あの日 Side涼1(中学生)
あの日は朝から最悪だった。
「え!?どこ?⚪︎×駅って言ってたよね?」
私は中学から始めたバスケの練習試合の為、他校に向かっていた。
『⚪︎×駅で降りて、中央改札を出てまっすぐ――』
「え!?駅前集合じゃなかったの!?」
『学校集合って言ったじゃん』
駅前集合かと思っていたら、学校が集合場所だったらしい。いや、駅前集合って言ってたじゃん。などと今更言っても遅い。とにかく、急いで学校に向かわないといけない。
「それでどこ?⚪︎×学校って…」
学校集合なら前もって場所を調べておいたのに、今から調べるには時間がない。集合時間も迫っている。
『だからー中央改札を出てまっすぐ行ったらバス停あるでしょ?それに乗って』
「どこ行きのバスなの?何番?わからないよ……」
駅前のバス停は色んな行き先のバスが集まる場所でバス停の看板も何個も存在する。それの何番のバス停でどこ行きなのかわからなければ、間違ったバスに乗ってそれこそ集合時間に間に合わなくなってしまう。
同じバス停でも行き先が全然違うなんてよくある話だ。
『何番とかわかんない。なんで親に送ってもらわないのさ』
この子はどうやら親に送ってもらった子らしい。私は母子家庭な上に、今日も母さんは仕事で喫茶店を営業している。
『あ、先生来たから聞いてみる――』
プツッと音がしたかと思えば通話が切られた。
いやいや、通話まで切らなくてもいいじゃん。急に不安になってくる。時間に厳しいバスケ部顧問の先生は集合時間に遅れたなんてことになれば必然的に試合には出られなくなってしまう。
「あーくそっ!」
携帯を見つめて悪態をついた。
交番に行って場所を教えてもらうか?交番の場所もわからないけど……
初めてくる場所は新鮮だが、急いでいる時には不安になる。もう少し時間に余裕を持って家を出るべきだったと今更後悔をする。
中学のジャージに試合のユニフォームが入ったリュック。昨年、中学入学した時に買ってもらった携帯で、⚪︎×学校を検索する。ここからでは歩いて行くには少し距離がありそうで、バスだと……これか?なれない携帯の操作、検索の仕方もこれであっているのかわからない。というか学校これで合ってるのかな?
リュックから練習試合についての紙を取り出した。地図は簡易的、これを見たところで学校なんて辿り着けやしない、棒が何本も描かれただけのように見えるし全く意味がわからない。もう少しわかりやすく書けよ。
紙を乱暴にリュックにしまっていると、ある事に気づいた。
「最悪だ……」
家にお守りを忘れてきた。
ただのお守りなら別に忘れたところで問題はないんだけど、最近半ば強引に付き合う事になった彼女から持たされたものだ。
同じバスケ部の先輩で今日の練習試合も一緒に出る予定ではある。同じお守りを持って頑張ろうねと言ってきた彼女から持たされた物を家に忘れたとバレたら……
少し束縛がありそうな彼女は割と可愛い感じの子だ。バスケも上手くバスケ部の副キャプテンを務めていて、後輩からも慕われている。
強引に迫られて付き合う事になったのが先月、前から好きだったと告白され私はそういう気持ちはないと断ろうとしたけど、目の前で大泣きされ、好きな子がいないなら試しに私と付き合ってと泣きつかれた。
女の子だからダメとかではなく、気持ちがないのに付き合うという事に躊躇いがあった。
「どうしよ……」
忘れたのは仕方ないとして、彼女のフォローに頭を抱えた。
大きくため息をついていると、しゃがみ込んでいた私の頭上から声がかけられた。
「どうしたの?」
声がした方を見上げれば1人の女の子が私を上から見つめていた。肩まであるふわふわとした茶色い髪が朝の日差しに照らされ、柔らかい風が通って髪が揺れている。女の子が揺れた髪を手で押さえて耳にかけた。
「あ、いや……」
「ここら辺の学校の子じゃないよね?どこか行くの?」
優しい声音で話しかけてくる女の子は目線を合わせるようにしてしゃがんで聞いてきた。
しゃがんで近づいた顔を見れば、高校生くらい?かな?大人びた雰囲気があって落ち着いている。大きな色素の薄い茶色い瞳が私を見て柔らかく微笑んだ。
「あの、学校。⚪︎×学校に行きたくて」
「あー、あそこね。でも、ここからだとバスに乗ってそこからまた歩く感じになるんだけど……」
人差し指を顎に当てて、小首を傾げた。
可愛らしい仕草をする人だなと感じていると、彼女がそうだと手をポンと叩いた。
「よかったら私が学校まで送っていってあげる」
「えっ!?いやいや、行き方教えていただけたら十分なので!!」
「大丈夫!大丈夫!」
「でも、あなたも何か予定があるんじゃないんですか!?」
私の手を掴んで立ち上がった彼女はちょっと眉間に皺を寄せてうーんと唸った。
「予定あったんだけどねぇ。彼来れなくなったとかでドタキャンされちゃったんだよね」
「か、彼氏さんですか?」
「そう」
そう言って私の手を引いて歩き出した彼女はロングスカートをふわりと揺らしながらバス停の方へ向かっていく。
「こんな可愛い彼女さんをドタキャンなんてもったいない人……」
つい口からポロッと出てしまって慌てて、繋がれていない方の手で口を覆った。
「………ありがと」
驚いたように振り返ってきた彼女は、私を見て照れたように笑った。
笑顔がすごく可愛い人だなって思った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます