第19話兄弟も僕も
「なんですか?あなたも先輩の事呪い子って言うつもりですか?そんなの勝手に思ってろよ。あの人はそれだけじゃないって知っているのは僕だけで十分です」
そう言って、にらみつける。
ほぼ吐き捨てるように言葉を吐いた。
何が呪い子だ。
何が奴隷だ。
全部全部自分勝手で最低だ。
そんなもので先輩を縛ろうなんて傲慢だ。
先輩はそういう理不尽にずっと耐えさせ続けられて。
ずっとずっとあの塔の中で一人で耐えて。
僕がもっと強くなったら、こういう権力から立ち向かえるようになったら、そしたらこの国から連れ出せるのかな。
二人でそのままどこかへ行けるのかな?
そしたらきっと楽しいんだろうな。
そう考えてしまって。
「僕は部屋に戻ります。あなたは父さんと母さんの所へ戻ればいいのでは?」
「違う、俺は…」
何かを言いたげな美空を無視して、部屋に戻る。
お前の言うことなんて興味ないとでも言いたげに。
だって、美空もどうせあいつらと同じだろう?
そもそも僕らは今まで全く関わっていなかったのに。
今更兄面晒すんじゃねぇよ、なんて荒くなってしまった頭で思った。
そのままため息をはいてしゃがみ込む。
なんだか今日はいつもより疲れてしまった。
本当に。
手のひらを見つめると血が出ていて、包帯を作って巻き付けた。
あぁ、無駄な傷を負ってしまった。
先輩に聞かれたらなんて答えようか。
いや、そもそも気づかれないようにしてしまえば問題ないか。
そう自己完結してしまう。
「あの颯太そっくりの子、一体誰ですか?」
「あれは美空。…、双子の兄。昔から優秀って言われてた」
アテネにそう返す。
聞かれたことを事務的に。
双子の兄の美空。
僕とそっくりな顔をした兄弟。
違うところと言ったら目元くらい。
あいつの目はまるで猫のようで。
いつだって自信に満ち溢れていた。
少なくとも、僕が見ていた分には。
いつも家族から可愛がられていた。
いつも周囲に人がいた。
いつも笑っていた。
常に人気者だった。
常に楽しそうだった。
僕とは違って。
暗い部屋に一人追いやられた僕と全く真逆な人生を歩んでいた。
「何か言いたげでしたけど、聞かなくて良かったんですか?」
「どうせ先輩に対して否定的な事ばかり言うんだから、良いんだよ」
そうですか、とだけアテネが言う。
それ以上は聞いてこない。
美空とは幼い頃きりだった。
それも、ほんの少しの間。
僕の呪いは小さい頃から発動していた。
初めの頃はそのうち治るだろうと楽観視されていて、まだ城内を歩き回る事を許されていた。
結局は、先輩が治してくれるまで治らなかったけど。
僕の呪いが原因で引き離されて。
それきりなのだ。
それに対しては特に何とも思わなくて。
僕は美空にほとんど興味なんてなかったから。
ただ、鏡をみて、似ているのにどうして僕だけ醜いといわれるのだろうと疑問に思うくらいで。
そもそも、美空と僕は初めから全て違った。
生まれ持った才能も、呪いも。
周りの反応も、何もかも。
唯一似ているのなんて顔くらいだけど、僕は醜いといわれていて、美空は美しいと言われていたから。
だから、双子なんて言われても実感が湧かなかったし。
むしろ、嘘なんじゃないかと思っていた。
美空は自分から僕のところにくることはなかった。
一度も。
双子の兄弟なのに、と思ったこともあったが、仕方ないかと思っている自分もいた。
今じゃ、会話なんて一言も交わしていない。
交わす必要もないけれど。
同じ学校に通っているのに。
学校ではまるで他人同士みたいになっているくせに。
なのに、このタイミングで話しかけてきた。
久しぶりにあいつの声を聴いた。
僕より少し低めの声。
何がしたいのか正直わからない。
しかも内容は先輩についてだし。
けれど、悪意のある可能性が少しでもあるのなら。
先輩に対する敵意を少しでも抱く可能性があるのなら。
先輩を傷つけるようなことをいうのであれば。
話す価値がない。
というか、話さなくて良い。
話したくない。
言葉も交わしたくないし、顔も見たくなくなる。
一応双子の兄弟なのだから。
殺意も抱きたくないし、無駄な争いもしたくない。
だったら無理やりにでも会話を終わらせた方が得策だ。
「家族なのに冷たいですね」
「家族。ただの血が繋がっただけの関係だ。それだけの道具さ。道具に何とも思わないでしょ?それと一緒だよ。王族にとっての家族っていうのは」
王族にとって子は、権力拡大の為の道具。
それ以外なんの意味も持たない。
大切、だとか愛おしい、だとかそういう感情なんて、持っていない。
きっと、僕が死んだとしても涙一つ流さずに業務に戻るだろう。
せいぜいそのくらい。
美空でもきっと同じだ。
その王の姿を見て、王座を狙う子供は、自分の売り込み方を考える。
どれほど冷徹な人間になれば王座を狙えるのかを学習する。
父親の動きを見て、このような戦略でいけば良い、だとか考えたり。
僕の父と母は権力に飢えている。
王座への執着心に関しては歴代一位なのではないだろうか。
その為に子供を大量に作り、なんなら養子も貰い次々に輩出しているのだから。
どんな出自であろうが、王族が独占している高等技術にかかればあっという間にどこの社交界に出しても恥ずかしくない人材に仕上がる。
だからきっとなりふり構わず貰ってこれるのだろう。
今は子供を新しく貰ってきて教育、というより美空を仕上げる事に集中したいから。
だから僕に縁談が流れてきたのだろう。
まず、前の王…。
父の兄であり、前勇者が再起可能となれば、父の時代は終わるだろう。
前勇者は珍しく人格者だった。
まるで先輩のような。
優秀で、優しくて、でもっておっちょこちょい。
国民皆から愛されていた。
そんな彼は、事故に遭い、一人息子を亡くした影響で再起不能となっている。
寝たきりの状態になっているそうだ。
だから今のうちに他国に根回しをし、地盤を固めるのだ。
彼が弱っているうちに。
王の地位を奪われたとしても重要なポジションにいれるように。
周囲の国の意見があれば彼は簡単に聞くから。
その為に、子供を他国に送っている。
次から次へと。
あの国が権力を持ったと聞けばすぐに送る。
そんな感じ。
逆に落ちぶれた国には興味がないようで。
どれだけ助けを求められても救うことはない。
ただ強国に対しては媚びを売る。
縁を結んで親族となればより深く関われるから。
兄達は美人が好きだから、相手が美人と分かればすぐ結婚した。
顔にしか興味がないから。
人間の中身なんてものはどうでも良くて。
ただ美しいものをめでていたいという感情の方が大きいようだ。
結婚、と言っても形だけで。
そりゃあ当然だろう。
お互いがお互いの事に興味ないのだから。
実際は遊び歩いているようで。
王族間で火消しが激しいようで。
本当にご苦労なことだと思う。
夫婦関係なんてものは破綻している。
あちらはメイサイ王国の名声が欲しくて。
こちらは縁が欲しくて。
たったそれだけの利害関係の一致で結婚を決めたのだから当然の結果だと思う。
愛し合って結ばれた訳ではなくて。
ただお互いを食い合っているだけで。
結婚のときの誓いの言葉なんてただのお飾りだ。
けれど、前王夫妻が互いに愛し合って結ばれていて。
国民もそれが至上の形と定めていて。
そういう面倒くさい世間があるから。
だから世間体だけは取り繕っている。
徹底的に隠している。
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