第22話 押しに弱い話
母さんから送られたお見合い相手の情報というかプロフィール。
お名前は石川小次郎さん(29)
職業は会社員(運送業)
趣味はドライブ、旅行、読書
希望するタイプは優しい人。3~5歳くらい年下。仕事柄、土日や祭日に休みにならない事を許容してくれる人。
写真を見た限り、平均点より上の整った顔立ち。イケメンさんの部類です。
この顔、どこかで見たような気がすると思ったら・・多分、ゆーちゃんのお兄さんだよね?石川だし。
母さんに聞いてみると、やはり母さんのパート先の社員で、私と同じ歳の妹もいるって話しは聞いていたみたい。
母さんはゆーちゃんに会ったことあるけど、お見合いの相手と娘の友達が兄妹だとは気付いてないらしい。
確か、ゆーちゃんは三人兄弟。上にお兄さんが二人いたはずだけど、遊びに行った時にすれ違った程度で、顔はろくに見てないし話をしたことも無いので覚えていません。
親友の兄と見合い?もし結婚したらゆーちゃんと親戚?そんなのあり?そもそもゆーちゃんはお見合いの事知ってるのかな?
メッセージアプリを起動。
加 ゆーちゃん、お兄さん二人いたよね?
優 いるよ?どした?
加 もしかしてお兄さんかなって人の話を聞いて気になって。名前、小次郎さんだっけ?
優 そだよ。上の兄ちゃんが真一郎で二番目が小次郎だけど、どーしたの?
加 私の見合い相手の名前が石川小次郎さんだったから。
優 まじ?!
加 うん。ゆーちゃんも知ってるのかと思ってた。
優 知らないよ。ジロー兄は家を出てひとり暮らししてるから。
加 そっかぁ。同姓同名かな?
優 兄ちゃん以外の小次郎、会ったことない。
加 だよねー。私もないわ。
優 それより加奈のお見合いでびっくり。
加 親が話をもってきた。
優 イマドキお見合い?
加 うちの親はお見合い結婚だからさ。あんまり抵抗ないかも。
優 そっか。とりま兄貴に聞いてみるね。
加 うん。
優 教えてくれてありがと。
加 別人だったらごめん。
優 加奈が私の姉さんかぁw
加 やめてー
優 またね、義姉さんw
私がお兄さんと見合いする事をどう思うか聞きそびれたけど、ゆーちゃんなんか楽しんでそうな。まあ終わってからでもいいかな。
残念ながらゆーちゃんからの続報はお見合い開始まで届きませんでした。
お見合い当日、色々と悩んだけどワンピースとカーディガンという無難な衣装になりました。もともと手持ちはコレって服装もなかったので土曜日に購入したものになります。
割と有名なホテルのレストランをお見合い会場として予約しているとの事。お昼前に待ち合わせて顔合わせ、お茶しながら歓談ってな感じらしいです。
いわゆる家同士の許嫁とかじゃないし、今日はホントに顔合わせ、知り合いがひとり増えるような感じで良いらしい。
ただ、今後も交際するかは即日判断する。
知人としての関係を続けるか、知らない他人に戻るかは、ほぼ第一印象で決めなきゃいけないドライな世界。本気で結婚相手を見合いで探してる人はこの初日で好印象を与えなきゃいけないので大変。
見合いの成婚率は7%程度らしいです。10回やってもゴールにたどり着くのは一割未満の狭き門だったりします。
ひょっとしたら旦那様になるかもしれない人とこれから会うんだと思うと、さすがに緊張してきました。
「あの、予約している石川です」
「はい、石川様ですね、承っております。ようこそいらっしゃいませ」
窓寄りの座席に案内される。すでにお相手は到着されていました。
「あの、石川小次郎さんですか?」
「はい!・・石川加奈さんですよね」
「はい。初めまして、こんにちは」
敢えて初めましてを強調してみる。
「あ、ああ。初めまして。今日は宜しくお願いします」
少し戸惑った?素直に聞いてみるか。
「その、お名前でお呼びさせて頂いても宜しいですか?名字同じなので」
「は、はい。ではこちらもそうさせてもらいますね」
「えっと、小次郎さん。一応確認というかお尋ねしたいことがありまして」
「はい、何ですか?」
「私の同級生で石川優子という友人がいるんですが、ご兄弟だったりしますか?」
「あ・・あははは、バレてました?優子の兄です」
「やっぱり、そうだったんですね」
色んな偶然があるもんだ。とりあえず注文した紅茶を飲みながら色々と話す。実は会ったことが何度かあったらしいです。
「最初に加奈さんに会ったのは自宅。遊びに来てたでしょ」
「あれ?お会いしてました?」
「一応会釈しただけのすれ違いですけどね」
「それは失礼しました」
「あとはコンクールの時、片付けして優子と一緒に楽器運んでるトラック乗ってたでしょ」
「え、はい。良く知ってますね」
「そのトラック、自分が運転してたから」
「はぃ?!」
「加奈さんが悔しそうに泣いてたのを優子がなだめてたよね」
「あぅ・・そうでしたね」
後輩がいない所で泣いてたのを見られてたとは。
「あの時の泣き顔、忘れられないで覚えてます。青春って感じでしたから」
「いや、忘れてくださいよ」
「一生懸命頑張ったのが良く分かって、羨ましいって思いましたよ」
「まぁ・・頑張りましたから」
なんか、めっちゃ恥ずかしい。
「そんなニアミスを経て、今回改めて知り合いになれたのは、何かの縁ですよね」
「まぁ親がお世話になってる職場に、友達の兄さんがいるってのも縁ですね」
「自分としてはもっと加奈さんの事を知りたいと思っています」
「あ・・はい」
「すぐに彼氏とか婚約者になれなくていい。友達から始めてみませんか?」
「そういうのでいいんですか?」
「加奈さんはすぐに結婚したい?」
「いえ、正直言うと親の勢いに圧されただけといいますか」
「自分もです。その上で加奈さんとちゃんと出会えて嬉しいのは本心です」
「え、あ、はい」
「友人の兄ではなく、ひとりの男性として、加奈さんと仲良くなりたいです」
小次郎さん、ガンガンくるな。
「そういっても婚約者候補みたいな話ですよ?私でいいんですか?」
「自分は構いません、むしろ良いです。加奈さんはどうですか?とりあえずキープでいいですよ?」
「いやいや、そんなつもりじゃ」
「正直、妹からはめちゃくちゃオススメされたし」
「にゃ?!」
ゆーちゃん、何を話したんだい?
「とにかく自分は加奈さんとの事を真面目に考えたいです。次の機会を頂けませんか?」
「その・・がっかりさせるかも知れませんよ?」
「その前に自分が加奈さんに見捨てられそうですけどね」
「そんなことは無いかと・・」
「嫌われてはいないようで良かった」
少し照れたような笑顔が、ゆーちゃんに似てるなって思いました。
やってみてから考えたほうが納得できるし。ゆーちゃんのお兄さんだし。ぶっちゃけ第一印象はいいし。
断る理由が出てこない。
「とりあえず・・友達からお願いします、小次郎さん」
「こちらこそ宜しくね、加奈さん」
かくして私は小次郎さんの婚約者候補になりました。
婚約者候補という響き、なんか貴族っぽい?などと間抜けな感想を持ちながら、ゆーちゃんを問い詰めに行こうと思ったのでありました。
今は先送り出来ても友人のままではダメで、恋人にするかしないか結論出さなきゃいけないという前提がある相手。
私が誰かの人生に影響与えるような立ち位置になっていいんでしょうかね?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます