第19話 VS ゴブリン



「げぇッ!?」


 奇妙な声を吐き出して、ゴブリンが跳び上がった。すぐに奇襲を受けたと察したのだろう。ゴブリンはすぐに身体を反転させて、その手に持つ棍棒を振り回した。

 だが、反撃を予想し、すぐにその場を離れていた明には当たらない。

 明は、ゴブリンが棍棒を振り終えたのを確認すると、今度は包丁を腰に溜めるようにして構えて、一気に横薙ぎに振り抜いた。


「ぎゃっ!」


 刃はゴブリンの腕を狙い違わずに斬り裂く。

 しかし、包丁を振るったその手に伝わる手応えから、おそらくは腕を掠っただけだろうと察した。

 けれど、そんな攻撃でもゴブリンの気を逸らすには十分だったようだ。腕に走った痛みに顔を顰めたゴブリンは、数瞬の間、その動きを止めた。


 ――チャンスッ!!


 好機が訪れたと確信する。

 包丁を振るった体勢も整えないままに、明は全力で地面を蹴ると、ゴブリンに向けて身体ごと突っ込んだ。


「げぎゃッ!?」


 体格差のあるその衝撃を受け止めきれなかったのか、ゴブリンは悲鳴のような声を上げると、後ろへともんどり打つようして倒れ込んだ。


「ぎゃ、ぎゃぎゃ!!」


 そしてゴブリンは、声を出してすぐに起き上がろうと藻掻き始める。

 しかし、明もただその様子を眺めているわけではない。


「ッ、うらァッ!!」


 気合の声を上げると、地面に倒れ込むゴブリンの腹を思いっきり蹴りつけた。

 その衝撃で、ゴブリンの動きが一瞬だけ止まり、明はその隙に素早くゴブリンの上に馬乗りとなると、その手に持つ棍棒を力づくで奪い取る。


「ぎぎぃ!」

 すぐさま奪い取られた棍棒を取り返そうと、ゴブリンが激しく身を捩り抵抗した。


「……っ!」


 それを見て、明はすかさずその手の棍棒を遠くへと放り投げた。

 放物線を描く棍棒にゴブリンの視線が奪われ、一瞬の隙が生じる。



 明は、その隙を逃すことなく反対の手で握り締めていた包丁を固く握り直すと――、


「ッ!!」


 その切先をゴブリンの胸に向けて突き刺した。



「ぎ、ぎぃいいいいッ!?」



 硬いが、確かに肉を突き破るその感触。

 致命傷であろうそのダメージに、ゴブリンの口から絶叫が迸った。

 明は、ゴブリンの絶叫を耳にしながらも、さらにもう一度、その手に持つ包丁へと力を込めると、何度も、何度も包丁をゴブリンへと向けて振り下ろした。


「――ぎ、ぁ……」


 幾度となく胸を刺されて、赤黒い血が周囲に舞った。

 しかし、さすがはモンスターと言ったところだろうか。

 ゴブリンは身体をビクビクと震わせながらも絶命はせず、言葉を漏らしていた。


「――――――――ッッ!!」


 まさか、コイツは死なないのではないか。

 そんな言葉が頭を過るが、いやそんなはずはないと明は唇を噛む。

 ゴブリンの――モンスターの生命力が高いことは分かっていたことだ。

 ただ心臓を突き刺しただけでは死なないのかもしれない。

 そう、明は思い直して、改めて包丁の柄を強く握りしめて振りかざした。



「いい加減に、死ねぇぇぇえええええええ!!」



 叫び、明は全力で包丁を振り下ろす。

 振り下ろされた包丁はゴブリンの額へと吸い込まれて――――、ゴリッ、と骨を削る音を響かせながら頭蓋を割った。


「ぎ――――――」


 それが、致命的な一撃となったのだろう。

 悲鳴とも声ともしれない言葉を発して、ゴブリンの瞳がぐるりと白目を剥く。

 そして、今度こそ。ゴブリンは二度と動かず、その息の根を止めた。




 ――――――――――――――――――

 レベルアップしました。


 ポイントを獲得しました。

 消費されていない獲得ポイントがあります。

 獲得ポイントを振り分けてください。

 ――――――――――――――――――

 E級クエスト:ゴブリンが進行中。

 討伐ゴブリン数:1/100

 ――――――――――――――――――

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る