最近、 自分の運勢を見た
ソファに体を預けてぼーーっとしていた時のこと。深夜。
そのまま寝落ちてしまう誘惑に上瞼だけが必死に抗っていた。さりとて指一本も動かせない。動かさないのではなく、もはや動かせないほどの微睡みの中にわたしはいた。
ソファでさえこうなのだ。炬燵なんか買っちまったら一体どうなってしまうのだろう。人間としての矜持を保つためにギリギリのところで「買わない」という選択に踏みとどまれている。でもそろそろごまかしが限界かもしれないな、とテレビ画面をねめつけた。この時期の番組ではやたらと炬燵が目につく。
いいなぁ、おこた。おこたがあれば少し寒い部屋で絶望級に眠いというちょっとした危機を味わわなくて済むだろうなぁ。寒いな今日、このままだと風邪引くだろうなぁ。いいなぁ、おこ、た…。
もはやこれまで、と瞼が完全にくっつきかけた正にその瞬間、わたしの日常では出さないであろう賑やかな歓声が幾重にも重なって耳に届いた。スンっと少し息を吸い瞼を薄く開く。背もたれに頭を乗せたまま、音のする方向であるテレビへ視線を見下ろすように戻した。
『2024年の運勢占いランキング!!!』
ほう。
わたし自身は占いにすこぶる疎い。正直そこまで信用していない。
朝のニュースで毎朝流れる星座占いも、目にしているはずが電車に乗る頃すでに結果を忘れていることが多い。だからこの番組も前のめりになるでもなく溶けた姿勢のまま見始めた。
興味を少しでも引かれたのは、恐らく2023年に身体の調子を信じられないほど崩したからだ。今年はもう少し健康運が高くあれ。
星座と血液型を掛け合わせた占いだった。つまり「第△位は◯◯型で◯◯座のあなた!!」となる。48通りだ。
さて番組は流れるように進んでいく。一つ一つの結果を開示していてはあまりに時間がかかるため、番組出演者が該当した結果のみ深掘りされた。残りは表にまとまり、せーのでドンだ。
まずは47位~40位。なるほど最下位はとっとくタイプね。1位と合わせて発表する形式だ。天国と地獄の時間。
つぎに39位~30位。昨年を振り返り、自分はこの辺りが妥当かと思っていたのだが、呼ばれない。該当したタレントさん達の微妙な表情をただ眺める。
そして29位~20位。ちょうど折り返しだなぁ。仕事や対人関係について、などピンポイントな相談が改めて占われる。タロットカードかわいいな。自分はまだだなぁ、
これは。
さらに19位~10位。・・・?見逃したのかと思い、開示済みになったランク表を前のめりになって探すが見当たらない。まだだというのか。
これは、もう間違いないのでは。
とうとう9位から4位。刻むね。とはっきりと独り言が口から出る。もうここまできたら間違いない。
もう、絶対最下位であろう。自分のことだ、自分が一番よく分かる。最下位だ。
3位。もういいよ。
2位。もういっそ一息に言ってくれ全部。
そうぶつぶつ言いながらも、わたしは両手をいつの間にか組み、画面に見入っていた。
さぁこい。「やっぱりな!」と言う準備はとっくに出来ていた。
『では最下位と1位はこちら!!!』
緊張の一瞬。
両手のこちら側から恐る恐る画面をゆっくり見越した。
「は、」
1位である。
あまりの結果に呆けてしまったが、次の瞬間には組んでいた両手そのままに立ち上がっていた。
これはこれは、なんと。
わたしの功績でもなんでもないが、ゆったりとした手つきで大仰な拍手を響かせた。
わたしが占いにさして興味を持てなかった本当の理由。
占う方法や人によって結果なんていくらでも変わるのではないかという疑念もあるが、それより、これまで目にしてきた占い結果がどれもパッとしないものの連続だったからだ。世界のそこここにいる同じ運勢の方には申し訳ないが、しかしわたし自身に関して言えばどのタイミングでどんな方法論の占いだったとしても、すこぶる悪いか中の中くらいかだった。
それがどうした2024。幸先いいな2024。48分の1位はすごいんじゃないんですか2024。
ここにきて見間違いでは無かろうなとテレビ画面に向き直った。よしよしやはりそうだなと安心した次の瞬間。
番組が終わった。
両手を不自然に広げた姿勢で固まる。
いくら出演者に該当者がいなかったとはいえ幕引きを急ぎ過ぎてはいないか?せっかくの48位と1位。もう少し堪能させてくれたっていいじゃないか。もう少し詳しく教えてくれたっていいじゃないか。本当に幸先いいのか2024。
ふと、よぎる。わたしは幸運が舞い込むと、他の、もっと運が必要でもっと切迫した場面のために貯めておきたくなるのだ。運を。
もし仮に、連続して「運が良い」と思う出来事が発生した場合、肝心な時に運が尽きるのではといういらぬ心配でストレスを感じたら悲しい。悲しいがそういう未来が見える。
素直に幸運を享受しろよわたし。
今年は幸運が、情緒が安定しなさそうで、怖い。
しかし消化不良で番組が終わってしまったことと言い、そこまで急激な運気上昇はないようにも思う。まぁどうせ番組が続いていたところで幸運への対処法なんか教えてくれる訳がないし、いいか。
テレビを消しリモコンをソファに残して、やっとベッドへと向かった。
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