから、逃げ出してきたのだろうか。


 確かに、これほどの力があれば農村にいる必要は無いと思う。

 そこまで考えて、もしかすると、私と境遇は似ているのかもしれない、と思い至る。私も、経緯は違えど、かつていた場所にいたくないと思ってとび出してきたのだから。


 とめどなく、考えが頭をめぐり、はしから溶けて消えてゆく。


 それは、お湯を肩にかけ、顔にかけ、髪にかけて汚れを落としながら、その中に消えていく明らかに目に見えるあかみたいだった。


 ……ちょっと疲れているのかもしれない。あまりに品の無い例えだった。

 それにしても汚いわね私。こんなに汚れていたなんて。


 お湯に浮かんだ垢が溶けるように消えていく、このお湯も相当に不思議だけれど。

 ……どうなっているのかしら。浄化の魔石と言っていたけれど。


「……くんくん、特に何も臭わないわね」


 もしお湯がよごれないのだとしたら、けがれない液体など一つしかない。


「まさか、これ全部聖水なんてことは……まさかね」


 そもそも、聖水の製造方法は秘匿されているはずだった。

 それを作れるはずがない。と思うけれど。


「あり得ない、とは言い切れないのが……」


 それに、たしか、気になるんだったら入れ替えるとか言っていた。

 それはつまり、このお湯の作り方を知っているということで。


 ……私はそれ以上を考えることをやめた。




 俺は少し急いでいた。

 なぜかって?それは体を拭くためのものを置き忘れたからさ!

 

 今日風呂を完成させた弊害だな!!何も考えてなかった!!

 というわけで、現在、湖で体を綺麗にした後、着替えのシャツで上半身を拭いて上体半裸で急いで屋敷に戻っている所だ。


 といっても再び汗をかくのはゴメンだから、説明は端折はしょるが、見えないパンパンにふくらんだ動くエアマットに胡坐あぐらかいて座ってる。

 めんどくさいから、これからはエアボードと呼ぼう。


 ちなみにこれはnエヌ回目だ。最初を含めた数回は湖周辺の探索や、湖に危険性物がいないか確認する時に使った。加速は遅いが思ったよりスピード出るんだぜ?これ。

 でも今は勢いあまって土に転がるのは勘弁なので安全運転だ。そういうわけで少し急いでるってわけ。


 めいっぱい急いで、無事、彼女が風呂から上がる前に辿たどり着けた俺は、ミッションを完遂した。ちなみにタオルなんてものは無いので、裂いて布状にした俺のシャツだ。……これも早めにどうにかしないとな。でもアテは無い。


 無いから問題は明日の俺にパスだ。頑張れ、明日の俺。


 あとは、彼女が出るの待ちだが……もう寝そうだ。ねむい。


 俺は寝ぼけ眼を擦りながら、更衣室前で待つことにした。


***


 あっさり許したのは女の勘です。

 つまり、こいつと一緒に居れば安全確保できるはずという損得勘定ですね。

 これまでがこれまでだっただけに、なおさら、という感じです。

 彼女は強かな女なのです。


 それからまたランキングが上昇して2805位になってました。

 ありがとうございます。

 もっと面白くて分かりやすい話が書けるよう精進致しますので、今後もお見守り下さい。

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