おかしな屋敷のテイルテイル
第13話 骨男のダウト
目が醒めて初めに感じたのは、寝すぎて逆に眠いという感覚。その次に自分は誰で、なぜ見知らぬ墓に居るのかという疑問。最後に猟銃で体を撃ち抜かれたことによる激痛だった。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!! ホ、ホネェェェェェェェェェェ!!!」
ズドン ズドン ズドン
ヒステリックに叫び散らしながら手に持った猟銃を吹かすお爺さんに、墓から這い出たばかりの骨男は「溜まったものじゃない」と一目散に逃げた。そして、そのヒョロヒョロな足で小さな農村中を走り回り助けを求めたのだ。 ……しかし出会う人その全てが、お爺さんと同じく実に取り乱したものだった。
木こり斧、ノコギリ、聖水、モーニングスター、
まっとうに
それでも持ち前の陽気さと器用な手先を駆使し、ほどほどに優雅な生活を何年か送り……そしてある満月の晩、この夜汽車に飛び乗ったのだという。
シェーデルは、白く角張った骨指をピシッと伸ばし、シシュウが両腕に抱え込んだカードを差した。
「そんで、シュウが汽車に乗ってきて今に至るわけヨ……その3はダウト」
「そ、そうか。猟銃か。お前もいろいろと大変だったんだな……4。シェーデルの勝ちだ」
「ヘヘ。オイラも大概だけどヨ、シュウだってその姿じゃ苦労しているだロ?」
「いや俺は……元の姿に戻っても戻らなくても、もうどっちでもいいんだけど……ところでさ」
「なんダ? 2人でダウトしても互いのカードがスケスケなんてのは野暮だゼ?」
「まぁソレもある。ソレもあるんだけどさ」
ガタン ゴトン ガタン ゴトン ガタン ゴトン
ガタン ゴトン ガタン ゴトン ガタン ゴトン
ガタン ゴトン ガタン ゴトン ガタン ゴトン
「…………」
「なんだヨ」
「なんで俺、汽車に乗って骨とトランプしてるんだ……?」
「ヘヘヘ。どこの馬の骨とナ」
「んな面白くないって」
下アゴをカラカラ振るわせつつ、シェーデルが笑う。弾みで真っ黒なテンガロンハットが頭から落ちそうになっていたが、この骨は気にも留めないようだった。シシュウはその様子を見つつも、しかし頭の中に思い浮かべだのは。
『私、サキュバスなんだよね』
…………。
サキュバスは男を誘惑して、夢を魅せて、精気を吸い取る存在だ。路地裏で男に跨り、
そしてその路地裏のサキュバスこそが……ハルシネ本人だという。
その事がショックで、シシュウはまた逃げ出してしまった。小さな歩幅でグラつく車内通路を駆け、貫通扉のレバーを自重でなんとか下ろし、勝手の分からない汽車の中を彷徨って……シェーデルと出会い、今に至る。
新たに手渡されたトランプをせこせこと数字順に入れ替えながら、シシュウはため息を吐いた。
「こんなことしている場合じゃないってのに……」
「トランプは嫌いだったカ?」
「そうじゃなくて。 ……すまん、ちょっと今参っているんだ。自分でも今の自分の気持ちが、あまり分かっていなくて……」
「そのハルシネって奴がサキュバスだったからカ? ……人外種族は怖いカ?」
「それ、は」
おもむろに顔を上げると、ブカブカの革ジャンの腕を組み、こちらを見るシェーデルがあった。 ……いや、眼球がないから見ているかどうかはイマイチはっきりしないのだが。たぶん見ている。
シシュウが答えに窮していたところ、シェーデルは自身の喉元あたりをスカーフ越しにさすりつつ「ヘヘ」と笑った。
「じゃあこれならどうダ。もしハルシネがサキュバスじゃなくて肉と皮で変装したガイコツだったなら、シュウは逃げ出したと思うカ?」
「なんだよその仮定は……さぁ、逃げたんじゃないか?」
「ダウト」
「え?」
シシュウがつい先ほど場に出したカードをシェーデルがめくる。そして、場に出ていたカードの全てがシシュウの方へと寄越された。
「こうやってオイラとトランプしているコトが一番の証拠ダ。オマエは他者を種族で判断する奴じゃナイ。つまり、サキュバスという種族だからオマエは逃げた訳じゃナイ」
「シェーデル……」
「骨男とこんな簡単に打ち解けられたんダ。ちゃんと話し合えば、訳無いだロ」
「……ありがとう、少し元気出たよ」
「へへへ、別にいいんダ。なにせ、先に貰ったのはオイラの方だからナ」
「……? 貰ったって、何を――」
その言葉の意味をシェーデルに尋ねようとしたその時だった。突然、車内灯の光が何かに遮られたように視界へ影が落ちたのだ。シシュウはフッと視界を見上げる。そしてすぐに目を細めた。
「あんた……突然現れることしか出来ないのか?」
「フフフ。申し訳ございません、シシュウ様。シェーデル様と楽しそうにお話しされていたものですから」
「答えになっちゃいないんだけど……えっと、ハルシネはどうしてるんだ?」
「先ほどお部屋の方へ戻られましたよ」
「部屋、があるのか」
「寝台列車でございますからね。他にも生活を送るうえでの設備を施しておりますが、ご案内致しましょうか?」
そう言って駅員の男は朗らかに笑う。なんとなく鼻につくというか、やはりきな臭さは感じるのだが、その提案自体は悪くないように思えた。 ……ハルシネと会うには少しだけ、心の準備が欲しかったから。
「駅員さんヨ。オイラもついていっていいカ?」
「ええ。もちろんでございますよ」
「ほらシュウ。体貸せヨ。運んでってやル」
「ああ……すまない。助かるよ」
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