第25話

 その場から音が消えた。永遠ともとれるような沈黙を破ったのは、ほかでもない犯人だった。


だよ」

「知りたかった……?」


 冬夏くんがオウム返しをする。


は結局、動機を語らなかった。こちらがコンタクトを取ってもなにも、ね。僕はさ、どうして自分が通り魔に巻き込まれたのかがずっとわからなかった。なんで見ず知らずの人に傷つけられて、奪われたんだろうって。調べても、考えても、しっくりくる答えは」


 吉永さんはそこで言葉を切った。彼女がどういう表情をしているのか、私には読み取れない。それでも、その声は空気を求めるように苦しかった。


「わからなかった。当然だよね。犯行の動機なんて、犯人しかわからない。その結論に至ったから――『なぜ』通り魔を起こすのかを知りたかったから、犯行を起こした」


 これで答えになってるか、と吉永さんは問う。

 吐息が手のひらに当たってこそばゆい。知らず、私は口を手で覆っていた。今まで聞いてきたどの犯行動機よりも理不尽だった。


「そんな」言葉を選ぶ余裕もなく、嫌悪感を吐き出す。「そんな身勝手な理由で?」

「身勝手? おかしいな、きみも僕もやってることは同じだよ。貪欲に解をりたくて、どんな手段を使ってでも答えを得たくなる」


 ほら、違わないだろう、とわがままを言う子どもに言い聞かせるような口調で、吉永さんはそう言った。

 私は私自身にある空白の、吉永さんは浮かんだ疑問の、けじめをつけたかった。万策が尽きれば、私も同じように人殺しに行きついていたとでも言いたいのだろうか? ……絶対にという言葉をつけられるほど、私は自分に自信は持てない。

 私がいきついた結論を悟ったのか、吉永さんは声を上げて笑った。


「さて、僕は僕の目的を果たそうかな」


 その不吉な発言で目が醒める。吉永さんの目的はいまだにわからない。けど、彼女の言葉には殺意が乗っていた。


「吉永さん! 待って――」

「――この殺人は、あいつに捧げるよ」


 恋人に愛を囁くような甘い声色で、吉永さんはそうささやいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る